第15話
終戦後、しばらくして星皇の次男――南斗皇子は紫輝との約束を守る為、陸軍技術開発局の局長を勤めていた
対応が遅くなったのは先に国家乗っ取りを目論む奸賊を片付ける必要があった為、どうしても後回しにせざるおえなかったのだ。
調査の過程で”
陸軍技術開発局で試作された五機のもよりも完成度は高く、性能も皇国のどの鎧騎よりも遥かに優秀だった。
ただし、飛翔時の操縦がとても難しいという欠点があった。
その欠点ももう少し待てば紫輝が部品を組み込んで解決していたのだが。
ちょうどこの頃、星軍の旗頭たる南斗皇子の専用機として”
ならばと司馬が無我をねじ込んだ。
無我が採用されればまた自分の名声が高まる。
人々は自分を褒め称え、いずれは師である外松を名実ともに超えるだろうと考えた。
司馬は虚栄心の塊だった。
問題は無我の操縦性の悪さ。
だがそれは南斗の操縦技術で解決した。
星軍の旗頭になるだけあり、南斗の操縦士としての腕は一級品。
操縦性の悪さを十分補える。
問題はもう一つあった。
部品の供給だ。
紫輝が自作した一部の部品は精度の問題でどうしても再現ができなかった。
だから部品の供給を依頼されても理由を付けて作れないのを誤魔化した。
司馬の調査報告書を読み進める南斗。
隣には司馬の師である外松の姿があった。
「ほう、物部二等兵は外松閣下の弟子でありましたか。ならば部品の整合性もない五機の試作機で無我を組み上げた能力に納得できます」
「僕はもう侯爵じゃないから敬称は要らないよ。それにしても……」
「やらかしてますね……」
二人の視線は眼の前にある机に注がれている。
机の上には捜査資料が纏めて置かれていた。
資料の中には司馬が発明・開発したとされる兵器類の書類に本来の発明者・開発者の書類が顔写真付きで添付されていた。
それが山のように積まれている。
司馬の周辺を少し調べただけで出るわ出るわパクリの数々。
爵位を持たず、立場が弱い在野の発明家や研究者から技術を奪い、盗んだりしていた証拠や証言が尽きる事なく出てくる。
中には司馬に技術やその権利を売り渡したり、何らかの交渉取引で提供した者もいる。
技術提供者の中には何故か紫輝の伯父、
「鎧騎の飛翔装置の発明も実際には
「これに関しては合意の上だし、問題はないんだけど。その後がいけない」
発明の特許やその権利を買ったとしても、発明者の名前を書き換えるなんて真似はしない。
それは研究者や発明家にとって不名誉な行いである。
もし世間にバレれば信用を失い、その業界から追放されてしまう。
それだけではない。
司馬は自分が飛翔装置を発明したという名声を確固たるものにする為、発明した研究員を陸軍開発局から追放し、国家・民間の研究機関に圧力を掛けて就職できなくしていた。
「この者達、よく暗殺されませんでしたね」
「そんな事をすれば後で発明品に関する知識が必要になった時に引き出せないからね。念の為に生かしておいたんだろう」
「その研究員は現在、
「彼のような優秀な人材を腐らせるのはもったいない。彼だけではない。司馬にこのような仕打ちを受けている他の者もだ。これは司馬の師の責任として彼等の面倒は僕が見よう」
「お願いします。ところで司馬は物部二等兵が同じ外松さんの弟子であると知っていたのでしょうか?」
「ああ、知っているとも。何度か紫輝君の事を彼に話したからね。なのに、彼は紫輝君を助けるどころか死奴に堕として苦しめた。人して到底許される行為ではない」
普段の飄々とした様子から一転、外松から怒気が溢れ出す。
「……司馬はこの期に及んで黙秘を続けています。司馬の師である外松さんなら何か話すかもしれません。司馬の尋問に協力してもらえますか?」
「勿論だとも」
陸軍開発局の一室に隔離されていた司馬と面会に向かう南斗と外松。
部屋に入室すると南斗が皇軍の捜査官に取り調べの状況を尋ねるが、捜査官は首を横に振って答える。
「駄目です。何も話しません」
部屋の中央に置かれた椅子に座らされた人物――研究服の白衣に身を包んだ細面で神経質そうな男が部屋に入って来た南斗と外松に
「随分とヤンチャしていたようだね、司馬君」
「……何の事だかわかりませんな、我が師よ。」
「自分がやった悪事が多過ぎてわからないかい?」
「吾輩は何も悪い事はしていない。ただ、知を求めるのに効率の良い方法を選択したまで。それにこの方法は貴方から教えて貰ったのですが?」
「確かにそうだね。それは否定しないよ。私も他人が秘匿している知識を金で買ったり、時には盗み得た事もある。だけど、自分が発案者と偽ったり、人を脅して発明品を奪うなんて真似は流石にしていない。ましてや、自分の弟弟子を奴隷にして知識を絞り取るなんて人道にも劣る行為を教えた覚えはないよ」
「……」
「君には学術的な知識や研究者としての矜持だけでなく、人としての生き方も教えたつもりだったんだねどねえ……。君の心には届かなかったようだ」
「……」
「君を破門する」
「先程、弟弟子とおっしゃいましたが。もしかして、物部紫輝の事を仰っているのですか?
「そうだよ」
「フム……師よ。貴方は何か勘違いしをておられる」
「何をだい?」
「私は彼の伯父の物部左近に頼まれただけです。紫輝を――自分の甥を死奴にしてくれと。そうすれば鎧騎の技術や知識が際限無く手に入るとね。私はその提案に乗ったまで。その後ですよ。物部紫輝が私の弟弟子と貴方から知らされたのは」
「何? 紫輝君の伯父の左近氏が?」
外松は怪訝な表情を浮かべ、南斗や捜査官が驚く。
まさか紫輝の身内が紫輝を死奴にするよう裏で働きかけていたとは思わなかったのだ。
「……昔の君は変わった ところはあったけど、狂ってはいなかった。何が君をそこまで変えたんだい?」
「発明や研究に携わる者はどこかしら狂っているものですよ。それが優秀であればある程ね。私はそれを悟ったまで」
「私も世間から奇人と呼ばれているけれど、今の君ほど狂ってはいないよ」
「私から見れば貴方も十分狂っていますよ」
司馬は急に立ち上がると服のボタンを引き千切り、それに魔導力を込めて床に叩きつけた。
叩きつけられたボタンから大量の煙が吹き出し、室内に充満する。
「しまった!?」
「師よ! 貴方から――いや、この世界から学ぶ事はもう何も無い! サラバです、我が師よ!」
司馬は自分の体が煙に包まれる瞬間、服に仕込んでいた姿を透明にする魔道具を使う。
「司馬を逃がすな! 探せ!」
煙に紛れて司馬は逃走。
皇軍は直ちに司馬の行方を追ったが、司馬は追跡の手を逃れてまんまと逃げおおせた。
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