第11話 テロ組織の襲来

 ――三日後、富山人形工房に向かう車中にて。


「度々すみません、叔父さん」


「いやあ、香は神社の仕事だし、咲は学校に行ってるから平日は暇なんだよ。それに、紫輝君も来年から小学校だろ?」


「そうですね。でも、今の小学校って六年制なんですね。戦前は確か四年制でしたよね?」


「そうだ。教育法の改正で六年制になった。その代わり、中学校が義務教育化されてニ年、高校が一年教育期間が短縮された」


 前世では紫輝が小学校に通っていた期間は四年であった。

 それは義務教育が小学校までで教育期間が四年制だったからだ。

 戦後の今は現代日本と同じ教育期間になっている。




 ちなみに戦前の教育期間は次のようになっていた。


 小学校   :四年制(義務教育)

 高等小学校 :ニ年制

 中学校   :五年制

 高 校   :四年制

 大 学   :三年制




 戦前は学校に進学するにはお金が必要だった。

 紫輝の実家は裕福なので進学に掛かる学費の支払いは可能であった。

 しかし紫輝はそれを拒否し、早く家から独立したくて就業を選んだ。


 それに基礎学力は兄の青史郎から。

 魔導機械の知識を外松から教わっていたので勉強は十分だった。


 鎧騎専門学校の入学資格も義務教育小学校修了卒業していれば問題がなかったのだ。




 紫輝は自分が座っている後部座の隣に置かれていた新聞に目が向く。

 なんとなく新聞を手にとって一面を見る。


「ん? 魔動機械連合協会の会長令息が誘拐?」


「ああ、お偉いさんの息子が数日前に誘拐された事件だな。まだ犯人からの要求がないらしい……まあ、子供に言ってもわからんか」


 紫輝は新聞に載っている魔導機械連合協会の会長の顔写真をまじまじと見詰める。


(この人、どこかで……)


 しばらく見ていたが中々思い出せず、諦めて新聞を元の所に置く。


「戦争が終わったって言うのに物騒なもんだ。紫輝君も一応、良いトコのお坊ちゃんだからな。怪しい人間には気を付けろよ?」


「わかってますよ」




 富山の人形工房にたどり着くと、再びあの黒服達と遭遇した。

 だが、なんだか黒服達の様子がおかしい。

 手には自動拳銃ハンドガンを持ち、何か叫んであからさまに周囲を警戒している。

 地面には数人が血溜まりを作って倒れていた。


「叔父さん」


「……ここで止まるぞ。紫輝君は頭を低くしていろ」


 状況が良く判らず、下手に動くのは危険だと判断した憂真はその場で車を停止させた。


 車中の窓から洋館の様子を伺う紫輝達。


 洋館の玄関から黒いスーツを着ている男性達に囲まれてまるで人形のような線の細い小柄な少女が出て来た。


「えっ!? ロゼット様!?」


 憂真は驚く。


「叔父さんの知り合い?」


「あ、ああ……あの方は帝国の現皇帝の末娘――ローゼンリエット皇女殿下だ」


「何でお姫様がここに居るんですか?」


「俺にもわからん……」


(この様子だと、どうやら誰かから襲撃を受けたようだけど。まあ、俺には関係ないか)


 ただし、こちらが被害を受けないとも限らない。

 紫輝は持ってきていた自分の傀儡――宇迦うかをいつでも動かせるように準備した。


 その時、車の外から大きな音が鳴った。


 銃撃だ。


 武装した集団が現れ、黒服の男達が守っている皇女に向けて発泡を始めた。

 皇女は警護人に庇われながら再び洋館の中に避難する。


「ちぃっ!?」


 こちらにも流れ弾が飛んで来たので憂真は車をUターンさせてこの場から離れる。


 それと同時に周囲の民家に居る誰かかが通報したのか、警察官が駆けつけたが、装備が違い過ぎて手も足も出ない。


(そりゃ機関銃を相手にリボルバーじゃあ刃が立たないよな……)


 しかし、そんな状況にあって二人の警護人が襲撃者達に対抗していた。

 そのうち一人――壮年男性の戦い方に紫輝の目が向く。


(あれは……傀儡?)


