第6話
「それでは……」
軍医は青史郎と入れ替わるようにして部屋から出て行った。
「兄さん…が、どう…して……?」
青史郎は皇国の首都・皇都の学校で学者か教師を目指していた。
だが目の前にいる兄は、皇国軍のものと明らかに違う軍服を着用していた。
「私は現在、
以前と――子供の頃、一緒に暮らしていた時と変わらぬしかめっ面で紫輝に話す青史郎。
「違うっ! そうじゃない! 俺が聞きたいのはどうして兄さんが俺の前に現れたのかって事だ!」
目の前の軍服姿の兄を見て紫輝は思い至る。
子供の頃から家族は――特に青史郎は自分の事を嫌っていた。
そんな兄ならあり得ると。
「……もしかして、兄さんが……俺を”
「それは断じて違うっ!」
青史郎は声を荒らげて否定した。
紫輝の言葉に思わず動揺した青史郎は気を落ち着かせてから話を続ける。
「……国に所属する皇国軍と違い、星皇直属の星軍には死奴なんてものは存在しない。そもそも、お前が死奴になった時、私は皇太子の近習見習いになったばかりで軍とは何の関わりもなかった」
「それじやあ……、何で俺が生きてる事を知ったんだ?
「お前が共産国で戦死したという知らせの手紙が実家に送られてきた話を北斗様にしたら、お前が戦死した時の状況を詳しく調べて下さった。その時にお前が生きている事、そして死奴の事を知ったんだ」
「その時点で俺が生きてる事が判ったんだな?」
「ああ、そうだ」
「じゃあどうしてっ! 今更俺を助けたんだよっ! 俺を助けるならもっと早く出来たはずだ!」
青史郎の返答に思わず負の感情を爆発させる紫輝。
拘束されたベッドの上で暴れながら青史郎を睨みつける。
紫輝に憎悪がこもった感情をぶつけられ、青史郎はしかめっ面から苦しそうな表情に変わり、声を絞り出すようにして言葉を紡ぐ。
「……そ、れはっ、皇太子の………星皇陛下の…御命令だっ……た! 確かにお前だけならば、救い出せただろう! だが! 死奴に、されたのは……っ! お前だけではないっ! 他にもっ!! お前以外にもっ!! 皇国軍や華族達に囚われた死奴を救うのに時間と準備が必要だった!!! 個人の事情と感情だけで動いて良い問題ではないっ!!!!」
話の後半は捲し立てるようにして一気に言い切る青史郎。
「……」
確かに青史郎の言う通り。
自分一人だけ助かっても他の死奴が死んでしまえば紫輝も流石に寝覚めが悪い。
そう言われてしまうと紫輝も反論できない。
「……どうやって、俺を縛る隷属紋から解放したんだ?」
「それは――」
青史郎の話によると。
服部が座席に置いた封書の中の紙には魔法が仕込まれていた。
文書を読んだら発動する類のものらしい。
その魔法に掛かった者は一時的にではあるが死んだ状態になる。
そして直ぐに蘇生が行われる。
そうする事で紫輝に掛けられていた呪術が解かれ、隷属紋から開放される。
上層部のメンツには効力を失った状態の呪具を服部が見せれば良い。
それが紫輝が死んだという証明になるからだ。
「服部さんもグルだったのか……」
「そうだ。彼には皇国軍へのスパイとして動いてもらっていた。勿論、彼も死奴から開放してある。そして、隷属紋の呪術から解放する魔法は――
「黃汰兄さん、が?」
その道では奇人としても有名である。
「死奴にされた者に施されている呪術はとても厄介な代物だ。元は呪術師が
それに対して星皇が星皇家に伝わる秘技を使って呪術を解呪する方法を提案した。
だが、その秘技には命の危険が伴う。
使用を一歩間違えれば本当に死んでしまう可能性があるからだ。
そこで黃汰が秘技を魔法で再現し、安全を確かなものにして完成させた。
これには元・呪術師で紫輝や青史郎達の実の母――
「母さんも……」
「今でこそ呪術のスキルを失っているが、皇国でも屈指の呪術師だった。その経験を活かして黃汰の研究を助けたんだ。それに、私達の師匠――外松先生も色々手助けしてくれた」
紫輝が青史郎を話を聞き入っている。
紫輝の精神状態が落ち着いてきたと判断した青史郎は紫輝の拘束を解きながら話を続ける。
「魔法が完成した時、真っ先にお前を解放する予定位だった。だが,その時には既にお前は”皇国の死鬼”として有名になっていた。その状態で先にお前を解放してしまうと皇国軍や華族達に警戒感を持たれる。そうなると、他の死奴を解放しようとした時にこちらの作戦に気付かれてしまい、救出が失敗する可能性が高くなる」
「……」
現在の皇国の政治・軍事は伯爵以上の一部の華族達によって支配されている状況にある。
その上位階級の華族達はとある人物とクーデターを画策。
星皇家から国を乗っ取り、貴族が支配する公国のように華族が支配する国に変えようとしていた。
もしも選民思想を持つ華族が皇国を支配すれば、国民を自分達の所有物として奴隷のように扱い、皇国は地獄と化す。
だから――
「星皇陛下は華族制度の廃止を決定されたのだ」
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