第6話 浴衣と盆踊り
日曜日の梨花は、朝からそわそわして落ち着かなかった。
今日はリムと一緒に教会に言って、マリアを驚かす計画だからだ。
今朝、祖母の真知子が浴衣を持って、梨花の家族の住むマンションにやってきた。
梨花と美樹にの為に、真知子が仕立てた物だ。
梨花は美樹の分の浴衣を、リムに着てもらうことにした。
リムはイスラムだけど、ヒジャブはしていなく、梨花より少し背が高かった。
マンションにはもう一枚沙羅の分があったので、マリアにはそれを着てもらうことにした。
マリアは小柄で梨花と身長が同じくらいだ。
巻き毛の黒髪で顔立ちも、ラテン系で彫りが深く目も黒に近い茶色だ。
浴衣は地味だが、髪の毛を派手にセットすればマリアは、可愛くなると梨花は考えた。
「おはよう、グランマ」
「梨花おはよう。暫く見ないうちに、また背が伸びたかしら」
「そんなことないよ、ねえ浴衣早く着せてよ」
梨花は待ちきれないようで、真知子をせかせた。
「梨花、まだリムがきてないわよ」
「もうすぐ来るわよ。昨日の夜考えたの。リムと先に浴衣を着て、教会までマリアを迎えに行って驚かそうって」
「じゃあ急がないと。先に髪をセットしてね」
真知子は薄いピンクの朝顔の模様と、向日葵の柄の二枚の浴衣をハンガーにかけて、帯を出して下駄を玄関に置いた。
「ママ、お願い。髪の毛をセットするのを手伝って」
「わかったわ。その前に前開きの服に着がえてね。脱ぐときにセットした髪が壊れるから」
梨花は、返事をして部屋に着替えに向かった。
その時、来客を告げるオートロック音が鳴った。
「ハ―イ、今日はお世話になります」
リムが部屋に入ってきて、ハンガーにかかっている浴衣を見て感激した。
「オー凄くかわいいですね。黄色に向日葵が華やかで綺麗です」
リムは早速浴衣を、羽織ってみた。
「似合いますか」
「イイね」
3人は親指を上にする合図をした。
二人は地下鉄に乗り、マリアのいる教会に向かった。
すれ違う人達が、二人をジロジロと見ていたので、梨花はちょっと恥ずかしかった。
教会に着くと、まだミサが終わっていなかった。
2人は外で待つことにした。
教会のそばの広場にはバスケットのゴールがあり、そこで黒人の子達がストリートバスケットをやっていた。
その中の1人の背が高く、かっこいい少年が、2人に声をかけてきた。
「ハーイ俺は、ジェフ。その服かわいいね、日本の民族衣装の着物? 」
2人は顔を見合わせながら質問に答えた。
「ちょっと違うけど、似ているかな。浴衣っていうの。着物のカジュアル版かな」
「へえー、特別な日に着るの?」
「まあね、盆踊りってダンスを踊る日にね」
「それで」
「じゃあ、ここで練習をするの?」
「違うよ、今日友達を迎えにきたの」
「俺も、そのダンスが見たいな」
2人は、狐のお面を被って盆踊りの格好をした。
その時ミサが終わったマリアが教会から出てきて、2人に駆け寄ってきた。
「梨花、リム、ずるいな先に浴衣を着ているなんて」
「ごめん。2人で先に着て、マリアを驚かそうって」
「私も早く浴衣を着たいな」
「分かった。マリア、早く行こう」
梨花がそういうと、3人は地下鉄の駅に向かって歩き出した。
「バーイ、ジェフまたね」
「ああ、またな。日曜はここでゲームをしているから」
梨花はあったばかりのジェフが、とても気になった。
マンションに戻った梨花達3人は、早速マリアに浴衣の着付けをした。
藍色で麻の葉の柄の浴衣を着たマリアは、少し不満そうだった。
「2人みたいな、綺麗な色の浴衣がいいな」
「ごめんなさいね、沙羅の物だから若いマリアには地味よね。そうだ帯がリバーシブルだから、結び方を変えて派手にしましょう」
真知子は申し訳なさそうに言いながら、帯結びを派手に直した。
「嬉しい、可愛くなった。髪型を派手にすれば大丈夫です。ありがとうございます」
「気に入ってもらって、良かったわ」
「じゃあ、グランマが先生になって、盆踊りの練習開始」
「イェイー」
3人は輪になって、手を高く上げた。
「東京音頭でいいの」
「うん、それでいいよ」
「僕も踊りたい」
そこには浴衣を着て、ひょっとこのお面をかぶった海斗がいた。
「海斗、『鬼滅の刃』みたいになって凄くクールだね」
海斗はポーズをとった。
「海斗も練習する?」
「うん、でも写真撮ってからね」
沙羅が携帯を持ち、梨花、リム、マリア、海斗の4人が並んで写真を撮った。
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