第2話
――
大戦開始から六年、紫輝が学徒兵として徴兵されてから五年が過ぎた。
あれから戦争は益々激化し、鎧騎を含む兵器類は目覚ましい進化・発展を遂げた。
皇国の初戦の相手――共産国は内紛を抑える事が出来ず、未だ国内の混乱は続いたままで皇国との戦争どころではない。
その御蔭で皇国は合衆国との戦争に集中出来た。
ただし、紫輝が配属されたその部署は他の鎧騎隊や戦車隊からは”ど底辺”、”雑用”、”ゴミ漁り”と揶揄される部隊――零部隊である。
しかも、直属の上官である
兵員が入ってきたとしてもそれは一つの作戦任務のために一時的に所属するだけだった。
一時的に入った兵員も当初は紫輝を卑下するか、馬鹿にするか、同情するかのどれかだが、任務後は偶然出会っても二人を避けて関わろうとしなくなる。
普通は閑職に追いやれたと思うのだが――実際には閑職に追いやられた方がマシだと思う程の過酷な任務ばかり。
服部の仕事は作戦指揮だけで作戦実行は紫輝がほとんど一人で行った。
その上装備や備品、部品の支給は最低限。
必要なら工廠や関係工場のスクラップ場から回収して来いと言われる始末。
そして鎧騎の整備や修理は自分の機体は自分で行う。
なのに給料はたったの
手当やボーナスは一切無し。
ちなみに皇国で使われている貨幣の単位は円・銭・厘の三つ。
現代日本の貨幣価値に換算すると――
一円=一万円
一銭=百円(一円の一○○分の一)
一厘=十円(一円の一○○○分の一、一銭の一○分の一)
この待遇の理由は――紫輝が
皇国軍や華族(貴族)の間では死奴と呼ばれる奴隷制度が存在した。
死奴にされる者は立場が弱い者、貧困層出身者、犯罪者など事情は様々。
そういった者達の中から優秀な
そして自分達を裏切らず、逆らわないようにする為に魔導具の一種である呪具を使う。
それは隷属紋を体に刻む道具であり 命令を与える道具であり、呪術の核でもあるタグ型の道具だ。
この呪具を使って相手の意志や行動を制限し、使役する。
こうして死奴を生み出し、自分達のために働かせ、その功績や利益を吸い上げる仕組みを作り上げた。
無論、この奴隷制度は非合法であり、皇国法や国際法では認められていないので犯罪行為に該当する。
当然、この法を破れば罪に問われ、極刑もあり得る。
だがそれを許しているのは皇国軍の上層部であり、社会の上流階級に君臨する華族達だ。
圧力があるのでメディアもこの事を調べたり報じたりはしない。
もしそんな事をすれば――自分達が明日の朝日を崇めなくなるのを知っているからだ。
部隊の隊長である服部も死奴だが、彼は陸軍上層部から紫輝を監視する役目を命じられている。
もしも命令を聞かなければ――体に刻まれた隷属紋と繋がっている呪具を使って言う事を聞かせると配属初日にそう宣告された。
そんな状況の中、紫輝は誰からの助けも得られないまま過酷な戦場を必死になって生き抜いた。
その結果――”
紫輝達の活躍により、皇国は合衆国の交易路や補給路を着実に潰して戦線で物資不足を起こさせ、合衆国お得意の物量作戦を困難にした。
それだけではなく、暗号通信の中に偽情報を潜ませて合衆国を撹乱。
同時にこちらの情報漏洩を防ぎ、防諜対策をしっかりと行った。
そうして次第に追い詰められていく合衆国。
合衆国は何とか戦況を覆そうと海上戦力を結集して互いの領土の間に広がるミドルウェイ海域にて皇国との最終決戦に臨む。
対する皇国は海軍が誇る連合艦隊。
そして星皇直属の
そんな皇国の大艦隊に何故か陸軍所属の小型揚陸艦が紛れていた。
その艦内の待機所では紫輝がやる気のなさそうな目をした上司の
「……何で陸軍の俺達が海軍に同行してるんですか?」
「
「星軍から?」
「
「そうですか……。それはそれとして、自分は鎧騎の水中運用なんて初めてなのですが? 習熟訓練も受けてないですし……」
「奇遇だね~、俺もだよ」
「そんなんで自分達が役に立つんですか?」
「あ、俺は艦内待機だから。いつものように君一人で頑張ってね~」
「んな事だろうと思ったよ!」
紫輝は文句を言いながらも初めて乗る潜水仕様の鎧騎で自らに課せられた任務を全うし、合衆国との戦いは終結した。
ホッとしたのも束の間。
本国に勝利の知らせを送った直後、折返しの連絡を受けた。
共産国の北にある連邦国が突如皇国との不可侵条約を破り、皇国の北方にある島々に侵攻したとの一報だった。
連邦国は皇国が海上戦力を結集し、合衆国と海上戦を繰り広げている間に皇国に侵攻して領土を切り取る腹積もりであった。
だが皇国は合衆国との戦いでの被害は少なく十分な余力を残していた。
皇国軍と星軍の合同艦隊は全速力で現場に直行し、これを撃退。
これにより侵攻に投入した連邦国軍の戦力はほぼ壊滅。
連邦国は読みを誤り、多くの兵士を失って敗退した。
一方、西洋大陸では。
第二次大戦の切っ掛けを作った帝国と公国の戦争は、帝国が公国に加担した王国ごとまとめて叩き潰して勝利を収めた。
さらに隣国であり、敵対国でもある連邦国が皇国に侵攻中と知った帝国は今がチャンスと連邦国に攻め入った。
皇国への領土侵攻で戦力が低下していた連邦国は急いで軍を呼び戻すも時既に遅く、皇国の大艦隊により壊滅した後だった。
これにより連邦国は態勢を立て直せず帝国に大敗した。
そして――合衆国、共産国、連邦国、王国、公国からなる同盟軍は皇国・帝国に対して無条件降伏を宣言。
こうして第二次大戦は幕を閉じた。
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