第23話
何の才能や能力も持たず、ただ宗家の長男という理由だけで宗主を引き継いだ。
彼には三人の兄弟がいる。
一番下の弟――
農業や畜産関係の才能があったので成人すると直ぐに隣街の豪農の所に婿養子に入った。
真ん中の弟――
成人するまでに才能を三つ開花させた。
家族や親類、周囲の人々からも愛されていた。
左近は鉄慈に対して何も思わなかったが、自分が欲しかったものを持っている優秀な銀星には密かに嫉妬の炎を燃やしていた。
両親は銀星に宗家を継がせたがったが、物部一族の長老衆は”長子が継ぐべし!”との反対に合い、長男の左近が家を継ぐ事に決まった。
これに左近は銀星に対して心の中で舌を出して喜んだ。
当の銀星はそんな事気にせず、成人になる前に独り立ちして商売を始めた。
商売は大成功し、店は瞬く間に大商会と呼べる規模にまで発展して宗家を凌ぐ経済力を得た。
その上、呪術師として名高く、美貌の持ち主の美世を妻に娶った。
後に美世は銀星との間に四人の男児を生み、その子供達も優秀な両親の血を引き継いで才能に恵まれていた。
特に紫輝は幼い頃から博学多才で物部一族始まって以来の天才だった。
(銀星は才能に恵まれ、私には何の才能もない! 私が宗主となったのに一族の者は私を敬わない! 名家とは名ばかりの凡庸な女性を妻に押し付けられた! 私と妻の間に生まれた子供は凡庸! 対して銀星と美世の子供は天才! 何故だ! 何故、銀星ばかりが得をする! 天はどうして銀星ばかり贔屓する!)
順調で幸福な人生を歩む銀星に嫉妬心を増大させていく左近。
左近は才能の塊である紫輝に目を付け、どうにかして紫輝の能力を奪って自分のモノに出来ないかと考えるようになる。
そして、左近は自分の欲望を叶える為に外道の術に手を染めた。
自分の妻を生贄に神格を持つヘンゲを異界より召喚し、生まれたばかりの娘の命と引換えに紫輝の能力を奪って自分の物にするという契約を交わす。
『では、其奴の命はワシが貰い受ける』
「好きにしろ。ただし、才能は私がもらい受ける。その契約は守れよ」
ヘンゲは直ちに紫輝の所に向かうとまだ幼い紫輝を襲い、才能を奪って命を喰らおうとした。
だが、それに逸早く気付いた
「クソが! ヘンゲが紫輝の才能を全て奪う前に黄汰のクソガキに倒された所為で才能を完全に取り込めなかった! ……まあ良い。ヘンゲは死んだが契約はまだ生きている。紫輝が死ねばその能力を得られるだろう!」
左近は紫輝を襲った同じヘンゲに襲われ、息子は遊びに行っていたので無事だったが、妻と生まれたばかりの娘が犠牲になり、自分も襲われて大怪我を負ったと親族や周囲の人間に
そして、その時に追った怪我が原因でスキルが目覚めたと吹聴した。
左近が得た才能は【文武両道】【百科事典】【発明】の三つ。
この才能は紫輝が持っていたそれよりも遠く及ばず、下位互換と呼べるものだった。
それでも十分優秀で左近は自分の才能――【発明】を駆使して権力者とのコネ作りを開始した。
まずは商人達に自分が作った発明品を売り込み、それで名前が売れてきたら今度は華族を紹介してもらい、その華族と親しくなってより強い権力を持つ上級華族・政治家・軍人を紹介してもらう。
こうして権力者に近付き、コネを作っていった。
一方で物部本家の宗主として人格者の仮面を被り、紫輝を殺す機会を伺う。
(記憶を失う前は私の本性を悟られて紫輝に避けられていたが。記憶と才能を失った後は阿呆に成り下がったので紫輝を手懐けるのは簡単だった。だが、銀星が警戒して紫輝に【折り神】を付けているから紫輝を殺す機会がない……)
銀星は、左近の事を疑っていた。
何なら変化を使って紫輝を襲った犯人だと睨んでいる。
これは銀星の持つ【心眼】がそう訴えていた。
しかし、何の証拠もない。
だからこうして影から紫輝を見守り、左近を見張ることしか出来ずにいた。
左近もそれに気付いているので紫輝に手出し出来ないでいた。
左近は紫輝の良き理解者、良き伯父を演じながら銀星の【折り神】を封じる方法を考えた。
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