第8話 アリーナの秘密
3ヶ月が過ぎ、梨花はハイスクールの生活にもだいぶ慣れてきた。
今では着ていく服も楽しみながら、選べるくらいに余裕が出てきたが、来月はもうクリスマスだ。
通りでは、もうイルミネーションの飾り付けも始まった。
ハイブランドが主流のマンハッタンとは違い、ニューヨークの下町はストリートファッションの宝庫だ。
初冬とはいえ、梨花には街ゆく人たちの装いもとても参考になる。
今はストリートファッションも、ダンスファッションが主流となっている。
学生でお金がない梨花は、フリーマーケットで古着を買ったり、ママのお下がりを自分でリメイクしたりしてオリジナリティを出していた。
グランマが若い時に着ていた服も、もらって大事に着ている。
ファッションは、自己主張だと梨花は考えていた。
それには、誰とも被らないように気をつけた服を選びをする。
時々は、気に入ったコーディネートをインスタグラムにも投稿した。
まだフォロワーは少ないけど、それでも気にしなかった。
買った物は新品でも、必ずひと手間かけてオリジナリティを出す。
スニーカーにもひと手間かけて、ラメが入ったマーカーでペイントした。
カットソーにもラインストーンをつけて、ストレッチのレースを袖に縫い足した。
ジーンズは自分で破って、ダメージにして顔料マーカーでペイントした。
梨花が好むオシャレとは、個性的で機能性がありながら人とは違うのがポリシーだ。
アリーナと始めたヒップホップダンスは、梨花には難しく中々うまく踊れなかった。
「アリーナは流石に、バレエが踊れるから上達が早いわね。羨ましいわ」
「そんな事ないわ。バレエとは使う筋肉が違うし、胸を出すホップが上手くできないのよ」
アリーナはウェイブを踊ってみた。
「アリーナ。何故バレエを辞めたか、おしえてくれるかな?」
「うーん、病気なのよ」
アリーナは俯き加減で、言いにくそうに答えた。
「へえ~以外。ダンスも踊れて元気に見えるけど」
「私も全然気づかなかったけどね。実は、心臓の病気なのよ」
「えーっ、それは大変だ」
「脊柱側湾症という病気で、曲がった背骨が心臓を圧迫するの。思春期の女の子に見られる病気だけど、年齢が経つにつれて自然に治る事もあるの」
「そう、だったら安心じゃない」
「だから、暫くは様子を見ているの」
「でも、治らなかったら?」
「手術をしなければならないの」
「えっ、手術しないといけないの」
「手術しても、ペースメーカーをつけなきゃならないの。それに子供が産めなくなるかもしれないって」
アリーナは悲しそうに、下を向いた。
「心配しないでアリーナ。私たちはまだ15歳でしょ、後10年もすればきっと医療が進歩して、普通に出産できるようになるわ」
「なら、いいけど」
「アリーナ、悲観しちゃダメよ。希望を持って」
梨花は、俯いていたアリーナの肩を引き寄せて励ました。
「そうね、それよりヒップホップダンスを早く覚えないと」
「あんた達、随分頑張っているじゃない」
イヴォンヌが声をかけてきた。
彼女は久しぶりの課外授業への参加だ。
人から聞いた話では、もう既にプロダンサーとして踊っているそうだ。
「イヴォンヌ、久しぶりね」
アリーナと梨花の2人は、イヴォンヌとハイタッチをした。
「ああ、2人ともすぐに辞めると思っていたけど」
「ダンスは楽しいし、私達2人は打倒イヴォンヌに燃えているのよ。ねえアリーナ」
梨花とアリーナは、体の前で腕を組んだ。
「ははっ、踊りはまだまだだけど。そのモチベーションがあれば続けられるね」
「やったー、認められたわ」
梨花とアリーナは親指を立てて喜んだ。
「ウェイブが、上手く踊れるコツをおしえてやるよ」
イヴォンヌは二人の前で、ウェイブを踊って見せた。
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