第21話 チャリティーライブ

 6月になると、パンデミックの影響での規制はなくなり、皆でダンスの練習ができるようになってきた。

 参加するメンバーは、熱心にダンスの練習に励んでいた。

 皆は、チャリティの成功を祈って、お互いを励ましあっていた。


 夏休み最後の日曜日に、夕方にライブは行われた。

 8月末の天気は、秋のように空気が澄み渡り、快晴の日だった。

 アリーナは演出を担当していたので、衣装担当の梨花と同じく、裏方になったが、イヴォンヌはダンサーとして踊ることになっていた。

 当日の集客は、広場で知り合ったストリートバスケやラッパーの友人達がS N Sで行い、オンラインでの観戦の宣伝もしてくれた。

 日本に住む梨花の姉も時差はあったが、大学の友人にオンラインで観戦を勧めていた。

 もちろん、同居している祖母や叔父夫婦も、皆で一緒にライブを見ていた。

 アリーナは初めての演出に、かなり緊張していた。

 着替えは教会ですることになっていたが、梨花は衣装の着用の間違いがないか、念入りにチェックをした。

 イヴォンヌはダンスに参加していたが、アクシデントが起きないことを祈っていた。

 

 オープニングは、黒人と白人がMCバトルで今回のチャリティを行う説明をした。

 2人は『戦争で苦しんでいる、全ての人の為に寄付をして欲しい』と頼んだ。

 

 まもなく、4人の子供が出てきて白い文字でPECE(平和)と書いた青いシートが引かれた。

 そのシートから白い鳩が二羽現れて、青い空へ飛んでいった。

 暫くして、それを裏返し赤い文字でBLOOD(血)と書かれた、血文字のような白いシートに変わった。

 その後カラスのコスプレをした子供達2人が、シートを踊りながら周ってから、手に持って引き上げていった。

 

 やがて黒い服を着た人達が現れ、歌を歌い出した。

 マリアとリムも一緒に参加しているゴスベル音楽で「OH、HAPPY DAY」だ。

 

  歌が終わると、MCバトルが1番のダンスのテーマを語った。宗教の違いをネガティブに語ったが、神は違っても、信仰をするの事は同じだと、最後はお互いを理解し受け入れようと言った。

 

 最初のダンスは13~15歳のジュニアが、エヴァンゲリオンの主題歌の「残酷な天使のテーゼ」を、各国のサッカーの公式ユニフォームを着て踊った。


 2番目のMCバトルは『鬼滅の刃』の鬼は、人を食らった分だけ強い鬼になるが、

 元は善良な人間だったと伝えます。最初から人は悪人ではない、だから偏見はやめようと2番のダンスの説明をした。

 

 ダンスは8〜12歳のキッズが鬼滅の刃のテーマ「紅蓮華」をアニメと同じ和物で、コスプレした子供達が踊った。

 これには、梨花の弟海斗も参加していた。

 

3番目のMCバトルは、お互いの人種をネガディブに言い合うが、悪口を言うだけでは何にも解決しない。

 同じ一つの世界に生きる人間なのだから、力を合わせれて、乗り越えよう。

 

 この組みはイヴォンヌも踊り、男女15~18歳のハイティーンが黒人と白人、ヒスパニックで、ジャネット・ジャクソンの『リズムネイション』を陸軍と海軍の軍服を着て踊った。

これは『貧困』『人種差別』がテーマだ。

 アップテンポで振り付けも難しく、ハイグレードのダンスなのでかなりの練習を要したが、見応えがあった。

 

 最後のMCバトルは、ロシア人とウクライナ人の青年が、お互いの国を非難し合ったが、苦しむのは国民だと最後は戦争の終結を願った。


 4番目は、大人が顔にロシアとウクライナの国旗を描いて、民族衣装でコサッダンスを踊った。

  これは、アリーナの両親のバレエ団が参加してくれた。

  その後に、ゴスペルの合唱団がロシア民謡の「黒い瞳を」ウクライナ語とロシア語で歌い、団員達がそれに合わせて踊った。

 

 大トリは祈りを込めて「アメージング・ソング」全員で合唱した。

 

歌い終わると、後ろに[PEACE OF WORLD]と書いた仕掛け花火を点火した。

 梨花は、花火を見ると、自然に涙が出てきた。

『わずか30分足らずのショーだったが、無事に終わった』

  それは他のみんなも、同じ気持ちだった。

  3人はやり遂げたという、達成感と高揚感に包まれた。

  参加者だけでなく、見ている人も感極まり涙とブラボーの嵐の中でパフォーマンスは終わった。 

 

 梨花とアリーナは滞りなく終わったことに、抱き合って喜んだ。

「よかった。やり遂げたね、アリーナ」


「みんなのおかげよ。ありがとう梨花、イヴォンヌ」


「頑張った甲斐があったね。梨花、アリーナ」

 

 アリーナの両親やバレエ団の人達も、国を超えた励ましをとても喜んでくれた。

 見にきてくれた、リムやマリアや梨花の家族も感激してくれた。


ライブで集まったお金は、全てユニセフに寄付された。


これをきっかけに、アリーナは自信をつけて、演出の仕事をする為の大学を選ぶ事に決めた。

 持病のせいで両親のようなダンサーになれないことに、劣等感を持っていたが吹っ切れたと話していた。 

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