第16話

「紫輝が……【機動鎧騎術】を?」


 自分の息子が”皇国の死鬼”と同じ才能を持っていたことに驚く総一朗。


「なる程……どうりでロゼット様が紫輝君にこだわる訳だ」


 一方、優真は納得した顔をしている。




 優真はロゼットが【駆動傀儡術】や【機動鎧騎術】の才能を持つ者を探している事を知っていた。


 彼の話しではロゼットの母親は魔境界の出身で、今は亡き母親の滅んでしまった国を再建する夢と目標を持っていたと言う。


 魔境界は自然を切り開いても数日すれば元の状態の戻る。

 なんなら、切り開いた時よりも自然が濃く深くなってしまう。


 何故なら魔境界では高次元から魔導力が際限なく湧き出しており、その影響で動植物が短時間で成長する。

 しかも魔獣がどこからともなく出現し続けてそれが開拓の妨げとなるのだ。

 

 魔境界の住人でも開拓は困難で、だからこそ魔境界は未開拓地域がほとんどを占めており、文化や文明もこの世界と比べて未発達なのである。




「それと、テロ事件でわかったんですが。傀儡でこんな事も出来るみたいです」


 紫輝は懐からあらかじめ作っておいた治癒術師の傀儡人形を総一朗の前に置く。


「何かな?」


 傀儡が戦場で負った総一朗の怪我の後遺症が残る脚に治癒術を掛ける。

 治癒術が発動し、総一朗の脚に治癒術の効力が浸透する。


「うわっ!? びっくりした!!」


 思わず声を上げて驚いて脚を崩す。


「ん? あれ? 足に違和感がない?」


 不思議に思い、総一朗は立ち上がると足を動かす。


「足が……普通に動く?」


 その場で歩いてみる。

 すると、今まで怪我の後遺症で引きずっていた足が怪我負う前の元の通りに動かせた。

 紫輝の傀儡は総一朗の足の怪我の後遺症を治してみせた。


 その光景に唖然となる一同。


「……これで欠損も治せたらもうエリクシルだね」


 勇希がボソリと呟く。


「あ、欠損なら治せますよ」


 紫輝っの傀儡はロゼットを狙ったテロ事件で紫輝の傀儡はコメートが撃った機関銃の流れ弾を受けて吹き飛んだテロリスト達の腕や脚を治癒術で生やしてみせた。


「もしかして……老化も治せる?」


 勇希がふと思いついた疑問を紫輝に尋ねる。


「老化の方は……試してないからわからないや。でも、それも出来そう」


「「「「っ!?」」」」


 紫輝の最後の一言に反応する神薙四天王、


「……では早速、紫輝の母である私が実験台になろう」


「いえいえ、姉さんに何かあったらいけません。ここは私が」


「そうね、香の言う通り。でも、香も大事な本家の血筋。ここは私が」


「いやいや! 美琴姉は一族の大事な知恵袋! ここは、僕が……」


「「「勇希はまだ若いから必要ないっ!!!」」」


 輝、香、美琴の三人が声を揃えて勇希に向かって言う。


「しょんな~……」


 涙目になり、肩を落としてしょげる勇希。


「それじゃあ……効果が一番わかりやすそうな美琴さんにお願いします」


「……ちょっと引っ掛かる物言いだけど、わかったわ」


 紫輝は即席で傀儡を作り出し、美琴の加齢を治す事を命じた。

 すると、美琴の体ががみるみる若返り、三十歳を過ぎた年齢が二十歳前後にまで見た目になった。


 美琴は手提げ鞄から手鏡を取り出し、自分の顔を確認する。


「凄い……十歳は若返ったわ……」


 鏡に映る若さを取り戻した自分の容貌にうっとりする美琴。


「「「……」」」


 思った以上の効果に呆然となる輝、香、勇希の三人。


「じゃあ、元の年齢に戻しますね」


 紫輝のその一言を聞いた途端、美琴は微笑を浮かべて紫輝の両肩に手を置く。


「必要ないわ」


「え? でも……」


「必要ないのよ」


 紫輝の両肩に置かれた美琴の手にグッと力が込められる。


「わ、わかり…、ました……」


(す、すんげえ~こえぇぇ~~~……っ!!!)


 美琴から溢れ出す何とも言えない迫力に恐怖を覚える紫輝。


「コホンッ! 紫輝は後で私と香にも治癒術を掛ける事。それで、話しを戻すが」


 輝は一つ咳払いすると紫輝とロゼットの婚約の話しに戻す。


「こうなった以上、紫輝の存在と才能が世間に公表されるのは避けられない。だが幸い、紫輝の事は皇女が成人する四年後まで秘匿すると皇女は仰って下さった。残された時間は少ないが、今からできる限り色々準備するぞ」


 本当なら紫輝が成人する十年後まで秘匿しておきたいが、皇女を取り巻く人間関係と周囲の状況がそれを許さなかった。


「皇室や形祓一族もそれまで沈黙するだろうが、接触はして来るだろうな」


 優真が元外交官の視点から意見を述べる。


「昔なら皇女と家格を合わせるために紫輝君を侯爵辺りの華族に養子に出す所だけど。今は華族制度が廃止されてそれも出来ないわ。そうなると――星皇家の養子になる話しが出てもおかしくないわね」


 美琴の話しに紫輝は驚き、大いに慌てる。


「そ、それは無理! 無理無理!! 絶対、無理ですって!!!」


(そんなかたっ苦しいトコの子になったら、息が詰まって窒息するっ!)


「養子と言っても行儀作法や王侯貴族の一般常識を軽く学ぶだけだよ。それでも二、三年くらい時間が必要だけど。なんだったら僕が教えようか?」


 以外にも勇希が美琴の話しを補足する。

 勇希は夢見る乙女なこともあり、その辺りを自分で調べて行儀作法や一般常識を学んだ経験があったのだ。


絶拒ぜっきょします!」


「いや、勇希に教えてもらえ。今後の為だ」


「そんな~……」


「うふふっ、手取り足取り、じっくり教えてあげるよ……」


 勇希は輝の要請を引き受け、紫輝に向かって妖しく微笑むのだった。

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