第7話
香が居住まいを正して話を傀儡に戻す。
「紫輝ちゃんの傀儡は性能や能力の方もおかしいの」
「風を操れる傀儡……魔導力の件で一気に信憑性が増したわね」
「それだけじゃないわ。傀儡の素の性能も【式神】くらいはあったの。曖昧な命令も実行できるし。ただし、私の【傀儡術】で作った傀儡の核を紫輝ちゃんの【駆動傀儡術】では使えなかったし、逆に紫輝ちゃんの【駆動傀儡術】で作られた核を私の【傀儡術】では使えなかったわ」
「【傀儡術】と【駆動傀儡術】には互換性がないという事か……」
「でも、
「だが海外の本にも、【駆動傀儡術】らしき才能で作られた傀儡は人間のように考えて行動できたり、能力を付与できるような話しが書かれてあったぞ?」
「どんな本なのよ?」
輝は自身が調べて探し当てた本の内容を話した。
「……確かに似てるわね。ただ、やはり昔話の類で最近の話ではないから。どこまでが本当の事で、どこまで信じていいのかわからないわ」
「それは紫輝本人が証明してくれるだろう。問題は――紫輝の才能が私達の想像を超えていた場合だ」
腕を組んで目を瞑り、俯き加減で話す輝。
「……もし、本に書かれた内容が本当なら――おおよそ人間に出来ることは紫輝君一人で全てこなせてしまう」
普通、人は一人では生きてはいけない。
しかし、【駆動傀儡術】があれば人に頼る必要がなくなる。
”紫輝には助けなど必要ない”――周囲の人間はそんな目で見るし、そう考える。
逆に紫輝に全てを押し付けるだろう。
「その所為で紫輝君は孤独になるでしょうね」
「……」
紫輝は一見、人懐っこいように思うが、実際には人と距離を置きたがる傾向にある。
今は家族がそばにいるが、将来的には人と関わりを断つかもしれない。
輝達はそれを心配しているのだ。
「それに紫輝君の才能を知られれば、それが噂となって世間に広まる。そうなれば彼の身を狙う輩は必ず現れる。動くとしたらまずは形祓一族、次に星皇家。他には裏稼業の犯罪組織。それに海外勢力も。上げればきりがないわ。そうなれば……私達でも紫輝君を守りきれないでしょうね……」
黙り込む輝と香。
「それならいっその事、神薙が管理する山奥に閉じ込めるとか?」
軽いノリでとんでもない提案をする勇希。
「それは駄目だ! それこそ美琴が言うように孤独に陥るぞ!」
勇希のその提案に激しく反対する輝。
「勇希! それはいくらなんでも酷すぎるわ! 紫輝ちゃんが可愛そうよ……」
勇希を非難する香。
「た、例えだよ! 僕だって本気で思ってないよ!」
本人も軽口が過ぎたと焦り、狼狽える勇希。
「それも無理ね。形祓に嗅ぎつけられるわ」
勇希の提案に冷静にダメ出しする美琴。
「じゃあどうすんだよ、美琴姉?」
「紫輝君自身に強くなって貰いましょう。それこそ、世の理不尽をねじ伏せるくらいにね。幸い、彼にはその下地があるわ。それまでは才能を隠す魔導具を作って身に付けさせましょう」
【駆動傀儡術】にはそれだけの力と可能性がある。
そう判断した美琴。
「あと、紫輝君が孤立しないように生涯に渡って彼を支えて助けてくれる存在が必要よ。それには伴侶が最適ね。今のうちに紫輝君の嫁候補を探しましょう。出来ればうちの一族から。一番有力なのは咲ちゃんね」
美琴の発言に疑問を持った輝が尋ねる。
「自分の娘は推さないのか?」
美琴には三人の娘と末っ子に息子がいる。
紫輝と歳も近いし、三人は十分嫁候補になるはずだ。
輝のその問に顔を逸らす美琴。
「あの娘達は親の私が言うのもなんだけど、オススメしないし出来ないわ。下の子が女の子だったら推すのだけど……」
「「「確かに……」」」
美琴の答えにこの場にいる全員が納得する。
「じゃあ、じゃあ! 僕が紫輝のお嫁さんに立候補するよ!」
「今年で二十四歳が何を言う!? 気でも狂ったか!!」
信じられないといった感じの表情で勇希に向かって怒鳴る輝。
勇希と紫輝の年齢差は十九歳。
紫輝が成人する頃には勇希は三十四歳。
年の差があり過ぎて、とてもではないが嫁候補にはできない。
「いや、だってほら……紫輝の傀儡を使えば若返りの薬なんかも作れるかもしでしょ? 年齢差はどうしようもないけど、体が若返れば問題ないし……ね?」
輝、香、美琴の三人に衝撃が走る。
「「「……なるほど!!!」」」
女性にとっては若さを保つことは至上命題。
輝や香は見た目は若く見えるがもう三十路前だ。
美琴に至っては既に三十を過ぎている。
そろそろ小じわが気になるお年頃である。
その問題も紫輝の作る傀儡なら解決するかもしれない。
三人の真剣度が一気に増した。
「でもそれには最高の傀儡の材料、それに素材となる希少な薬草が必要になるわよ?」
「私達が高純度の魔導石を生成すれば良いのではないか? 高額で換金できるし」
「薬草の仕入れはうちの夫の
「それでいきましょう」
三人は互いに強く頷き、輝は勇希に向き直る。
「素晴らしい提案だったぞ、勇希。だが、お前を紫輝の嫁候補にはできん」
「何故さ!?
「御義母様と呼ぶな! ……単純な話しだ。お前は紫輝の好みの範囲から外れてる」
「ガーン!?」
これでも輝は紫輝の母である。
紫輝の好みは熟知しているつもりだ。
(紫輝は沙夜のような娘が好みだ。紫輝本人は気付いていないがな。沙夜もそうだ。流石に姉弟同士でそれは無理だからな)
だが実は輝もまた紫輝の好みだった事を輝自身は気付いていなかった。
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