第16話 暴行の主犯

 一年が経ちワクチンや薬の開発などで、パンデミックも徐々におさまってきた。

 広場の停止線も解除になったが、梨花達は広場に集まることがなくなった。

 学校は再開されたが、課外授業はまだ始まっていなかったし、大学に行くために、勉強もしなければならないからだ。

もうすぐ4年生になる。

マリアもリムもアリーナも同様だった。

梨花はジェフとも、メールをするだけになった。


ジェフは再び仲間と、広場でストリートバスケをしていた。

プロバスケット選手になるための派手なパフォーマンスはここで試していた。

ジェフはGリーグにスカウトされて、チームの所属は決まっていた。

そこへ、元仲間のギャングのウイリーが話しかけてきた。

「よう、ジェフ久しぶりだな」

 

「ウィリーも元気そうだな」


「あの女とは仲良くやっているのか?」


「あの女って誰だよ? 」


「東洋人の黄色い女さ」


「おい、やめろよ。その言い方」


「なんだ、今でも付き合っているのか?」


「お前には、関係ないだろ」


「俺さ、黄色い人間は嫌いなのさ。だってこのパンデミックの原因だろ」


「そんなの、わからないだろ」


「だから、黄色い男を痛めつけてやったぜ」


「なんだって」


「5人でさ、気持ちよかったな」


「お前、なんてことしたんだ」


「蹴り上げたら『やめてくれ』と何度も言って、面白かったぜ」

ジェフは彼の胸元掴んで、殴ろうとしていた。


「おい、俺だけじゃないよ。他にもいたよ」

ウィリーはジェフの手を払って、得意そうに話を続けた。


「だったら、警察に自主をしろ。そうしないとおまえ達の薬の売人の頭と、取引の場所を警察に垂れ込むぞ」


「わ、わかったよ。みんなを何とか説得するよ。少し時間をくれ」

  ウィリーはジェフの剣幕に驚いて、少しビビッていた。


「ああ、一日だけ待ってやるよ」


「明日、みんなとここにくるよ。それで勘弁してくれよ」


「必ず来いよ」

ウィリーは逃げるようにして走り出し、ジェフはその後ろ姿を苦々しく見た。


翌日ジェフは、広場でバスケをしながらウィリーを待っていた。

そこにウィリーが、仲間とやってきた。

「おいジェフ、約束通り連れてきたぜ」


「お前か、こいつに説教をしたのは」

ギャングの黒人はジェフを挑発した。


「罪のない人をアジア系というだけで、暴行するのはよくない。相手は大怪我をして、家族も大変な思いをしている。警察にいって自首しろ」


「戯言言うなよ。これが返事だ」

そう言って男は、銃を出した。


「トム、よせよ。話が違う、危ないだろ」

ウィリーがジェフの前にたちはだかった。

  その瞬間に、辺りに銃声が鳴り響いた。

広場にいた人々は、慌てて逃げていった。

ジェフを警護していた警官が出て来て、トムを取り押さえたが、銃弾はウィリーの胸に当たっていた。

そして、そこにいたギャング達もみな捕まった。

騒ぎが収まると、人が集まってきたが、警官に止められた。

教会での礼拝が終わった梨花達3人も、駆けつけた。

そこで、見たのは血だらけの少年とそれを抱えるジェフだった。

 

  ジェフは、梨花を見つけて話しかけた。

「梨花のパパを襲った犯人は、ここにいるギャングたちだ」


  梨花は顔を覆って、そこに座り込み起き上がることができなかった。

目の前で起きた出来事が、ショックで梨花は喋れずにいた。

 「梨花、家に帰ろう」

「大丈夫、送っていくから」

リムとマリアは、梨花を抱えて、家に連れて帰ることにした。

 

  撃たれたウィリーは、すぐに救急車で運ばれたが病院で息を引き取った。

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