第18話 懐かしき元上司
――テロ事件から一ヶ月後
紫輝は輝からとある行事に参加する事を告げられる。
「園遊会?」
園遊会とは、星皇・皇后が主催する社交界である。
一年で春と秋のニ回行われる。
「星皇家に仕える家臣団当主家の毎年恒例の行事で家族揃っての参加が義務だ。紫輝は五歳になる今年から参加しなければならない。ロゼット皇女もこの園遊会に出席するために皇国に来られたのだ」
そのロゼットはテロにあった翌日の夕方には帰国して、園遊会もテロ事件の影響で延期された。
今回、延期されていたその園遊会が開催される運びとなった。
園遊会は星皇家が毎年各方面の重要人物を招待して開催される行事で、下記の日程で行われるる。
一日目~ニ日目:一般国民の中でも前年度の有名人、各界の功績者
三日目 :在日外交官や海外要人
四日目 :都道府県の知事、議会議長
五日目 :司法・立法・行政に携わる要人
六日目 :皇国軍関係者
七日目 :星皇家に仕える家臣団・星軍関係者
「ただ問題がある」
「何です?」
「星皇陛下はな……人の過去や前世が見えるんだ」
「はい?」
「この間話したろう? 人の前世が視える者がいると。陛下がそうなんだ」
「うげっ!? 何ですか、それ!!」
星皇は特殊な才能をいくつか持っていた。
その一つ――【宿命通】は過去と前世が見えるのだ。
ただし、星皇はこの能力を普段は魔導具で封印している。
人と合うたびにその人の過去や前世が見えてしまうからだ。
それに相手側も見られないよう魔導具を使えば簡単に防ぐ事ができる。
精神や霊的防御系の能力を持っている場合も同じだ。
近衛一族の一件もあり、園遊会や重要な会議の場では魔導具を身に着けず、他の出席者も普段身に付けている魔導具の使用や着用は医療用でない限り禁止された。
精神や霊的防御系の能力を持っている場合は逆にそれらを無効化する魔導具の着用を義務付けられる。
「陛下は人の秘密を軽々に言い触らすような人ではない。それは安心して良い。だが他にも問題がある」
「まだあるんですか……」
「
「まあ、それは……あれ?
紫輝は前世で清史郎から皇太子の近習になった話しを直接聞いている。
ちなみに紫輝は前世で記憶を失くす前は青史郎を青兄と呼んでいた。
「六年前の”大粛清”で星皇家はいまだ人材不足が解消されていない。だから、陛下と北斗様の近習頭を兼任している」
青史郎は冷静に顔色一つ変えずに全ての仕事を完璧にこなし、問題が生じても迅速に解決してみせるその手腕と姿から”完璧超人鉄仮面”と影で呼ばれていた。
「あと、形祓一族の頭領――
「それは面倒くさそうだ……。なら、行かないという選択肢は?」
「無い。一族の当主、宗主、頭領とその家族は余程の理由がない限り参加しなければならない。今回はお前のお披露目も兼ねている。欠席は出来ないと思え」
「えええぇぇぇ~……」
盛大に不満そうな声を漏らす紫輝。
「だからこの前、お前の服を仕立てたのだ。今からその衣装を取りに行くぞ」
そうして紫輝は辻馬車に乗せられて、仕立て屋まで向かう事になった。
☆
仕立て屋で仕立てた服の最終調整を終えて服を受け取った輝と紫輝は帰りに中華料理店に寄った。
「最近は洋食屋だけじゃなく、共産国の中華料理を出すお店もあるんですね」
「共産国からの亡命者が増えたからな。その関係だ」
第二次大戦後、西洋大陸の諸国では治安や経済が一応の回復みせている。
中には王国のように皇国と国交を回復させた国もあった。
その一方で、共産国では反政府組織が独自に民主国という国を立ち上げ、今も共産国と武力衝突を繰り返していた。
どちらの国にも所属を拒んだ元共産国の国民が難民となり亡命を希望して外国――特に皇国に大挙して押し寄せている。
ただし、犯罪組織は勿論のこと,ある特定の民族や一族は文化の違いからくる極端な考え方や性格のために受け入れに難ありとして、皇国は受け入れを拒否した。
そうした亡命者が皇国で店を開いて生計を立てている。
紫輝と輝が入ったこの店もその一つだ。
紫輝が注文した料理は
「これが優真叔父さんが言ってた拉麺なんだ。少し油っこいけど、色んな出汁の味が出てて美味しい」
「この葱油餅は関西に行った時に食べたちょぼ焼きというのに似ているな」
などと食べた料理の味の感想を言い合っていると、店の入口から賑やかな男達の声が聞こえてきた。
「今日は少将の奢りだ! 皆、思う存分食べろ!」
「「「おう!」」」
「何だ? 騒がしいな」
紫輝がそちらを見ると、軍服を着た男達が店の中に入って着た。
(あれは……星軍の軍服?)
