第11話 ダンスバトル

梨花とアリーナはイヴォンヌの勧めでヒップホップダンサーとして広場での応援に参加することになった。

 そこでイヴォヌはジェフとはセカンダリー・エディケーションが同じ学校で仲良しだったと話してくれた。

 今日はアリーナと二人で、ゲームの応援を見学に来た。

 参加者がどんな踊りをするのかを確認して、振り付けを考えるためだ。

 イヴォンヌは広場でもダンスチームの中心になって、黒人チームの応援をしていた。

彼女は得意のヒップホップダンスで、振り付けを担当していた。

梨花は黒人チームで踊っているイヴォンヌを、息をするのも忘れたように見いっていた。

  ウェイブをした時の胸のホップが高く、前後に動く波のようなしなやかさと、爆竹が破裂したような爆発的なエネルギーに梨花は圧倒された。


  見学の後、梨花とアリーナは黒人達のリズム感や身体能力には叶わないから、振り付けと衣装でカバーをしようと話し合いをして、踊りのテーマを忍者に決めた。

  梨花は得意のソーイングで、赤とピンクの忍者の衣装を作り狐のお面を揃えた。

  振り付けはアリーナがバレエの要素を入れた踊りにしたいと言い、それに梨花が同意した。

  音楽は和楽器を取り入れた『千本桜』

  放課後練習を重ねて、1ヶ月後に広場でお披露目することとなった。


 当日の広場には、マリアとリムと梨花の家族が見にきていた。

 梨花は初めてのことに緊張をして、手が震えて靴の代わりに履いた直足袋の金具がうまく止められなかった。

 それはアリーナも同じだった。

 アリーナは何度も人前で踊ったことはあったが、それは稽古場や舞台でのことでストリートではなかった。

 ましてや自分が振り付けたダンスを披露するのは初めてで、アリーナは忍者の頭巾の前後を間違えて被ってしまった。

 それに気づいた梨花が、優しく微笑みながら直してくれた。

「アリーナ、こう被ってね。これで良くなったでしょ。でも、緊張してたのね」


「梨花、ありがとう。ちゃんと衣装合わせしたのに、だめね!」


「いいのよ。だから、踊りも少しぐらい間違えたってみんな気づかないよ」


「そうね、お面被ってるからこわばたった顔もわからないしね。忍者にして良かった。この衣装すごくカワイイ」


「ありがとう。アリーナのソロの踊りが入って、全体のレベルも上がったし」


「大丈夫、最後まで踊り切ろうね」

  二人は、抱き合って成功を祈った。

 

  広場に立つと音楽が始まり、二人は踊り出した。

  二人の忍者は敵対関係だ。

  最初は二人でシンクロして踊り、敵だと分かってからは違う踊りを交互にする。

  二人で戦う時は、アリーナがバレエの回転技のターンを入れ、手裏剣や投げ縄を使って、踊りに組み入れエンターテーメント感を出した。

  最後は歌舞伎で使う蜘蛛の糸を、アリーナがジェッテしながら梨花に振りまき、それに絡まれた梨花が倒れて終わった。

  わずか1分ほどの短い踊りだったが、激しい踊りと機を衒った演出に、皆が惜しみない拍手を送ってくれた。

この後の広場は、片付けをしてゲームが始まる。


教会の事務室で着替えて戻ると、リムとマリアと梨花の家族がチャペル内で待っていた。

梨花とアリーナの二人は、踊り終わったばかりで興奮していた。

梨花とリム、アリーナとマリアの4人はハイタッチをした。

「ハーイ、二人とも凄くカッコよくて感激したわ」


「忍者の振り付けも良かったし、衣装もよく似合っていたよ」

 

「お姉ちゃん、上手だったよ。僕も踊りたい」

海斗は手裏剣を投げる、ポーズをした。


「ナイスだったよ。ご褒美に夕食はすき焼きだ」」


「パパ、嬉しい。今夜はサイコー」

梨花は狐の真似をして、顎の下で手を揃えて小さくジャンプした。

 それを、見ていた海斗が真似をして、飛び跳ねた。

 

「皆が待ってるから、早く広場に行こう」

 二人は、友人と家族に急かされながら広場に向かった。


「凄く、良かったよ」

イヴォンヌは足早に近寄ってきて、二人の踊りを褒めてくれた。

それを見たブレイキンのビーボーイの一人が、忍者の衣装を作って欲しいと梨花に話しかけてきた。

彼はイヴォンヌの友人だったので、梨花は作ることにした。

「衣装も振り付けも踊りも、二人とも素晴らしかった」

イヴォンヌに誉められた梨花は、次は浴衣をアレンジした衣装で踊りたいと話した。


「いいね、今度は私が振り付けをするよ」


梨花とアリーナは狐のお面を被って、周りを飛び跳ねて喜んだ。

梨花はイヴォンヌにライバルチームの応援をしていることもあり、振り付けを頼むことに遠慮していたことを告げた。

「なんだ、気にしないでよ。ダンスは余興で試合じゃないよ」


「それより、今度はここのみんなと大勢で踊らない?」

アリーナの提案に、イヴォンヌは賛成した。


「それじゃあ、後で振り付けの動画を送るよ」


「アリーナ、良かったね。早く振り付けを覚えないと」


「はい梨花、俺たちの衣装も頼むよ」

ジェフの黒人チームの応援をしているダンサー数人が、梨花とアリーナの周りを囲んだ。

「もちろんお金は、少しだけど払うよ」


「いいわよ。そうね、ミリタリーにしようかな」


「海兵隊の?」


「そう古着を買ってきてくれるかな?それと帽子も」


「わかった、見つけてくるよ。なんかカッコよさそだな」


「いいアイデアが浮かんだわ」

  梨花は右手を上げながら、敬礼のボーズをとった。


  この事がきっかけで梨花の作る衣装は評判となり、いろんな人から頼まれることが多くなった。

  それと同時に、インスタグラムのフォロワーも増えてきた。

  梨花はここで踊ったおかげで、ジェフの友人達とも仲良くなった。

  梨花はジェフの意見も参考にしようと考え、メールアドレスも聞いた。

 

 その後も梨花とジェフは広場以外で会うことになり、二人の関係は友達以上の関係に発展しようとしていた。

  広場で試合を見物した後は、家まで送ってくれた。

  帰り道の地下鉄の中で、家族や友人趣味とバスケ以外の話をした。

  彼も昔はギャングで、悪い仲間とも遊んでいたが、法律に触れるようなことはしていないと話していた。

 プロバスケットプレーヤになるには、クリーンでなければいけないからだ。

 梨花はジェフの言葉を信じた。

 二人はここのままずっと、この広場の仲間達との楽しいハイスクール生活が続くように思えた。

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