第9話 人形作りを学ぶ
紫輝は自分で試行錯誤しながら輝からもぎ取った
名前は
万能なる道具にして下僕。
そして紫輝の手足であり分身にして相棒。
鎧騎の構造を参考に製作した金属製の傀儡で見た目も鎧騎っぽく、大きさは三○cm。
背中に盾を背負っている。
その他に宇迦にはちょっとした仕掛けをいくつか仕込んでいた。
一ヶ月以上仕事で帰れなかった父の総一朗が久しぶりに帰宅した時、紫輝が作った宇迦を見て驚いた。
「この鎧騎の模型は凄いね! 搭乗席の部分以外はまるで鎧騎そのものだよ!」
「褒めて頂きありがとう御座います。それで、パパ上にご相談があるのですが……」
紫輝は姿勢を正して床に正座する。
自分のことを”パパ上”と呼ぶ紫輝に警戒感を高める総一朗。
こういう時、紫輝は総一朗に無茶な頼み事をするのだ。
「……何かな?」
「自分は才能をもっと伸したいんです! でも、それにはど~しても資金が必要なんです! という訳で、お小遣いによる支援を
総一朗に土下座してお小遣いを懇願する紫輝。
「あ~……実は仕事の打ち上げやお祝い事が続いたりして僕も金欠なんだ……。だから、それはまた今度ね!」
総一朗は素早くその場を立ち去ると自分の部屋へ逃げた。
「チッ! 逃げられた!」
思わず舌打ちする紫輝。
「紫輝……お前、私から金を毟り取っておいてまだ小遣いを要求するのか?」
一部始終を見ていた輝は金を無心する紫輝の姿に呆れる。
「傀儡の核になる魔導石は母さんから供給されるんで十分ですが問題は器の方なんです。傀儡に使う器は他人が作ったものよりも術者本人が作った方が性能が良くなりますからね。自分、宇迦のような鎧騎の模型は作れるんですが、普通の人形を作るには経験がありません。なので、参考資料と材料を買う資金が欲しいなと」
「それについては私も考えた。それで傀儡に詳しい香に相談したら、
前職の仕事関係で顔が広く、今は仕事で帝国と皇国を行ったり来たりしている。
「憂真叔父さん、今家に帰ってるんですか?」
「ああ、長期の休みを貰ったらしい。しばらくは家に居るそうだ。だから優馬殿に連れて行ってもらえ」
――それから三日後、大蔵憂真に連れられて人形工房に向かう事になった。
工房の主は帝国で修行した新進気鋭の人形作家で、彼女の作る人形はビスクドールと呼ばれている。
ビスクドールとは陶磁器製で瞳はガラス製、腕や肘などの関節が球体構造になっているものだ。
普通、こうした職人は技術を盗まれたくなくて人に仕事を見られるのを嫌がるが、彼女は帝国でも皇国でもまだ無名の新人なので作った人形があまり売れていない。
生活費や人形の材料費を稼ぐためにビスクドールの他にも縫いぐるみやビスクドールの技術を応用した動物模型を作って売ったり、人形の製作教室という形で一般人にも作り方を教えたりしている。
こうする事で自分の作った人形の宣伝にもなるからだ。
「いや~、久しぶりだな、紫輝君! しばらく見ない間に大きくなったな!」
柔和そうな男が笑顔で紫輝の頭を軽く撫でる。
顔は悪くないのだが、お腹が少々出ているのが残念である。
「お久しぶりです、叔父さん。今回は自分の為にありがとう御座います」
「いいって、いいって! 輝さんの頼みだし! 久々に愛車も走らせたいしな!」
憂真の乗る魔導車はサンルーフに変形する珍しい小型車(軽自動車)だった。
ちなみにお値段は結構お高く、三百六十円(約三百六十万円相当)もする。
大学初任給がニ十円の時代にこれだけの値段の車を購入できる憂真の収入は推して知るべしである。
(俺が乗った事あるのは軍用の魔導トラックで乗り心地は最悪だったけど……魔導車は静かで結構快適なんだな)
「ところで紫輝君。君は将来なりたいものはあるか?」
「なりたいもの、ですか?」
「そうそう! 君は退魔師としての才能は持っていないんだろ? だったら、別の職業に就くことになるだろうし。まあ、神社系列の職員になるっていう手もあるけど……」
憂真は退魔師の才能が無いのを輝や香から聞いて知っている。
だからといって人が気しているような事を無神経に聞く人物でもない。
「……何でそん事を聞くんですか?」
「あ、いや……別に……。退魔師の才能ないの気にしてるよな? ゴメンよ!」
(昨日、咲から聞くように頼まれたなんて言えるか!)
憂真は娘に甘い。
そして弱い。
長期出張で寂しい思いをさせている可愛い娘の願い事なので二つ返事で引き受けた。
その娘は紫輝を気に掛けている。
それが異性としてなのか親愛の情からなのか本人も自分の気持ちが良くわからないようだが。
「別に気にしていませんよ。それに退魔師にもこだわってないですし」
「そうなんだ」
「とりあえず、今ある才能を伸ばして高校か大学を卒業したら魔境界に渡るつもりです」
魔境界――それはこの世界と特殊な力場で繋がっている異世界の事である。
遥か昔から極少数の人々が細々と交流していたが、国同士で貿易するまでに発展したのは近代になってからだ。
皇国は魔境界のお陰もあって資源を海外に頼らなくて済んでいる。
その魔境界に行くにはこの世界と魔境界が繋がっている堺――境界門を潜らなければならない。
「魔境界に!? まさか、探索者や狩人になるつもりか!?」
紫輝の言葉に憂真が驚きの声を上げる。
探索者とは魔境界に存在する資源を探し出し、その資源を回収するか、もしくはその資源のある場所の情報と権利を売る者だ。
狩人は魔境界に現れる魔獣を狩り、魔獣の素材や魔導石を売って生計を立てる者を言う。
どちらも危険度は高く、その分実入りは良い。
「確かに、上手くいけば大金を稼げるが……」
「それもありますが、自分の目的はそこじゃないです」
「じゃあ、目的は何だ?」
「日がな一日、鎧騎をイジったり、乗り回して暮らしたいだけなんです。叔父さんがこの魔導車を好きなように自分も鎧騎が好きなんで。それには大金が稼げて鎧騎が手に入りやすい魔境界で探索者や狩人になったほうが最適なんですよ」
「そうか……う~ん。でも、魔境界に渡るのはおすすめしないぞ。あそこは防御壁や結界から一歩外に出たら魔獣がうようよ出るからな。少なくとも、一人じゃ無理だ」
(そうなんだよなあ……前世で死奴だった時に行ったことあるけど、鎧騎がないとキツかった。軍隊規模でも兵士個人に魔獣に対処できる能力がないと足手纏いになるし……。だけど、それも【駆動傀儡術】を使えば解決できると思う)
「ご忠告どうも。でも、心配には及びません。それをどうにかする当てはあるんで」
「まあ、紫輝君はまだ子供だ。大人になるまで時間はたっぷりある。その間にじっくり考えればいいさ」
その後、二人は喋ることなく魔導ラジオから流れる洋楽を聞きながら開放感たっぷりの憂真の車でドライブを楽しんで目的地の人形工房に辿り着いた。
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