第8話
翌日――潜水空母”
そのタイミングで紫輝は月読の格納庫に連れて来られた。
格納庫では整備兵が空戦型の鎧騎――”
無我の前には紫輝の兄である青史郎が数人の将校と一緒に立っていた。
青史郎はいつものしかめっ面ではなく、感情が読めない顔で若い将校の隣に控えている。
将校は青史郎よりも若く、紫輝より少し年上に見えた。
その若い将校が紫輝に問い掛ける。
「物部二等兵、君が無我を開発したのか?」
「いえ、自分が開発した訳ではありません。自分は陸軍兵器開発局が開発した鎧騎の試作機を使って組み上げただけに過ぎません」
「ん? どういう事だ?」
「実は――」
紫輝は無我について、昨日の兵士にした内容と同様の話をする。
無我は陸軍技術開発局から送られて来た試製鎧騎の五機がもとになっている事。
そのうち四機は稼働試験中の不具合や事故により損傷して動かない状態で、”
残る一機の”閃電”は開発が途中で中止され、頭部と胴体部のみであった事。
それでもなんとか無我を組み上げ、飛翔時の制御を容易にするために飛翔装置に制御部品を組み込もうとしたら、開発局の局長に無断で持ち去られた事。
「……秋水? もしや、あの秋水か!?」
紫輝の話の中で出てきた”秋水”の名前を聞いた将校達に衝撃が走る。
「確か、秋水は動力炉の爆発事故で……」
「ああ、そうだ! 操縦士が死んだ機体だ!」
「え? そうなんですか?」
「知らんのか? 結構有名な話だぞ。まあ、秋水は技術交流で帝国から提供された機体が原型らしいが」
「死人が出た機体の部品を使うなど縁起が悪すぎる!!}
憤慨する将校達を若い将校が宥める。
「まあまあ……それで? その部品を無我に組み込めば飛翔時の制御が安定するのか?」
「それを試す前に持っていかれたので……」
「その部品は今どこにあるんだ?」
「この中にあります」
紫輝は着ていた戦闘服のポッケトの中からカードサイズの金属板を一枚取り出す。
「それが部品なのかね?」
「いえ、違います」
言葉よりも見せたほうが早いと思い、紫輝はその金属板を使って見せた。
金属板を床に翳すとその床の上に機械の部品が現れた。
「何と!? それはもしや収納箱か?」
「そのような物です」
「それはどこで手に入れた?」
「自分で作りました」
「収納箱を作れるとは……物部二等兵は【魔具術】の才能を持っているのかね?」
【魔具術】とは
「いえ、物部二等兵は今はその才能を持ってはおりません。それは確認済みです」
紫輝の代わりに青史郎が代わりに答える。
「では、どうやって?」
「自分には【
話の前半は本当で後半は嘘である。
鎧騎に関わるものなら際限なく収納できるし、所持者の設定次第では他人にも扱える。
他にも色々な機能が備わっている。
紫輝が嘘を付いたのはこの技術だけでなく、他にも秘匿しているものがあるからだ。
それらを知られれば、今以上にこき使われるのは
(服部曹長にも隠し通した技術の数々。バレる訳にはいかない!)
「むう……そうなのか……」
将校達は非常に残念そうにしている。
彼等のその様子を見た紫輝は自分の判断が正しかった事を確信する。
ただし、自分の事を良く知る兄の青史郎には隠し通せる自信はない。
(兄さんにはバレてそうだけどな……)
当の青史郎は紫輝の話に特に意見する事もなかった。
「申し訳ありませんが、話を無我に戻しても宜しいでしょうか?」
青史郎が紫輝に助け舟を出すように将校達に話の内容を無我に戻すよう進言する。
「ああ、そうだったな。その部品を取り付ければ良いのか?」
「そうです。ですが、機体の調整と状態確認のために自分が操縦しなければなりません」
「そうか。では頼む」
「
(南斗様? もしかして、この人が皇子様?)
紫輝は改めて若い将校を見る。
洗練された所作と佇まい。
それに高貴なオーラを発しているような感じがする。
何より周りの暑苦しい濃厚な顔立ちの将校達と違い、青史郎とタメを張る美男子である。
「実際に彼に部品を取り付けさせて無我を操縦させればその証明となるだろう」
「確かに!」
「では物部二等兵。無我の整備と調整を始めてくれ」
「了解しました」
紫輝は整備兵から工具を借りると、無我の整備を始めた。
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