第19話

 ――その後、銀星と美世、赤彦の三人は鈴との縁談を持って来た羽黒はぐろと鈴の両親、それにこの縁談に協力していた物部商会の奉公人達を屋敷に呼び出した。


 それにこの騒ぎを聞きつけて外松と妻の麗華も詳しい事情を聞こうと物部家にやって来た。


「鈴さんから事情は聞きました。あなた達、まるで私達家族が紫輝と鈴さんとの仲を認めないような事言ってたそうじゃないですか?」


「いや、だって……実際にアンタ達家族は普段から紫輝と仲が悪かったじゃないですか! だったら鈴さんも商会を引き継ぐ赤彦さんと夫婦になった方がためになるってもんだ!」


 反論する羽黒と物部商会の奉公人達。

 赤彦と鈴は敬称を付けるのに紫輝だけ呼び捨て。

 それだけで紫輝に対する彼等の認識が伺えるというもの。


「確かに紫輝が記憶と才能を失くして以来、私達は紫輝のためにと思い、あの子に嫌われるような事ばかりしてきました。それは否定しませんよ。周囲に誤解を招いたのは私達家族の責任でもあるわ。でもね、だからと言って私達が紫輝を嫌ってるなんて勘違しないで頂戴!」


「紫輝君は私達の大事な家族であり、愛する息子である事にかわりありません! 私達の気持ちを自分達の都合の良いように勝手に解釈しないで下さい!」


「アンタ達ぃ……余計な事してくれましたねぇ。なぁにが僕と鈴が夫婦になれば紫輝も幸せになれるだぁ? 吹かしこいてんじゃないですよ! アンタ達の所為で僕と紫輝の仲は修復不可能なくらいに拗れてしまいましたよ! どう責任取ってくれるんですかっ!」


 恨めしそうな目でまるでヤクザのように凄む赤彦。


「それに羽黒さん。アンタ、鈴さんを使って僕を操って物部商会を乗っ取るつもりだったんだってねぇ」


「で、デタラメだ!! 誰がそんな事を言ったんだい!!」


「アンタの所の番頭が酒場で酔っ払って周囲に言いふらしてましたよぉ」


「なっ!?」


「羽黒さん、今後、物部商会は貴方の商会との取引を全て停止します」


「あ、ついでに我が侯爵家も羽黒商会との取引を辞めさせて頂きますわ。あなたの商会、うちとの物産の取引で散々買い叩いてくれたでしょ? 最近ようやく証拠を掴めましたの。丁度良い機会ですわ。それと今まで買い叩いてくれた分の賠償をして貰いますので逃げないで下さいね?」


「僕の可愛い弟子が世話になったようだからね。麗華、手加減無用だよ。思い切り請求しちゃいなさい」


「勿論ですわ! 紫輝ちゃんの分も合わせてたっぷり賠償請求させて頂きます!」


「そ、そんな……っ!?」


「それと……今回の縁談で羽黒さんに協力していた君達についてですが……」


 今度は奉公人達に話を向ける銀星。


「「「すっ、すみませんでした!! でも、クビだけは勘弁して下さいっ!!」」」


 額を床につけ、土下座して詫びる奉公人達。


「君達をクビにするような事はしません。だけど、私達家族を謀り、紫輝を傷付けたんです。今後、重用も優遇もしないし、出来ない。それは肝に銘じて下さいね」


 銀星が奉公人達に死刑宣告にも等しい罰を告げる。


「「「わっ、わかりました……」」」


 銀星、美世、赤彦の普段の温厚でどんな時でも冷静な姿から想像できない怒りように奉公人達は大いに驚き怯えた。


 三人の逆鱗に触れた奉公人達にとって彼等は雇主であり、大事な生活基盤を支えてくれる逆らい難い存在だ。


 だから今回の一件に関わった奉公人達はなんとか汚名返上しようと仕事を頑張るが、中には更に怒りを招く事をしてその場でいとまを出されて商会を去った者もいた。


 その事で紫輝をぞんざいに扱っていた周囲の人々は、次は自分が制裁されるのではと恐怖した。

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