第4話 パパのキャラ弁

 学校生活にも慣れてきた3人は、カフェテリアでいつものようにランチをとっていた。

ハイスクールになっても、梨花の弁当は父の真が作っていた。

それに対しマリアは、自分で作っていた。


「ママは看護師の仕事の仕事が忙しいの。ハイスクール生になったのだから、自分のことは自分でしなさいって言われたの」


「そうか偉いな。マリアの今日のランチは?」


「バカラオトルタ。これパパの店で一番人気なの」


「材料は何?」

 

「それがね、干鱈(バカラオ)とトマトなの」


「え~、以外」

 

 リムはバカラをトルタを美味しそうだと眺めていたが、梨花が作り方を教えて欲しいと頼むとマリアは快く応じた。

 詳しいレシピを祖父のホセに聞くと答えた。

 するとリムも魚が材料ならば、自分も食べられるので梨花と一緒に作り方をお覚えたいと言ってきた。

 梨花は週末に父親の真の予定が空いていれば、家で集まって作ろうと提案して、

 2人は週末に梨花の家に行くことにした。


「ねえ、それと梨花のパパはキャラ弁は作らないの?」


「海斗の分は作っているよ。じゃあ、今度から私の分も頼んでみようか!みんなが見たがっているって」


「うん、お願いしてみて」

キャラ弁に興味深々なリムとマリアにとっては、本物が見られることは嬉しかった。

 

 アメリカでは、ランチは決まった時間に皆カフェテリアで取ることが義務付けられている。

 カフェテリアにはハンバーガやピッツアもあるが、メニューはカロリーの高いジャンクフードが多い。

 だから、ほとんどの子が家からサンドイッチを持ってくる。   

 日本のように家族が作ることはなく、子供が毎朝自分が用意してくる。

 サンドイッチといっても、パンにハムと野菜を挟んでジップロックの袋に入れてくるの簡易的な物だ。

 梨花は父親の真が、弁当を作ってくれるので助かっていた。

 マリアも今は、タコスやトルタを自分で作ってランチにしている。

 日本ではメキシコ料理と言えばタコスが有名だが、メキシコ本土ではトルタもソウルフードの一つだ。

 リムはイスラム教徒なので、ハラール料理を母に教わりながら、持ってきていた。

 自分で作っていない梨花は、2人が大人に見えた。

 

今日も3人は、いつものカフェテリアでランチを食べようとしていた。

「ねえ、今日はパパがキャラ弁作ってくれたの。見て!」

 梨花はキャラ弁を自慢げに弁当箱の蓋を開けた。


「ジャーン、ハローキティです」


「ワー、カワイイ。食べるのがもったいない、ねえマリア」


「本当だ。梨花のパパ、天才」

 

 リムは、スマートフォンを取り出して写真を撮った。

「ねえ、写真をツイッターに載せていい」


「もちろんよ。パパが喜ぶわ」


「ねえ、キャラ弁部なんてあったらいいね」


「あるわけないよ」リムは残念そうに言った。


「じゃあ、3人で作ろうよ」


「いいね、梨花のパパが講師でさ」

マリアとリムは『いいね』と親指を立てた。


  それからも、梨花のキャラ弁は、『トトロ』『ピカチュウ』と進化してリムのツイッターで評判になった。

 

 予定通り、日曜日は梨花の家で、マリアがトルタを作る講習会をする日だ。

 マリアのおじいちゃんのホセは、メキシコ料理店を経営していた。

 今は息子でマリアの叔父さんが跡を継いで店をやっている。

 店はとても流行っていて、梨花やリムも家族で何度も食事に行っていた。

 おじいちゃんも昼間の間は店の手伝いをするが、夜は孫たちの為に夕ご飯を作ってから店に出る。


 真はマリア、リムに久しぶりに会えて嬉しそうだった。

 海斗は、3人に会えて嬉しくなり、マリアの手を取った。

 

「ねえマリア、後で僕とゲームしようよ」


「いいわよ、海斗。リムも一緒にね」


「海斗の将来は、ゲーマーになるのかな」


「そうだよ、ゲームができれば、みんなが意地悪しないよ」


「ええ、海斗いじめられているのか」

 真は海斗に、確かめるように話しかけた。


「僕はいじめられていないけど、アジア系の子はエスニックと呼ばれて差別されている子が多いよ」

 

 「そんな子は、ナゴの守の呪いを掛けてやるっていいな」

リムはアニメの『もののけ姫のナゴの守のまねをした。


「大丈夫だよ。今はパパの作るキャラ弁のおかげで人気者なの」


「へー」

  梨花、リム、マリアが感嘆の声を上げた。


「みんなが僕のキャラ弁を見にくるよ」


「ねえパパ、僕の友達のママにも、キャラ弁教えてくれないかな?」


「海斗、パパは日本食でしか作ったことがないからな。アメリカ人の口には合わないかもしれないな」


「でも、パパみんなが僕みたいなキャラ弁が食べたいって言うんだ。だからお願い」


「そうか、じゃあサンドイッチやハンバーグで考えてみるか?」


「ありがとうパパ、皆に話してみるね」

  海斗は嬉しそうに、ゲーム機の方に歩いていった。


「今日は、パパの料理のレベルをあげる日になりそうだ。そうだ、トルタのパンをアンパンマンの形にして焼いたキャラ弁なんてどうだろ?」

 

「いいね」

真の提案に、3人は指を立てた。


 その後真は海斗のクラスメートのママ達相手に、キャラ弁教室を開催する事になった。

 最初は梨花のアパートだったが評判になり、人数が増えて入り切らなくなった為に公立のホールを借りることになった。

 真のキャラ弁教室は評判となり、それをきっかけにライブを見に来てくれる人も増えてきた。

仕事を紹介してくれる人も出てきて、収入にも繋がった。

「本当に助かっているよ。キャラ弁教室で知り合った人達が、ライブを見に来てくれたり、誕生日の演奏を頼まれるれこともあるし、やってよかったよ」

父親の真がこの事を楽しんでいるのが、梨花としても嬉しかった。

 

真は演奏の仕事がなかった駆け出しの頃は、居酒屋でのアルバイトをして生活の足しにしていた。

真と沙羅が結婚してからもしばらくは、沙羅が生活を支えていた。

その代わり仕事がない昼間は、真が家事を行い子供達の面倒も見ていた。

ニューヨークの共働きの夫婦は、上手に家事をシェアしている。

子育ても日本では育メンと呼ばれているが、アメリカではそれが普通だ。


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