第14話 マリアの家族

 パンデミックはリムやアリアの家族の生活を変えた。

マリアの叔父の店は長い間、テイクアウトのみでの営業に切り替えた。

 マリアもデリバリーを手伝ったりして、応援した。

 看護師の母アナは感染こそしなかったが、毎日の激務で心身共に疲弊をしていたが、家族の励ましと使命感で乗り切った。

  梨花の家族へのビデオレターを撮影してくれた事への感謝も、仕事を続けるモチベーションになった。

 

大学講師で父親のカルロスは4人兄妹の末っ子で、在宅でリモート授業になったので常に家にいた。

 マリアはいつか聞いてみたかった、メキシコの歴史の不明な部分を質問した。

 それは、自分の知らないメキシコの悲しい過去を知る結果になった。

 メキシコが、スペインの植民地にされたのは知っていた。

メキシコ人のほとんどが、スペインと現地のインディオの混血で、メスティーソと呼ばれていて自分もその子孫だとはわかっていた。

  彼らはスペインの統治下で、アシェンダと呼ばれる農園や牧場の管理する職業にしか就けなく生活は貧しかった。

  食べ物も白人が食べ残した物を、工夫して食べていた。

  白人が食べないで残した豚の内臓や頭を料理して、昔からあったトルティーヤに包んで食べたのがタコスの始まりだ。

  フランス人が食べていたフランスパンをまねたテレラという柔らかいパンに具材をはさんだのがトルタ。

  何故フランスパンなのかというと、元々テキサスはメキシコの国の一部だった。

  十九世紀にアメリカに併合されたが、南北戦争をしていた隙に、フランスがメキシコに戦争を仕掛けてきた。

  結局フランス軍は撤退して、テキサスはアメリカに編入されたままになった。

その時に食べていたフランスパンがテレラとなり、トルタというサンドイッチに形を変えた食文化になり、今まで食べ続けられている。

マリアの父親の祖先はテキサスに住んでいたのでそのまま、アメリカ人となった。

その頃のテキサスは牛の牧畜が主要な産業で、メキシコ人はカーボーイとして働いていた。

戦後石油が発掘されると、牧場が減りカーボーイーの重要も少なくなった。

そして新たな仕事を求めて、ニューヨークにやってきた。

 マリアの曽祖父は、ニューヨークでメキシコ料理のストリートシェフを始めた。

 その後は、祖父ホセの代になってから店舗を構え、今は長男に店を任せ、別の店舗の2店は息子と娘で営業していた。

 ホセは今でも、頑張って店を手伝っている。

 

 カルロスの話は更に続いた。

 スペインの侵略は土地だけでなく、宗教にも及んだ。

 スペインは土着の宗教をカトリックに改宗させた。

 メキシコ野蛮な国でなく、マヤやアステカという優れた文明があったが、全てスペイン人によって破壊された。

 また原住民もスペイン人に抵抗して殺されたが、それよりもヨーロッパから持ち込まれたウィルスによって多くの人が死んだ。

 パンデミックは昔からあり、多くの人が死んでいたこともわかった。

 話を聞き終えたマリアは、悲しくなった。

自分が知っていた歴史はほんの一部でしかなく、メキシコは文化的に優れていたこともわかった。

そして、今まで信じていた神に疑問を感じずにはいられなかった。

信じていたカトリック教は、征服者の道具として扱われ、統治する為に利用された。

でも、自分の身体には征服者と征服された両方の遺伝子が共存している。

カトリック教に疑問を感じだが、イエス・キリストに罪があるわけではない。

そう自分に言い聞かせたが、頭の中は混乱していた。

マリアは自分でも、もっと調べることにした。

同じキリスト教でも、プロテスタントはどうなっているのか、興味が湧いてきた。

学校には行けないので、インターネットや本を買って読んで調べることにした。

マリアは最後に、カルロスに聞いた。

「パパはスペイン人を恨んでいないの?」


「<罪を憎んで人を憎まず>これは中国の故事だよ。人を憎むことは負の連鎖に繋がるからね」

 

 マリアはその言葉に、ハッとして気がついた。

「イエスの教えにも<汝 隣人を愛せよ>ていう似たような言葉があったよね。(たとえ、敵対する者であっても、その人が困っていたり、苦しんでいるなら助けの手を差し伸べることでその人と隣人になることができる)って」


「そうだよ。マリア、これはイエスの教えと同じだよ。人は憎むのではなく愛すれば争いもなくなるし、戦争は起こらなくなる」


「でも、今の私にはできそうもないな」


「マリアも、いつかできるようになると、パパは信じているよ」


「そうだね。きっといつか、できるといいな」

  マリアは、カルロスが言った故事を心に刻んだ。

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