 片手に糸繰り人形のような操作盤コントローラーを、片手で拳銃を持って遠くにいる襲撃者を傀儡で、近付く襲撃者を自動拳銃で撃ち抜き次々に倒していく。


(へぇ……面白い戦い方してるなぁ……)


 その傀儡を使う男とは別の若い男は自動拳銃と呪術――海外では魔術と呼ばれる能力を振るい、襲撃者を鎮圧している。


(そりゃあ、曲がりなりにもお姫様の護衛だ。それなりに腕の立つ人間を雇うだろうな)


 これでもう終わり、と思ったその時――上空から何が飛んで来て大きな音を立てて屋敷の敷地に降り立った。


「なんだっ!?」


「叔父さん、あれ!」


「あれは……まさかっ!? コメート!?」




 飛翔型鎧騎”コメート”――帝国が開発した飛翔型鎧騎。その機体には構造上の欠陥があり、飛翔装置の信頼性も低く、爆発や故障が頻発。

 その上、稼働時間が僅か十分と極端に短い。


 第二次大戦中に帝国から皇国へ技術交流という形で提供された機体だが、その機体を複製した皇国の試作機”秋水しゅうすい”も問題点を解決する前に稼働試験中に左右の腕を残して爆散。

 操縦士が死亡するという痛ましい事故を起こしている。


 故に製造された後、短い期間で使用が中止され、戦後直ぐに廃棄された。




 そのコメートが大きな音を発しながら、両手に短機関銃を持って屋敷に向かって発砲している。


(でも、何でデカい音が鳴ってるんだ? 鎧騎の駆動音? それにしてはずっと鳴り続けてるけど……)


 紫輝は【機動鎧騎術】を使ってコメートをた。

 【機動鎧騎術】を使えばCTのように離れていても瞬時に鎧騎の内部の状態が確認可能になる。

 安全な場所まで退避しているのでコメートとの距離はかなり離れてしまったが、それでも大まかに稼働状態を把握できた。


(おいおい……何だよ、あの動力炉の状態は! ありえないだろ!)




 動力炉――正式名称は魔導力増幅動力炉。


 魔導核から魔導力を取り出し、その魔導力を増幅してから動力エネルギーとして魔導機器や各駆動装置に分配・供給する装置だ。




 その動力炉から魔導力が溢れ出している。

 本来なら正常に稼働していれば動力炉から魔導力が漏れるなどまずありえない。

 もしそうなら動力炉内部の圧力が高まり過ぎて爆発する危険がある。


(こんなに離れてるのにそれがわかるなんて制御が出来てない証拠だ! コメートは稼働時間が短いから十分で停止するけど、あれじゃあそれまでに爆発するぞ!)


 紫輝は車のドアを開けて宇迦をコメートに向かわせた。


「何してるんだ、紫輝君?」

 

 車のドアが開いたのに気付いた憂真。


「叔父さん、ちょっと不味いかも……」


「ん? どうした? オシッコが漏れそうか? スマンが今は我慢してくれ!」


「お漏らしならコメートが魔導力を放出中です」


「どういう事だ?」


 紫輝の言っている意味がわからず、眉間に皺を寄せて首を傾げる優真。


「このままだとコメートの限界稼働時間が来る前に動力炉が耐えきれなくなって爆発します。自分の見立てだと、およそ半径五○m以上の範囲に被害が及びます」


「何だとっ!? ……でも、何でそんな事がわかるんだ?」


 紫輝の本来の才能を知っているのは神薙一族でも四天王の香、美琴、勇希三人以外では紫輝の才能を鑑定した者だけ。


 総一朗や沙夜にも話していない。


 輝は全員に口止めしているので、彼女達が紫輝の才能について喋る時には【傀儡術】で押し通していた。


「自分の【傀儡術】は鎧騎に関する事も含まれるんです。それでわかりました。で、コメートの事ですけど。距離があるんで我々には被害は及びませんが、その周囲にある民家や屋敷、当然近くにいるあの人達も無事では済みません」


「くそっ! どうすれば……」


「たった今、自分の傀儡をコメートに向かわせました。コメートが爆発する前に自分の傀儡の才能を使って動力炉を停止させます」


「そんな事が出来るのか?」


「出来るか出来ないかではなく、やらなきゃ人が大勢死にますよ。ちょっと集中したいんで、これから自分を揺すったり、話し掛けたりしないで下さい。 ……絶対ですよ?」


 前世の経験で才能を使えてはいるが今の紫輝は子供の身。

 その所為で高い技術を必要とする能力を使う場合には精神の消耗が激しく、ちょっとした事で集中力が切れてしまい、能力が途中で解除されてしまうからだ。


「よ、よくわからないが……取り敢えずわかった」

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