第4話

 魔導力の修行を初めて直ぐに”増やす”・”抑える”は問題ないと香から太鼓判を押された。

 前世で【機動鎧騎術】を使っていた経験から感覚を覚えていたのだ。


 問題は”留める”。


「む、むずい……」


 これを会得するのに紫輝は大いに苦労していた。


「増やすは誰でも簡単に出来るけど、”抑える”・”留める”は難しいの。中でも”留める”は一般人で出来る人は滅多にいないわ」


(それでも”抑える”を一度で覚えたのは凄いけど)


「私達のように悪霊やヘンゲを相手にする退魔師だと魔導力の使い方は大事なの。戦いで魔導力が尽きて戦えなくなる事は死を意味するから。だから、”留める”の会得は必須と言って良いわ」


(だけど、難しくて退魔師でも出来ない人って結構いるのよねぇ……)


 だから”留める”を出来なければ出来ないで良いかと香は軽く考えていたのだが。


「――ん、もしかして……この感じ、かな?」


(えっ、嘘っ!? もう出来た!? 覚えるの早っ!?)


 香は事務仕事をしながら紫輝の修行の様子を見ていた。

 今まで苦労していた紫輝だが、感覚とコツを掴んだようでそれからは早かった。

 紫輝は三時間という驚異的な早さで”抑える”を会得してみせた。


「そ、それじゃあ、その魔導力を”留める”は能力を使う時以外はずっと続けてね」


「これをずっと? もしかし四六時中ずっとですか?」


「そうよ。でないと、魔導力を留めてる意味がないもの。慣れてくれば寝てても出来るようになるわ」


「わ、わかりました」


(紫輝ちゃんは魔導力の扱いを覚えるの私達より早いし上手いわね。沙夜ちゃんや咲なんて一年くらい掛かったのに。これで退魔師の才能があれば……。無いのが惜しまれるわね……)


「そろそろお昼の時間ね。続きはお昼御飯を食べてからにしましょう」


 紫輝は昼食を摂るために一旦、神薙神社の敷地にある神薙本家の自宅に戻った。


 自宅に戻ると神社に住み込みの奉公人が食事を準備してくれている。

 香や職員達の食事は社務所に運ばれて来るのでそれを頂く。


 ちなみに輝は今は家に居ない。

 今日から一週間、中宮祭祀の手伝いで家を留守にしている。


 沙夜と香の娘の咲は小学校、総一朗は担当している仕事が大詰めらしくてここ一ヶ月は家に帰宅できていない。


 輝と総一朗の二人が家を留守にする時は、紫輝や沙夜の面倒を神薙一族の親類の誰か、もしくは本家の離れに住んでいる神職や巫女、住み込みの奉公人に任せていた。


 神薙一族は星皇家の家臣団から追放される百年前は神社本庁がある創星神社を任され、本家もそこに置かれていたが、追放されてからは神薙一族が管理していた神薙神社に本家を移した。


 再び星皇家の家臣団に戻った今は前当主が神社本庁で、現当主の輝がその支部である皇都神社庁で仕事をこなしている。




 閑話休題。


 午後からはいよいよ傀儡の作り方と使い方を学ぶ紫輝。


「本当は傀儡の使い方を覚えてから作り方を学ぶんだけど……傀儡が無いから私が作っちゃうわね」


「どうして使い方が先なんですか?」


「作るよりも使う方が簡単だからよ。それに作る時に使い方を想像イメージする必要があるから。想像しながら才能を使うことで初めて”核”が作れるの」


 香は財布など小物を入れて持ち歩いている巾着袋の中からパチンコ玉くらいの大きさの魔導石をニつ取り出す。

 魔導石は呪術の触媒にもなるので香はいつも持ち歩いていた。


「魔導石なら母さんから小さいのを四個貰いました」


 ビー玉くらいの大きさの魔導石を香に見せる紫輝。


「……結構良い魔導石を貰ったのね」


(もう、姉さんたら! 子供に甘いんだから……)


