第20話

 ――その頃、紫輝は。


 赤彦が鈴が婚礼を挙げている最中に家族に知られないよう必要最低限の荷物とお金を持って家を出て、皇都に最近できた鎧騎専門学校に入学試験を受けに向かっていた。


 学校には寮もあり、住む所のない自分には丁度よかった。


 学費や生活費は魔導機械の事を教えくれた師匠の外松や子供の頃から自分に良くしてくれた物部本家の宗主である伯父から割の良い仕事を紹介して貰い、鈴との将来に向けて貯めていた貯金で賄うつもりだった。


 物部商会は手広く商売していたが、家族から疎まれ嫌われていると思っていた紫輝はあまり実家の世話になりたくなかったので物部商会とは繋がりのない所で働いてお金を稼いだ。


 鎧騎専門学校の事は物部本家の宗主で紫輝の伯父から教えてもらった。

 その上、学費や生活費の援助も申し出てくれた。


 紫輝の師匠である外松も鎧騎専門学校の存在は勿論知ってはいたが、”十六まで鎧騎に関わらせない”という美世との約束を守って紫輝には教えていなかった。


 伯父から学校入学を進められたが、当初は鈴との将来を優先して諦めていた。

 だが鈴との仲が破局した今となっては何も遠慮する必要はない。


 紫輝は鎧騎専門学校の入学試験に挑んで見事合格。


 いざ皇都で学生生活が始まった直後、紫輝は共産国との戦争で徴兵されてしまった。




 ――一方、物部家では。


「……もしかしたら、皇都に行ったかも。丁度、鎧騎専門学校の入学試験がある時期だし」


 外松の助言に従い、家族は紫輝を連れ戻そうと急いで鎧騎専門学校に向かう。

 今年入学した学生の中に紫輝の名前を見つけるも時既に遅く。

 紫輝は徴兵された後だった。


 それから四ヶ月後――紫輝の戦死を知らせる通知が物部家の屋敷に届いた。


 紫輝の死亡通知を前に家族は悲しみに暮れる。


「結局、私は紫輝の死を変えられなかった……。こんな事なら紫輝の好きなようにさせてあげればよかった……」


 美世は気を病んで塞ぎ込んでしまった。


「忙しさにかまけて紫輝君と家族の関係を築けなかった私の責任です……」


 紫輝が記憶を失くして以来、紫輝の命を狙うとある人物から陰ながら紫輝を守っていた銀星。


「俺がもっと上手くやれていれば……紫輝の記憶と能力を取り戻せていれば!」


 紫輝の記憶と才能を取り戻してやると心に決めて、その為の研究をしていた黄汰。


「違う! 僕が……僕がっ! 紫輝を追い詰めて殺したんだ!!!」


 鈴の件もあり、自分に対して行き場のない怒りと憎しみを溜め込むようになる赤彦。

 毎晩やりきれない気持ちを甘酒をあおる事で気を紛らわせる。


「そんなに甘酒を飲み過ぎると体にさわりますよ……」


「煩いぞ、鈴! 僕の事なんて放って置けばいいだろ!」


 鈴の制止の声を無視して甘酒を最適な状態で保存してくれるかめから柄杓ひしゃくで湯呑に注いでまた呷る。


「……」


 妻の鈴との仲も上手く行かなくなり、家庭崩壊一歩手前にまでなっていた。


「赤彦君、しばらく仕事を休みなさい」


「でも、父さんに負担を掛ける訳には……。それに母さんの事だってある。父さんだって紫輝の死は堪えてるはずだよね?」


「確かにね……。ですが、今の君よりまだマシです。それに君は鈴さんとちゃんと向き合わければいけません。彼女を大切にしなさい。それが亡くなった紫輝君に報いる事にも繋がります」


「わかりました……」


 銀星から時間を貰った赤彦はその時間を使って改めて鈴と対話し、一から関係を築き始めた。

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