第9話
紫輝は戸惑う事なく無我に飛翔用の制御部品を取り付け、他の部分に異常がないか、もしくは自分が知らない改修が行われていないか点検と確認を行う。
(……これは)
「一つ、確認しても宜しいですか?」
「何だ?」
「整備の後はあるのですが……消耗している部品の交換が行われていない箇所があります。これは何故でしょうか?」
戦車や戦闘機同様に戦闘用鎧騎の損耗は激しい。
だから定期的に整備が必要なのだが、無我の部品構成は紫輝が組み立てた当時のままで変更はなく、一応整備はされているものの消耗した部品のいくつかが交換されていなかった。
「ああ……それは無我の開発者――だと我々が思っていた、陸軍技術開発局の
「そうですか。でも、このままでは不味いですね……」
「やはり、そうか……。整備担当者に見せてもらて知っている。魔動機械について素人の私から見ても部品が歪んでいるのがハッキリと判るからな」
「この状態でよく保ちましたね……。このまま部品交換をしなければ、次の出撃で部品が確実に壊れてしまうでしょう。そうなれば大事故に繋がります」
「何とかならないか?」
「少し時間を貰えれば何とか……消耗した部品を自分の【
これは嘘だ。
紫輝の【機動鎧騎術】をもってすれば部品を新品同然に完全復元できる。
そう言わないのは自分の能力が大したものではないと彼等に思わせたいから。
そうする事で再び虜囚の身となり、権力者の都合の良いよう使われるのを防ぐ為だ。
「そんな事が出来るのか?」
南斗は青史郎に向かって訪ねた。
「……紫輝が【機動鎧騎術】の才能を発現せたのは私が家族と離れて皇都に上京した後なので、私には良く解りません。本人がそう言うのならそうなのでしょう」
(おや?)
青史郎が紫輝に合わせるように嘘を付いた。
本当は青史郎が上京する数年前には紫輝は才能を発現させていた。
「時間はどれくらい必要だ?」
「部品の復元だけなら一分もあれば十分です。制御部品の取り付けと整備・調整時間も合わせると一時間は必要ですね」
「わかった。それで頼む」
――一時間後
紫輝は全ての作業を一人でこなし、無我を完全な状態にしてみせた。
そして、稼働試験で調整も十分だと判断した紫輝は無我を南斗皇子に明け渡す。
南斗は紫輝の操縦についての注意点などレクチャーを受けた後、自ら無我の試運転を行った。
「凄い! 凄いぞっ! 今までじゃじゃ馬だった無我が素直に私の言う事を聞いてくれる!」
無我の試運転を終えた南斗が興奮を抑えきれないといった感じで紫輝に言い寄る。
「ですが、戦場ではあまり無茶はしないで下さいね。先程も言いましたが消耗した部品の復元は一時的なものです。使い過ぎると直ぐに元の消耗した状態に戻ります。そこは注意して下さい」
「ああ、わかってる! 感謝するぞ、物部二等兵!」
そして、青史郎や他の将校達に向かって言う。
「物部二等兵が作ったと言う部品を取り付け、整備した無我に乗って確信した! 無我は物部二等兵が組み上げたもので間違いない!」
「そうなると、司馬局長は虚偽の申告をした事になります。これは由々しき事態ですぞ」
「許せませんな!」
そこで青史郎が紫輝に尋ねる。
「物部二等兵はどうしたい?」
「自分は一兵卒ですから名声と権力を持つ司馬局長には太刀打ち出来ません。後の事は皆様方にお任せしたいと思います」
紫輝にしてみればこの問題はもうどうでも良いし、面倒臭かったので南斗達に全て丸投げして押し付けたかった。
「承知した! この問題はこちらで処理する!」
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