「そんなに食べられたら俺の財布が破産しちゃうよ~……」
軍人達の後ろから見覚えのある人物が部下らしき女性を伴ってぼやきながら店に入って来た。
「げっ!? 服部さん!」
その人物は前世で紫輝の上官を務めた
戦後、服部は優れた作戦立案能力で皇国を勝利に導いた功績から少将に昇進していた。
「日頃から少将に給料以上にこき使われてるんですよ! これぐらい良いじゃないですか!」
「皆、程々にしてくれよ?」
服部達のやり取りを見ながら輝が紫輝に尋ねる。
「彼が服部是空なのか?」
「はい、そうです。母さんは会ったことないんですか?」
「あるわけないだろ。私は神職だぞ。接点がない。総一朗が軍の装備を開発する関係でたまに会うらしいが」
「まあ、今の自分とは関係ないので。無視しても問題ないですよ」
そんな紫輝の考えとは裏腹に服部が紫輝達の席に近付いて来て輝に話し掛ける。
「失礼ですが……もしかして、あなたは神薙輝さんですか?」
「そうです。お会いできて光栄です、服部少将」
「おお! 私の事をご存知とは恐縮です~!」
「服部少将、この方はどなたですか?」
服部の隣りにいる女性軍人が服部に尋ねる。
「この方は国立技術開発局で鎧騎や魔導航空機の研究・開発している総一朗くんのお内儀で、神社本庁の総長を務める神薙輝さんだよ」
「ああ、主任さんの奥様でしたか」
服部はちらりと紫輝を見て話しを続ける。
「……先日はお子さんがテロ事件に巻き込まれて大変だったようですね~」
「まさか人形作りを教わりに行かせて、テロに巻き込まれるとは夢にも思いませんでした」
「そうでしょ~、そうでしょ~……でも、そのお子さんのお蔭で大事にならずに済んで助かりましたがね」
服部はじっと紫輝を見ている。
服部の視線に気付きながらも紫輝は素知らぬ顔でラーメンを食べ続ける。
「……何の事でしょうか?」
「おっと! これは秘密でしたね! 失敬!」
「紫輝、服部少将にご挨拶しなさい」
このまま服部に挨拶一つもしないのは失礼になるので輝は紫輝に挨拶するよう注意する。
紫輝はラーメンを食べるのを中断し、箸を置いて服部にお子ちゃまモードで自己紹介を行う。
「あ、はい。初めまして、
「ぶほっ!? ど、どうして少将のあだ名を……」
女性軍人が笑鬼と言う名前を聞いて吹き出す。
この笑鬼というあだ名は服部が笑いながら無茶振りしたり、死地に蹴落とすことから紫輝が名付けたものだった。
「紫輝!? す、すみません!!」
紫輝の失言に慌てて服部に謝罪する輝。
「君……どこでその名前を知ったんだい?」
服部は自分のあだ名を呼ばれて一瞬キョトンとなり、何故それを知っているのか不思議に思って紫輝に尋ねる。
「パパ上がよく紫輝物語っていう本を読み聞かせてくれるんだ! 僕の名前もその本に出てくる紫輝って人にちなんで付けたって言ってたよ! それで服部少将さんのお話しもパパ上がしてくれたんだ!」
「ああ、紫輝物語で……。でも、そうなんだ~。君も紫輝と同じ名前なんだね~。あ、食事を中断させてすみませんね~。お詫びに、ここの払いは私が持ちます」
「いえ、それは申し訳ないです」
「な~に、総一朗くんには軍の無茶な要求に良く答えてくれますから。そのお詫びとお礼も兼ねてですよ」
「そうですか。では、遠慮なく」
輝は軽く頭を下げて服部に礼を言う。
服部は頷くと店員に輝と紫輝の料理の領収書を自分に回すよう伝えると、峯岸と一緒に部下達のいる席に向かった。
輝は服部達が立ち去った後、紫輝をギロリと睨みつけて言った。
「紫輝……帰ったらお説教だからな」
「ええ~!? 子供のおちゃめな
輝の言葉にぶう垂れる紫輝。
「お説教だからな」
今度はにっこり笑顔でもう一度同じ内容の言葉を繰り返す。
顔は笑っているのに目が笑っていない。
それがとても不気味で紫輝の恐怖心を掻き立てた。
「ひっ!? わっ、わかりました!!」
一方、服部は他の部下達が陣取る席に着くと、料理のメニューを見ながら部下の女性軍人に指示を出す。
「
「了解しました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます