第2話 起動
《生命反応を検知。■■■を起動します》
其の日、都内に存在するとある寂れた公園の中で、新たなるダンジョンが起動した。
《生命反応──侵入者一名を確認》
《殲滅程式起動》
《脅威度及び推定レベルの確認──推定レベル零、脅威度低》
《殲滅程式を停止。捕縛程式を起動》
其のダンジョンは、従来のダンジョンと異なり、
侵入者の存在を確認すると、殲滅行動を取ろうとしたが、脅威度とレベルの低さを確認すると、捕縛行動を取った。
──ダンジョン外部の情報を手に入れる為だ。
「うわぁ⋯⋯! すごーい、ひみつきちみたい!」
侵入者はまだ六歳にも満たない子供だった。
当然である。このダンジョンの外は寂れているとはいえ公園だ。この歳の子が居ても何らおかしくは無い。
そして、この歳の子が、初めて見る不思議な空間を前に、何の危機感も持たず足を踏み入れてしまうのも何らおかしい事では無い。
「うわぁ⋯⋯! 綺麗なビー玉! でもちょっと大っきい?」
このダンジョンは未だ起動直後であり、時間も魔力も何もかもが足りていない。
部屋や廊下は疎か、入口を塞ぐ扉すら設置されていなかった。
その為、この幼女は、まるで散歩をするが如くの勢いでダンジョン最深部へ到達してしまった。入口から直通の部屋なので三十秒も掛からなかった。
「これ持って帰れるかなぁ? あ、でもお母さんが石は持って帰っちゃいけないって⋯⋯うーん」
《魔力不足により捕縛程式停止。侵入者の言語理解を優先。言語理解程式を起動。 ⋯⋯言語理解度一パーセント》
「わっ! 喋った! うぅん? でも分かんなかった! もっかい!」
《言語理解度二パーセント》
「うぅん? やっぱり分かんない⋯⋯セナ頑張るもん! もっかい!」
《言語理解度三パーセント》
◆
《言語理解度九十九パーセント》
「もーう、ビー玉さんちゃんと喋って! 全然分からないでしょ! もーう、セナもう帰んなきゃ、お母さんに怒られちゃんから。でも明日も来るからね! ばいばいビー玉さん!」
《言語理解度百パーセント。言語名──日本語の学習を完了。言語理解程式を停止します》
ダンジョンコアの日本語の学習が完了すると同時に幼女は帰ってしまった。
これはダンジョンコアにとって少々誤算であるが、最後の明日も来るという言葉は理解出来たので、問題は無い。
《魔力不足問題の解決を優先。──龍脈の探知を開始。 ⋯⋯龍脈の存在を確認》
《龍脈との接続を開始。 ⋯⋯失敗。再度開始。 ⋯⋯失敗。 再度開始。 ⋯⋯成功》
《龍脈との接続を完了》
ダンジョンコアは、龍脈との接続を果たした。
龍脈とは、大地のもとに存在する大いなる力の流れである。
ダンジョンコアはその龍脈と接続をすることで、力の一部を流用することが可能になる。
龍脈に流れる大いなる力は強大で神秘的だ。今回の場合は、魔力と呼ばれる力を引き寄せる事になるが、場合によっては、全く別種の力を引き寄せることも出来る。
龍脈とは全ての力が収束した場所だからである。
《龍脈より魔力を流用。著しい魔力不足を解決。魔力を使用し、ダンジョンの改装を開始》
ダンジョンコアはダンジョン内の改装を始めた。
先ず初めに、外部生物から身を守る為、入口に簡易的な両開き扉を設置した。
次に、ダンジョン最深部へと直通だった通路を変形させ、更に通路と部屋を一部屋追加したことにより、小さな迷宮を完成させた。
迷宮とは言ったものの、その実それは、トウモロコシ畑の迷路よりも安易なものである。
ダンジョンコアは、更に改装を進めようとしたが、魔力が底を尽きてしまった。後は再び龍脈からの魔力供給で地道に魔力を貯めていく他ない。
それに明日は様々なものが一挙に手に入るのだ。今日はこの程度で我慢しよう、とダンジョンコアはその淡い黄色の上に、無機質ながらも仄暗い笑みのようなものを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます