彼は機械人形とダンスを踊る
真田 貴弘
長い長いプロローグ(前日譚)
第1話
――
ガガガガガッ! ズドドドッ! ドンッ! ドンッ!
戦車の砲撃や機関銃の嵐を掻い潜り、直方体の胴体に手足が付いた全高四mの機械の乗り物――
「ヒッ、ヒイイイィィィ~~~~~ッ!? し、死ぬ~~~~~~っ!!」
鎧騎の中で搭乗者が恐怖から大声で叫んでいる。
チュインッ! チュインッ!
横からの銃弾を避けるが何発か機体をかする。
「学徒兵は後方支援じゃなかったのかよ~~~~~~っ!?」
若干十五歳の少年兵――
一年前――西洋大陸で帝国と公国の二つの国で紛争が起こった。
切っ掛けは帝国領内にあった鉱山地帯を公国が自分達のものだと主張した事から始まった。
紛争はやがて戦争へと発展。
ニ国の衝突は周囲の国々にも混乱をもたらし、やがて戦火が拡大。
今や世界中のあちこちで敵対国同士が干戈を交え、ニ回目目の世界大戦――第二次大戦に発展した。
紫輝が所属する海洋国家の島国――皇国は、大陸国家で西にある隣国――社会主義の共産国の侵攻を察知。
皇国を治める
逆に共産国に攻め入り皇国への侵攻を阻止した。
だが戦況が進むにつれて広大な領土を要する共産国に対して戦力不足と補給線の構築の困難さ、そして共産国軍の人海戦術による攻勢に次第に苦戦するようになる。
共産国との戦争が長期化する中、皇国の東――広大な海洋を挟んだ先の北大陸にある資本主義の国――合衆国が共産国と軍事同盟を締結して戦争に参戦。
実は共産国を唆して皇国に戦争を仕掛けるよう裏で糸を引いていたのは合衆国だったのだ。
王国と共に公国に肩入れして西洋大陸での戦いに注力していたはずの、しかも主義が対立する共産国との同盟成立に皇国で激震が走った。
両側から挟み込まれた皇国はさらなる苦戦を強いられる。
しかし、折しも共産国内部では民主主義を主張する反政府組織が誕生し、各地でテロ活動や軍事衝突が発生して政府は手を焼いていた。
その隙に皇国は共産国のある大陸からの撤退を決定。
直ぐ様、撤退のための海上輸送船の派遣と支援隊が送りこまれた。
紫輝は鎧騎の開発・製造・操作を教育・育成する専門学校に入学したその年に戦線拡大と戦況悪化を理由に徴兵された学徒兵の一人である。
徴兵されて調練もそこそこに支援隊に配属された。
共産国に着いて早々に作業用鎧騎で撤退作業を行っていた最中――共産国の軍に襲撃された。
友軍の部隊のほとんどは既に輸送船に乗り込んでいて出撃には時間が掛かる。
その間、支援部隊の正規兵が応戦するも多勢に無勢。
敵軍の前に次々と倒されていった。
そして、残ったのは紫輝だけとなった。
「何の訓練もしてないズブの素人を……いきなり戦わせんじゃねえっ!」
武装は敵にやられて大破した友軍の鎧騎が装備していた重厚な作りの刀が一本。
戦場で拾ったその刀で共産国の戦車を乗っていた兵士ごとぶった斬る。
搭乗席の投影板には切り裂いた戦車の裂け目から流血する兵士の姿が映し出される。
初めて人を殺した。
その精神的ショックで搭乗席で吐いた。
「ウップ……ッ!? ゲボッ!!」
(は、吐いてる場合じゃないっ! 何とかこの包囲を突破して友軍が来るまで逃げ切らないと!)
紫輝は投影板にかかった吐瀉物を片手で拭いながら鎧騎を操作して動かす。
素早く移動しながら敵の攻撃を掻い潜り、相対する敵兵や兵器群を鎧騎の刀で片っ端から倒しながら突破口を必死で探す。
そして敵の攻撃を避けてまた移動。
それを無我夢中で延々と繰り返す。
その結果――この戦場に援軍が到着した頃には紫輝の乗る鎧騎以外に動くものは存在しなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます