第4話 手動起動型爆発系罠I

 《侵入者三名が罠部屋トラップルームへ侵入した事を確認。手動起動型爆発系罠IアクティブボムトラップIを起動》


 手動起動型爆発系罠IアクティブボムトラップI

 それは、現状ダンジョンコアが生み出せる最も高威力な手動型罠アクティブトラップである。

 しかし、飽く迄それは現状の話であり、爆発系罠ボムトラップとしては最低威力且つ最低範囲攻撃に分類される。


 しかし、テラスの祝福を受け取っていないレベル零の子供たちには、それだけで十分であった。


 ──突如、部屋中に轟く爆発音と渦巻く黒煙、そして急速に拡がる炎と熱気。


 声すら上げる暇無く、子供たちは息絶えた。


 黒煙が消えた後には、炭化した死骸が三つ転がっていた。


 《侵入者三名の死亡を確認。ダンジョン権能を行使、対象の記憶を開示。同時進行で記録を開始》


 ダンジョンコアがそう言うと、三つの死骸は白亜の地面に溶けるようにして呑まれていった。

 ダンジョンコアが子供たちの解析と分解、情報の複写と複製を行う。

 ダンジョン権能とは、それらを含む、ダンジョンコアが行使出来るダンジョンへの干渉行為を指す。


 《対象の記憶の開示に成功。 ⋯⋯記録の複写に成功。ダンジョン権能の行使を完了》


 ダンジョンコアがダンジョン権能の行使を完了した。

 ダンジョンコアは、子供たちの記憶にある限りのダンジョン外部情報を得ることに成功した。


 ダンジョンコアは、己の中に流れ込んできた情報を吟味し、最優先事項と優先事項を割り出した。

 

 先ず、最優先事項は、子供たちをそれぞれの保護者のもとへ返す事。

 これが出来なければ、子供たちの捜索へ、保護者、通報を受けた警察官延いては警察署が乗りでてきてしまう。そうなると最早ダンジョンが見つかるのは時間の問題だ。監視カメラ等を用いれば更に用意に事は進むだろう。

 そしてなにより探索者協会が出てきてしまうのが、一番の問題だろう。

 祝福者でも探索者でもない子供たち三人を始末するのが限界の現状では、五級探索者一人ですらまともに相手取れずに攻略されてしまうのは火を見るより明らかだ。


 兎にも角にもダンジョンコアには時間が必要だった。


 《記録より対象セナ、コウスケ、シュウイチロー、以上三名の複写を使用》


 《複数同時作業程式を起動》


 《ダンジョンより三名の死体に複写を付与》


 《ダンジョンより三名の複製開始》


 《複製率十パーセント⋯⋯二十パーセント⋯⋯三十パーセント⋯⋯》


 《複製率九十パーセントに成功。一部記憶を消去した後、複製完了。複製を終了》


 《複数同時作業程式を停止》


 全ての作業を停止した時、そこには三人の子供たちが立っていた。

 それぞれがダンジョンの中に入る前までの姿だ。


 本来は、子供たちの死骸を媒体に安いコストで魔物を召喚しようと考えていたダンジョンコアとしては、死体を使用しての複製は苦渋の決断であったが、背に腹はかえられない。

 しかし、ダンジョンコアも、ただ自らの保身から複製をした訳では無い。十分な打算はある。


 子供たちに細工が加えたのだ。


 細工というのは、情報の報告だ。

 子供たちは、無意識のうちに、定期的にダンジョンを訪れ、外部情報を齎すよう脳味噌に細工を加えた。

 更に、子供たちが第三者を認知している状態で、何らかの形でこのダンジョンの存在が第三者に暴かれそうになった際、若しくは、このダンジョンへ子供乃至ないし第三者が、直接的又は間接的に危害を加えようとした際、その第三者の目の前又はその場で自死させるようにした。


 前者では、第三者に社会的地位の低落を与えることが出来る。

 人間は良くも悪くも集団で生きる生物だ。よって、集団では強く、個では弱い生物である。

 目の前で幼子が死ねば、その人間への風評被害は計り知れない。受け取る情報ならともかく、与える情報に真贋判定は必要ない。それが敵へなら尚更である。


 そして後者は、このダンジョンの安全期間が長引くと同時に秘匿性が保たれる。

 一石二鳥も三鳥もリターンが望める細工だ。


 個に強く、集団に弱い。その逆も然り。


 臭いものには蓋をする、弱肉強食、盛者必衰。これらは人間の性だ。



 ダンジョンコアは、着実に人間という生物を理解しつつあった。

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