第3話
――世歴一九四五年 一月
時は遡り、合衆国との最終決戦の五ヶ月前。
紫輝が先の作戦任務で大破した乗機の”
高性能を追い求める陸軍にしては珍しく、疾風は整備性と性能バランスが優れたとても扱いやすい機体で、鎧騎の中では生産数が最も多い。
いくら自分が
短期間で五機の鎧騎を同時開発できるのは驚嘆に値するが、実情は五機とも試作機で、そのうち四機は稼働試験中の不具合や事故により損傷したり大破したりで部品が欠けており、どこかしら壊れている。
秋水に至っては両腕を残して全損。
残る一機の閃電は途中で開発が中止になってしまったので頭部と胴体部分しか製作されていなかった。
なので、正常に動く機体は一機もない状態だ。
「これでどうしろと?」
「修理して使えってさ。あっ、そうそう。今度の任務は海上での空戦を想定してるから、最低でも飛翔装置は使えるようにしておけよ~。お前なら出来るだろ?」
「無茶振りにも程があるっ!?」
紫輝は直ぐに機体の状態を確認すると、壊れて使えない部分を分解して切り離していく。
「震電と閃電は胴体内部の主要部品が共通してるから震電を中心に組み上げよう。後はそれぞれ使えそうな部分――閃電の頭部、秋水の腕、キ64の脚、火龍の背部飛翔装置を震電に移植する」
使える部品を調整しながら、足りない部品は自作して僅か三週間で組み上げた。
こうして試作機をゴコイチにした鎧騎――”
「このままでも使えない事はないけど……。う~ん、やっぱり空中での稼働時間と制動や姿勢制御がキツイな~……。でも、この程度なら飛翔装置に追加で制御機器を取り付けるだけで済みそうだし……。仕方ない、また部品を自作するか」
そうして部品を作って戻って来たら――
「あれ? 機体が無い?? どゆ事???」
慌てて上司である服部に報告に向かった。
「服部曹長ーーーっ!! 格納庫にあった俺の機体が無くなってるんですけど!?」
「ああ、それなんだが……」
服部は困り果てた顔で事情を説明した。
陸軍技術開発局の局長で試作五機の設計・開発者でもある
それについて服部が開発部に苦情と返還を求めたのだが――なんと、星皇直属の
「どうすんですか!? 飛翔型の鎧騎なんて空きが無いでしょ!!」
飛翔装置を搭載した鎧騎は現在二機種が存在する。
陸軍の”
如何に飛翔が可能とはいえ戦闘機に比べれば空戦能力は劣り、コストも掛かる鎧騎を大量生産する意味はあまりない。
なので飛翔型鎧騎の生産は少数に留まり、配備数も少ない。
「ホント、どうしょうかね~……。取り敢えず、上に報告して相談して来るわ……」
後頭部を掻きながら陸軍本部に向かった服部。
その服部の報告に陸軍上層部もこれには慌てた。
今回の合衆国との戦闘は紫輝ありきの作戦だ。
紫輝が抜けると皇国は負けないまでも大損害を被り、そうなれば自分達に責任追及の手が及んで来る。
それに”皇国の死鬼”を参加させるのは既に決定事項。
皇太子が指揮する星軍からの要請であり、統帥権を持つ星皇から直々の命令――詔勅である。
拒否は出来ない。
今更参加を拒否すればその理由を問われ、自分達の不手際を責められる。
それだけではない。
”皇国の死鬼”は――死奴の存在は皇国軍の秘匿事項。
この国の頂点に立つ
もしも星皇に紫輝の事がバレたら自分達の人生が詰む。
”皇国の死鬼”は――紫輝は有名になり過ぎた。
「今度の戦争が終結したら”皇国の死鬼”を始末する!」
この時、陸軍本部の上層部では自分達の保身のために紫輝を処分する事が決まった。
それはそれとして、今は紫輝の機体の問題だ。
飛翔装備の鎧騎は陸軍・海軍ともに余剰はない。
どの部隊もギリギリの数で運用している。
「服部! お前が何とかしろ!」
ならばと陸軍上層部は作戦計画の変更を服部に命じる。
今度の合衆国との艦隊決戦において作戦計画を立てたのは服部だ。
実は今まで皇国の陸・海軍の重要な作戦計画の立案や骨子を作ってきたのは彼である。
死奴は皇国軍の共有財産でなので陸軍・海軍の垣根はない。
ただし、兵器や軍用品といったものに関してはその限りではない。
「それでは海軍から潜水装備の鎧騎を借りて下さい。それならまだ予備の機体があるはずです」
「海軍に借りを作る事になるが……今回は致し方あるまい」
「それと――今度の作戦終了直前に物部二等兵を暗殺します。それなら戦死として処理できて疑われる事もありません」
「その辺はお前に任せる。……しくじるなよ?」
「はっ!」
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