 そう思う香だが、輝にしてみれば子供に超過保護な香に言われたくはないだろう。


「でも、鎧騎に使う品質には遠く及びません」


 紫輝が貰った魔導石の純度は三○%。

 それに大きさはビー玉くらいと小さい。

 現代日本なら家電製品を一つ動かす程度の性能だろう。


 一方、香が持っていた魔導石の純度は一○%。

 スマホが動く程度だ。


「当然よ。鎧騎にはもっと純度が高くて大きい物を使うもの」


 鎧騎に必要な魔導石は大人の拳以上の大きさで、純度が最低でも五十%以上の物が二つ必要になる。

 一つは制御用、もう一つは動力用だ。


「この魔導石で作るのはニ種類の核。操作型と自律型。どちらも傀儡の使い方を想像しながら才能を使うの。そしたら傀儡を動かすための回路しくみが刻まれるから。先ずは術者が直接操る操作型。やってみるわね」


 香が魔導石に向けて【傀儡術】を使う。

 しばらくすると魔導石の中に模様が浮かび上がる。


「次は命令すとその通りに動いてくれる自律型」


 先程と同じように魔導石に【傀儡術】を使うと今度は違う模様が浮かび上がる。


「はい、出来た」


 香は完成した二つの核を紫輝に見せる。


「”使い方を想像する”は才能を使う上で一番大事なことよ。自分の待ってない才能を手に入れる方法も、”想像しながら修練する”だから。私も最初は【式神】の才能を持っていなかったけど、頑張って修練したら才能を手に入れたわ。だから、紫輝ちゃも修練したら退魔師の持つ才能を手に入るかもしれないわ」


「修練しても退魔師の才能は手に入らないと思います。自分は多分、”特化型”だから」


 微苦笑しながらそう答える紫輝。


 紫輝の言う”特化型”とは、一つ一つの才能が突出した能力や効果を発揮する才能を持つ者を言う。

 ただし、特化型は発揮する能力や効果が高ければ高い程、他の才能を手に入れるために修練をしても才能が手に入らないか、もしくは手に入り難い体質になる。


「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないわ。その話しは後で考えるとして今は【傀儡術】に集中しましょう」


 香は話題を【傀儡術】に戻す。


「この二つの核を使って傀儡を作るわね。器はこれを使いましょう」


 香は社務所ある自分の机の上に飾ってあった”サルボボ”を持ってきていた。

 そのサルボボに頭の上に操作型の傀儡の核を乗せて【傀儡術】でくっつける。


「操作型の傀儡は術者が自分と傀儡を【傀儡術】で繋げて操るの」


 修練場の床でまるで糸繰り人形のようにサルボボを操る香。


「あと、術者と傀儡は【傀儡術】で繋がっているから術者の魔導力を直接注いで性能を上げることもできるわ」


 サルボボの動きが途端に俊敏になる。

 シャドウボクシングのように素早く拳を繰り出す。


「紫輝ちゃんもやってみて」


 香は【傀儡術】を解き、サルボボを紫輝に手渡す。


「はい……あれ?」


 紫輝は渡されたサルボボを香と同じように【駆動傀儡術】で繋げようとしてみるが繋がらない。


「繋がらない……」


「初めてだから仕方ないわ。出来るまでやってみて」


 香の言う通り紫輝は何度も試した。

 しかし、どうしても繋がらない。


 その様子を側で見守る香。


「……駄目だ。繋がらない」


「それじゃあ、今度は自律型で試してみましょう」


 香はサルボボに付けていた核を自立型に交換する。

 そして机の上に置く。


「”立て”」


 香が命じるとサルボボが動いて立ち上がる。


「”五歩歩いて止まれ”」


 香の言う通り、五歩いた後に止まる。


「”十歩走ってから跳躍して三回宙返りして着地”」


 今度は香が命令しても”さるぼぼ”は動かない。


「”何か踊りを踊りなさい”」


 別の命令をしても動かない。


「こんな風に命令が多くなったり、曖昧な命令だと動かないの」


 香は傀儡の核を取って、サルボボと核を紫輝に手渡す。


「自律型は術者が核を器にくっつけて命令するだけでいいの。やってみて」


 香に言われた通り、【駆動傀儡術】を使ってサルボボに核をくっつけようとするが、何故かサルボボにくっつかない。


「やっぱり無理だ……」


「おかしいわね……。どうしてかしら?」


 香は首を傾げた。







※サルボボは本来ひらがな表記ですが、それだとあまりにも読みにくいのでカタカナ表記で書いてます。

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