第24話

 ある時、紫輝が鎧騎に関わる事を美世が禁じたという話を左近は紫輝から聞かされた。

 そこで事情を調てみると、紫輝が鎧騎に関われば二十歳まで生きられないと美世は【占術】で知ったのだという。


「しめた! なら、陰ながら紫輝を鎧騎に関わらせよう!」


 その頃になると紫輝は実家から離れて独り立ち出来ないか考えるようになり、その事を左近に相談してきた。


「なら、仕事を紹介しよう。紫輝のような八歳くらいの子供も働いてるし、誰にでも出来る簡単な仕事だよ。それでお金を貯めて独立すれば良い」


 左近は紫輝に自分が経営している工場の仕事を紹介する。

 そこでは主に魔動機械の部品を作っているが、鎧騎にも使われる部品も作っていた。


 それに対して美世と銀星が文句を言って来たが――


「あの工場で作られているのは一般に流通している魔動機械の部品だよ。確かに鎧騎の部品にも使われているけどね。だけど、今や国中で魔導機械は溢れてる。そんな事を言っていたら紫輝は社会に取り残されて生きて行けなくなるよ?」


「「……」」


 左近が論破して二人を黙らせた。


 左近はこれ幸いと工場長に指示して紫輝に鎧騎の部品を積極的に作らせた。

 紫輝が作る鎧騎の部品は精度と品質が高く、評判が良かった。

 鎧騎の生産数が低い今の段階では高値で取引されて左近の懐は潤った。




 ――それから七年の月日が流れた。


 今まで何度となく紫輝を殺そうと計画して試みたが、その全てが銀星の【折り神】によって阻止されてしまう。


 どうにかして紫輝の才能だけ奪えないか試してみたが上手くいかない。


 何度か孤児を使って生贄にヘンゲを召喚してみたが、最初に召喚した変化の契約が残っている限り契約は結べないと言われる始末。


 七年という歳月を費やしても未だ紫輝を殺せず、才能も奪えずにいた左近だが。


「……ついに完成したぞっ!」


 銀星の折り神を盗んでようやく折り神対策の魔導具を発明できた。

 この魔導具は折り神の居場所を知らせ、その働きを阻害する。


 銀星の邪魔が入らないようこの魔導具を起動した状態で紫輝に銀星の才能――【折り神】の事を話してこの魔導具を渡した。


 話を聞いた紫輝は銀星に抗議して折り神で自分を監視しないよう約束させた。


「もしも約束を破って折り神を付けたら直ぐにこの家を出て二度と戻らない!」


「……わかりました」


 上手く行ったと心の中でほくそ笑む左近。


「銀星の【折り神】を封じたのは良いけれど……。最近、何だか体がダルい……」


 この頃になると、左近は体に違和感を覚えるようになる。

 医者からは――


「どこにも異常はありませんな。恐らく過労でしょう」


 ――と、言われたので、暫く紫輝の事は忘れて温泉旅行にでも行って休養を取る事にした。

 しかし、ゆっくり休んだにも関わらず、中々体の体調が戻らない。

 これはヘンゲと交わした契約の力が原因なのだが、それに左近が気付く事はなかった。




 左近が経営する魔動機械工場の工場長から共産国との戦争でもうすぐ鎧騎専門学校の生徒が徴兵されるかもしれないと報告が来た。

 情報源は皇国軍司令部の関係者だ。


(なる程……もしかして、これが美世の占いに繋がるのか……。なら、裏で手を回して確実に学校に入学させてしまえば良い)


 紫輝に鎧騎専門学校の事を教えれば直ぐにでも入学するだろうと考えた。

 しかし、いくら紫輝に入学を勧めても頑として受け入れない。


「今は鈴さんと一緒になるのを優先したいんだ」


「結婚は学校を卒業してからでも出来る。それに学校を卒業した方が就職に有利になるよ。学費や生活費が足りなければ私が援助しよう」


「厚意はありがたいけど……ごめん、伯父さん」


「そうか……」


 紫輝には結婚を前提に付き合っている女性がいて、その女性を優先すると言う。

 なら、二人を別れさせれば良い。


(問題はどうやって別れさせるかだが……)


 これには左近が労力を費やす必要がなかった。

 周囲が二人を別れさせようと勝手に動いて二人を強引に別れさせた。


 その後、紫輝は誰にも何も告げずに行方知れずに。


 暫くして紫輝から送られて来た手紙で鎧騎専門に入学した事を知る。


(良し! 上手く行った! これで紫輝は徴兵されて戦場に送られる。だが、徴兵されても死ぬとは限らない。確実に死ぬように仕向けなければ。 ……そうだ!)


 以前、皇国軍には死奴と呼ばれる闇の奴隷制度がある事を懇意にしている華族から教えてもらった。


 鎧騎の部品を卸してる関係で知り合った陸軍兵器開発局の司馬しば玄人くろとに、もしも紫輝が生きていた場合には、紫輝を死奴にするよう働き掛けた。


 そして左近の思惑通りに事が運んで行くのであった。


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