第5話 アシュケナージ

 入学してから、1ケ月が経ち10月になった。

  3人は今日も、カフェテリアでいつものようにランチを取っていた。 

 マリアは、リムと二人に課外授業の受講を提案をした。


「ねえ、課外授業は何にするか決まった」


「私は、俳句かな」


「ええリム、俳句わかるの?」

 梨花とマリアは、びっくりして思わず声を上げた。


「これから勉強すればいいじゃない。ねえ梨花そうでしょ」

 得意そうに話すリムは、マリアを誘った。


「うん。でも、字の数とか季語とか難しいかも?」


「あら、よく知っているじゃないマリア」


「梨花、私はそれしか知らないのよ」


「なーんだ」


「あなた達、迷っているならフォークダンスにしない」

 近くにいた、ロシア系の女の子が話しかけてきた。

 金髪で白い肌の白人で、目はブルーで背が高く、すらっとした美人だ。


「はーい、私はアリーナでウクライナ人よ」

 梨花達3人は、お互いに自己紹介をした。


「失礼だけど、あなたはアシュケナージなの」


「違うわよ。宗教はユダヤ教じゃなくて、ロシア正教よ。母親はロシア人でウクライナ人の父と結婚したの。私が産まれたのはニューヨークよ。何故そんなことを聞くの?」


「ニューヨークに住むウクライナの移民は、アシュケナージが多いから」


「そうなの!あなたは、メキシコ人でしょ」


「そうよ。それとクリスチャンよ!」


「じゃあ、同じキリスト教とね!」


「私はイスラムよ」


「宗教は関係ないわ!エスニックの人達に声をかけるのは、民族ダンスは素晴らしいと知って欲しいから」


「フォークダンスが」


「そうよ、踊りの原点だから。みんなで一緒に踊ると楽しいでしょ。日本の盆踊りもあるわ」


「梨花、盆踊り踊ったことある?」


「うん、子供の頃日本のお祭りで」


「ねえ、ダンスは楽しいから一緒に踊らない?」


「どうする?」

マリアは、リムと梨花に聞いた。


「それにいろんな衣装が着られるわよ」


「梨花、興味があるんじゃない」


「うん、そそられるな。マリアとリムはどう」

 梨花は2人の様子を伺った。


「少し体験したいな。アリーナいい」


「いいわよ、明日の2時にここに来て。待っているから」

 アリーナは教室を指定して、他の子達にも声をかけに行った。


「ねえマリア、アシュケナージって何?」


「それは、ロシア系のユダヤ人よ。リム」


「ユダヤ人って、ウィリアムズバーグに住んでいる帽子を被った人達じゃないの?」


「あの人達とは宗派が違うの。あっ、午後の授業が始まっちゃう。また今度説明するね」

 3人は席を立ち、カフェテリアから教室へ向かって歩き始めた。


 梨花は学校から、家に帰宅した。  

台所では真が夕ご飯の支度をしていた。

「ただいま、パパ。夕ご飯は餃子なんだ」


「そうだよ、包むのを手伝ってくれないか」


「いいわよ」


「ねえパパ、『アシュケナージ』って知っている」


「いきなりなんだ?」


「学校で民族舞踊に誘ってくれた、ウクライナ人のアリーナっていう名前の子がいるの」


「ほう、その子がどうした」


「マリアが彼女の事を『アシュケナージ』なのかって聞いていたの」


「マリアは詳しいな」


「そうなのマリアは、遺伝子考古学を勉強したいって言っていたからかな」


「それは凄いな。アシュケナージはロシア系のユダヤだよ。まあ、ニューヨークにはユダヤ人が多いからな」


「ジャズの演奏家にも多いの」


「いや、クラシックが多いかな。ピアニストには『ウラジミール・アシュケナージ』っていう有名なピアニストがいるよ」


「そのまんまじゃない」


「アメリカのエスタブリッシュメントは、ユダヤ系が多いからな」


「それって政治で言えば、民主党でしょ」


「うん。でもユダヤ人は日本には、ほとんどいないかな」


「そうなの、アメリカに多い理由は?」


「彼らはナチスから迫害されて、アメリカに逃れてきたのさ」


「ナチスってドイツの?」


「ヒットラーはユダヤ人を嫌ったのさ」


「何故?」


「彼らが、商売上手で金持ちだったからかな」


「でも、みんなお金持ちになりたいのでしょ」


「お金の儲け方にもよるかな」


「やり方がフェアじゃないの?」


「うまく説明できないけど。そうだ、シェクスーピアの『ベニスの商人』を読んでごらん、それを読めば少し理解できるよ」


「わかった。月曜日に学校の図書館で探して、読んでみる」


「梨花、海斗を呼んできてくれないか?」


「お手伝いをさせるの?」


「今日は沙羅が、ガイドの代理の仕事で遅いのから、3人で食事を済ませるように言われている。だから早く作らないと」 


 梨花は海斗に声を掛けた。

「海斗、ママは仕事で遅くなるから、3人で早めのご飯にするよ」

 海斗はファミコンのゲームを止めて、台所に来て餃子を包み始めた。


「ほう、海斗は上手に餃子を包めるようになったな」


「僕はパパが作る餃子が大好きだから、いっぱい食べるよ」


「おお。嬉しいな」


「ママの分はちゃんと残しておいてくれよ」


「ううん、美味しいからママの分も食べちゃうよ」


「それは困ったな」

 2人は、声をあげて笑った。

 その様子を、海斗が不思議そうに眺めていた。

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