第12話
――皇国軍司令本部
皇国は連邦国を撃退した後、合衆国に送り込んだ諜報員から情報が送られて来た。
その情報でミドルウェイ海域での決戦前から現在にかけての合衆国側の情勢をようやく知る事ができた。
――ミドルウェイ海域での決戦二十日前
合衆国大統領ズールアンクはアドモロス研究所で開発した魔導核爆弾を決戦で皇国艦隊に使用する事を決定。
魔導核爆弾とはプルトニウムに魔導力を限界まで充填した物を使った爆弾である。
その威力は一つで小国を一瞬でこの世から消しさる威力を持つ。
魔導核爆弾はミドルウェイ島まで重巡洋艦で輸送され、島にある航空基地にて爆撃機に積み込まれてそこから出撃する予定となっていた。
その重巡洋艦に積み込まれる作業の様子を視察に来ていたズールアンクが見守る中――それは起こった。
なんと作業中に爆弾が暴走して爆発。
皮肉にもズールアンクは皇国に対して使おうとした魔導核爆弾によって地上から消滅した。
大統領の死に国民が動揺する中、事態を収拾する為に副大統領だったルートハンが大統領に直ちに就任。
だが事態の収拾はつかず、軍や政府の指揮系統は混乱したまま。
しかも合衆国において最大規模を誇る海軍基地と世界でも有数の海軍工廠のあるワントープ市の消滅だけでなく貴重な最新鋭の艦艇と大勢の経験豊富なベテラン将兵を失ってしまった。
皇国との決戦は刻一刻と迫っている。
本来の作戦では艦隊戦と見せかけて、航空機の支援で魔導核爆弾を搭載した爆撃機を皇国艦隊まで送り届け、魔導核爆弾で一気に蹴りをつける予定であった。
その策が使えなくなった今、ルートハンは軍司令部と政府に命じて国中の軍事物資や人材をかき集め、艦隊を編成して艦隊決戦を挑む事にした。
というより、そうするしか他に方法がなかった。
だが燃料・弾薬は全然足りず、訓練や作戦を練る時間すらない。
艦艇は前世代の老朽艦で航空機・鎧騎に至っては継ぎ接ぎだらけの骨董品。
オマケにそれら兵器を操るのは士官学校を卒業する前の士官候補生や徴兵されたばかりの学徒兵達。
これでは戦うどころか兵器の運用すらまともに出来ない。
この時点で降伏すれば、将来有望な若者達の命を無駄に散らす事はなかっただろう。
しかし、ルートハンはそうはしなかった。
彼の合衆国人としての誇りが、肥大化した自尊心がそうはさせなかったのだ。
「東洋の蛮族に目にもの見せてくれるわ! 我が国の人材は優秀なのだ! 例え未熟な若者でも皇国になど決して負けはしない!」
その結果――合衆国艦隊は壊滅し、彼のために多くの若者の命が犠牲になった。
――艦隊を送り出した後の合衆国では。
大統領ズールアンクの死亡とワントープ市消滅は皇国の新兵器が使用されたのが原因と嘘の情報を発表。
ルートハンは事態を収拾しながらアダモロス研究所に残されていた魔導核爆弾の組み立てを命じる。
「今度は暴走させるなよ」
「はいっ! お任せ下さい!」
だがしかし、合衆国の首都”マシント”で魔導核爆弾のお披露目中に爆弾がまたもや暴走して爆発。
今度は首都がルートハンと共に消滅した。
――さらに帝国から提供された魔導核爆弾についての情報から。
合衆国の同盟国である王国、公国、共産国、連邦国に加えて共和国は合衆国から魔導核爆弾の実物を分解された状態で提供されていた。
その魔導核爆弾を組み立て王国、公国は合衆国より先じて自国に攻めて来た帝国軍に使用。
同時期に共産国は革命軍に対して使用。
予想以上の威力に敵軍だけでなく、自国の領土とそこに住む民の命を一瞬にして焼き尽くしてしまった。
そして魔導核爆弾を提供された国々は合衆国と同じ轍を踏み、首都や主要都市、人民を魔導核爆弾の暴走によって消滅するという未曾有の被害をもたらした。
それだけではない。
魔導核爆弾の爆心地からは
化け物が人や家畜を襲って喰らうという事件が起きている。
その上、魔境界にしかいないはずの異形の獣――魔獣がどこからともなく出現し始めた。
最早戦争どころではなくなったかの国々は同盟を解消し、帝国・皇国に対して無条件降伏を宣言。
この事態を重く見た帝国・皇国は第二次大戦終戦と同時に共同で他の大国――教国、連合国、首長国、部族国を中心に各国政府に合衆国が開発した魔導爆弾の威力と使用された場合の被害を映像を交えて説明。
『魔導核爆弾とはかくも恐ろしき兵器』
――と、口を揃えて言わしめた。
帝国の首都ローゼンで敗戦国と帝国・皇国はゾネモント宮殿にて講和条約を締結。
それと同時に世界各国の賛同の下、魔導核爆弾の研究及び開発・製造の一切を国際的に禁止した。
帝国と公国の紛争から始まり、世界中に広まった戦火と戦乱は、六年の歳月を経てここにようやく終わりを迎えたのであった。
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