第2話

 ――才能開発局


 輝は受付で才能に関する書籍と資料が置かれている場所に入るため、係員に声を掛けた。


「どのようなご用件でしょうか?」


「才能について調べたいので書籍と資料の閲覧許可を貰いたい」


「こちらが閲覧許可証になります。閲覧許可証は出る時に返却して下さい。また、本や資料の持ち出しは禁止されております。あと、本や資料の持ち出し、それらの故意による破損は罰金の対象になりますのでご注意下さい」


「わかった」


 入館受付で許可証を受取り、才能に関する本や資料が収蔵された資料室に向かう。

 資料室は結構な広さで都立図書館くらいはありそうだ。

 輝は【傀儡術】に関する才能が載っている本や資料に目を通す。


「……無いな。形祓一族の始祖が持っていたと確かに聞いたのだが……」


 それらしい本や資料をくまなく調べたてみたがどれにも記載されていなかった。


(私もよくわからない状況で紫輝の才能を人に知られたくはないが……)


 輝は受付で尋ねてみる事にした。


「すまない。ここの資料室にある蔵書や資料に載っていない才能はどういう扱いなのだろうか?」


「その場合、まだ世界でも確認されてない新しい才能か、もしくは閲覧規制が掛けられている才能となります」


「閲覧規制が掛かる才能とは……もしかして、悪用されれば危険性の高い――例えば犯罪の技術に関わるようなものか?」


「そうとも言えるし、そうでないとも言えます。 ……すみませんが、私も詳しくは知らないのでお答え致しかねます。何でしたら担当者を呼んで、詳しい話しをお聞きしますか?」


「いや、結構。それだけ聞ければ十分だ」


(これは深追いすると面倒な事になりそうだ。他を当たろう……)


 輝は才能開発局を出ると今度は国立図書館に向かった。


「とはいっても、あとは図書館の蔵書を当たるしかないのだが。ここでわからなければお手上げだな……」


 しかし、やはりと言うべきか。


 【傀儡術】に関係する才能について書かれてある本を調べてみたが載っていなかった。


(う~ん、ないな……。しかし、情報屋を当たろうにもその辺は形祓一族の管轄だから下手に頼れんし……。 これは一旦、別の方法がないか考え……待てよ。確か形祓かたはら道楽どうらくは童話になっていたな……)


 輝は切り口を変え、形祓一族の始祖の話しから何かヒントが得られないか読んでみる事にした。


 話の内容は童話らしく万人に理解しやすい内容だった。




 形祓道楽は【駆動傀儡術】で様々な能力を持つ人形を作り出し、その人形に命令すれば後は人形が自分で判断して勝手にやってくれる。


 ある時は一夜で国を作り上げ、ある時は押し寄せる敵の軍勢と戦い勝利し、ある時は各地に眠る財宝を発見する。


 そうして形祓道楽は当時の星皇の娘である姫を嫁に貰い、星皇家に家臣として仕えた。




「便利そうな能力ではあるが……やはり、肝心の才能の詳細は書かれていないか……」


 輝は図書館の係員に形祓道楽のような童話や昔話がないか係員に尋ねた。

 すると、公国と首長国、共産国で書かれた似たような内容の本がそれぞれ一冊ずつ見つかった。

 輝は本の題名と話の内容を覚えると、紫輝にも読み聞かせるために再び辻馬車乗って複数の書店をめぐり、それらの本を買い求めて帰宅した。




 なお、四冊の本の題名は以下の通り。


 皇  国:”道楽者の操り人形”

 公  国:”精霊が宿るぬいぐるみ”

 首長国:”アブドゥルと魔法人形の下僕たち”

 共産国:”ものぐさ仙人”




「公国では動物や虫、水や火といった属性の能力を、首長国では武人や職人といった職業の能力を持つ傀儡を主人公が作り出している。ものぐさ仙人はその両方の傀儡を作っているな。多分、これが【駆動傀儡術】の才能の能力だと思う。あと、”道楽者の操り人形”に書いてあったのだが。どうやら”生き人形”や”死人形”は作れんらしい」


 輝は本の内容から判った事を紫輝に話しながら購入した四冊の本を手渡す。


「仕事で忙しいのに調べてくれてありがとうございます、母様」


「可愛い我が子のためだ、手間は惜しまん。 ……それよりも前から疑問に思っていたのだが。父や姉は”さん”付けでで呼ぶのに何故母だけ”様”付けなんだ?」


「え? え~と……。母様は”様”って感じなんで、自然に母様と呼んでしまうんですよね……」


(前世の母さんも美人だったけど、美人の種類が違うんだよなぁ……。何か、神聖な感じがして近寄り難いっていうか……)


 そんな輝を射止めた総一朗を紫輝は密かに尊敬していた。


「そ、そうか……。でも、できれば母も”さん”付けで呼んで欲しい……。なんだか、心の壁があるように感じてしまうぞ……」


 眉根を寄せて寂しそうな顔をする輝。


「わかりました、母さ……ん」


「うむ!」


 輝は満面の笑みで頷いた。

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