第5話

 ――合衆国との戦闘開始よりニ時間後


 紫輝は服部に命じられた通り、潜水艦を全艦轟沈させた後は皇国の艦艇に向かって来る合衆国軍の水戦鎧騎や魚雷を排除しつつ、艦艇のスクリュープロペラを破壊していき動きを封じ込める。


 動きを封じた艦艇に対して皇国軍や星軍の艦艇や攻撃機・雷撃機がその隙に集中砲火を浴びせて沈めていく。




 合衆国は今回の艦隊決戦前に皇国との三度の艦隊戦で旗艦艦隊が壊滅し、名将やエースパイロットといった熟練の将兵が大勢戦死した。


 それに以前から皇国に補給路を潰されて戦線は物資不足に陥っている。


 合衆国は資源大国だ。

 鉱物資源は豊富に存在し、それが合衆国の工業を支えている。

 農業や畜産といった他の産業も盛んだ。


 だが、例え兵器や支援物資が在ったとしてもそれを必要とする兵士達に届かなければ意味が無いし、その兵器を操る肝心の兵士が経験不足の未熟な新兵ばかりでは本来の能力を発揮できない。


 皇国軍も艦隊決戦前は合衆国軍がそれらを補う何らかの作戦や伏兵を用意しているのではと予測し、警戒していたが――蓋を開けてみればそんなものは無かった。




 現在、合衆国連合艦隊は今の戦闘で鎧騎を搭載していた揚陸艦を数隻残して壊滅。


 それに対して皇国側の損害は駆逐艦ニ隻と軽巡洋艦一隻が撃沈。

 航空機が十一機、鎧騎は空戦・水戦合わせて七機が撃墜もしくは行方不明。

 

 残りの損害は軽微で戦闘に支障はない。




 結果、この時点で皇国の勝利が確定した。




 そして皇国の連合艦隊旗艦”凄ノすさのおう”から全艦艇に向けて作戦終了と自軍の勝利を伝える無線連絡が入る。

 続いて鎧騎と航空機に向けて母艦から自軍勝利と作戦終了の信号が送られる。

 鎧騎と航空機はそれぞれの母艦に帰還した後、艦艇の撃沈や機体の撃墜で海に投げ出された将兵の捜索と救助に当たる。


 紫輝の機体にも作戦終了の信号が送られて来た。


「……やっと終わった」


 ほっとして座席にもたれ掛かると目を瞑って感慨に浸る紫輝。


(俺の命、保ったな……)


 再び目を開けると出撃前に服部が座席に置いた封書を破って中に入っている指示書を取り出した。


 だが、中に入っていたのは指示書などではなく一枚の紙だった。


 その紙には一言――


『取り敢えず、一回死んどけ』


 ――と、書かれてあった。


「え……?」


 その紙を見た紫輝は驚きと困惑の声を漏らす。


 書かれてあった内容にについて思考を巡らせようとした瞬間――紫輝は気を失った。







「……う…ん?」


 次に紫輝が気付いた時、そこは小部屋だった。

 紫輝の両手足はベットに備え付けられた拘束具で拘束された状態だった。


「あっ、気が付いたかい?」


 声がした方を向くと軍服の上から白衣を着た四十歳前くらいの男が扉近くの椅子に腰掛けて座っていた。

 男が紫輝が気が付いたの知ると、紫輝に近付き診察を始めた。


「ここは?」


「ここは星軍せいぐんの潜水空母”月読つきよみ”の医務室ですよ、物部紫輝二等兵。私はこの艦に一時的に乗り込んでいる軍医です」


 そして軍医は艦内の伝声管を使い紫輝が目覚めた事をどこかに伝えた後、拘束された紫輝を診察する。


 紫輝は服部の封書に入っていた紙に書かれていた文書を読んで何故か気を失った。

 その後、海中を漂っていた紫輝の海鵜を十束に収容されたのだ。


「何でそんな事を? それにこの拘束具は?」


「拘束具は君が目覚めた時、混乱して暴れた時のためだよ。私は君を診るよう指示されただけだから。詳しい事情はこちらに向かってる私の上官に聞いてくれ」


「……」


 一体どうなっているのか?

 紫輝には何が何やらさっぱりだ。


「失礼する」


 暫くすると軍医が言っていた上官とやらが現れた。

 部屋に入って来たその人物を見た紫輝は驚愕のあまり目を見開く。

 それは紫輝にとってよく知る人物だった。


「に、いさん……?」


「久しぶりだな、紫輝」


 その人物とは紫輝の実の兄であり、物部家の長男――物部もののべ青史郎せいしろうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る