第4話
陸軍上層部が紫輝のために急遽用意した機体は初期型鎧騎”
合衆国との決戦場に向かう小型揚陸艦の格納庫で紫輝がこれから搭乗する機体。
球形の胴体に手足が付いた人型――海鵜を見上げる。
「せめて一回くらい練習させて欲しいもんだ……」
紫輝は海鵜に乗り込み、操縦マニュアル片手に零式との違いを確認する。
ベテランの鎧騎乗りでも初見の鎧騎を訓練もなしで使いこなすのは不可能。
しかし、紫輝には【
例え初めて乗る機体であっても、それが鎧騎であれば乗りこなせるのだ。
「お~い、どうだ~? イケるか~?」
紫輝の上司――服部曹長が相変わらずやる気のなさそうな目で海鵜に乗る紫輝に話し掛ける。
海鵜の搭乗口――頭頂部から頭を出して答える。
「操作方法は覚えました。ただ、実際に海の中で動かす時の視界や操縦感覚が分からないんで何とも……。でも、何とかしなきゃならないんでしょ?」
「お前さんなら何とかなるだろ。それで任務内容だが。合衆国艦隊の潜水艦と水戦鎧騎を排除しつつ艦艇の動きを封じてくれ。後、余裕があれば魚雷の排除も頼む」
「艦艇は撃沈、じゃなく――ですか?」
「幾ら何でも鎧騎で艦艇の撃沈は無理だ。 ……まあ、お前さんなら出来るだろうが、流石にそこまで無理強いはしないさ。出来たとしても他の奴等のために手柄を残しておいてやれ」
「了解しました」
「それと任務終了後についてだが。海鵜の座席に指示書を封書に入れて置いとくから。任務終了後に封書を開けてその書かれてある命令に従ってくれ。以上、紫輝二等兵の健闘を祈る!」
服部が紫輝に対して畏まって敬礼するとそのまま立ち去った。
――七日後、皇国と合衆国との間にあるミドルウェイ海域。
紫輝は海鵜の整備と武装のチェックを済ませると、いつでも発艦できるよう海鵜の中で待機する。
(やっぱり、待機所よりも鎧騎の中が一番落ち着くな……)
目を瞑り、感覚を研ぎ澄ます。
すると、遠方――艦隊が向かっている方向からとても大きな気炎と熱狂を感じ取る。
(……そろそろか)
直後、艦内に警報が鳴り響と艦の後部ハッチが開放される。
『合衆国艦隊と会敵! 物部二等兵は発艦準備が完了しだい速やかに発艦せよ!』
艦内放送で紫輝に出撃命令が下る。
鎧騎を起動し、異常が無いのを確認すると後部ハッチから海中に飛び込む。
(静かだ……)
海の中は今までの戦場と違い、鎧騎の起動音や動作音以外の環境音がしない。
まるで、この世に自分一人しかいない錯覚に陥る。
だが、海鵜の魔導探知機には周囲に存在する友軍の反応を映し出していた。
「んじゃあ、行きますか……」
紫輝は敵艦隊に向けて海鵜を進ませた。
――三十分後
戦況は皇国有利のまま順潮に進み、紫輝は敵合衆国軍の水戦鎧騎を撃墜しながらこの海域に存在する全ての潜水艦を撃沈させた。
そこまですると流石に武器・弾薬が尽きたので、一旦補給のために小型揚陸艦に帰還する。
(揚陸艇が無事なら良いけど……)
潜水中は無線が通じないので海鵜には通信機が積まれていない。
その為、海軍や紫輝といった潜水中の鎧騎乗りは現在の状況確認が出来ない。
(探知機からの反応からこの辺に揚陸艦がいるは……いた!)
揚陸艦はまだ健在だった。
帰還信号を送ると後部ハッチが開かれと海中より這い上がり、そこから着艦する。
後部ハッチが閉じられると紫輝は機体から降りて休む間もなく海鵜の補給作業を始めた。
そこへ服部曹長がやってくる。
「戦果はどうだ~?」
「この辺にいた潜水艦は全て沈めました。あと、潜水型鎧騎の”シードッグ”を三十機ほど撃墜しました」
作業の手を止める事なく淡々と答える紫輝。
「相変わらず凄まじい戦果だね~……」
「戦況は?」
今度は紫輝が服部に尋ねる。
「こちらが有利。 ……なんだが、ちょっと向こうの様子がおかしい」
「合衆国軍の――ですか?」
「ああ。戦略や戦術が物凄く稚拙なんだ。艦艇同士の連携が取れなかったり、艦艇が強引に突っ込んで無茶な戦法を仕掛けて来たり。まあ、前の海戦で合衆国軍は旗艦艦隊をうちに叩かれてベテラン将兵が大勢戦死している。それで経験不足の新人に代替わりしたのも理由にあると思うんだが~……」
「合衆国について何か情報は入ってないんですか?」
紫輝の疑問に服部は手を左右に振って否定する。
「いや~、曹長ごとき下っ端にそんな重要な情報は回って来ないよ~。まあ、
「了解」
服部との会話が終わると同時に海鵜の整備と補給が完了した。
紫輝は海鵜に乗り込もうとした所で服部に声を掛けられる。
「それとな」
「何でしょう?」
「生き延びろよ、紫輝」
服部は珍しく真面目な口調で紫輝に言う。
紫輝はそれに違和感を感じたが、それも一瞬だけ。
いつものように軽く言い返す。
「服部さんもね」
「ああ、そうだな……」
「では、行きます」
紫輝は再び死と狂気が渦巻く戦場へと向かった。
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