第3話 新しい学校
梨花はブルックリンに暮らす15歳の日系人だ。
秋から公立ハイスクールに通い始めたフレッシュマンだ。
セカンダリー・エディケーションとは違い少し大人の仲間入りをした気分だ。
制服もなくオシャレな梨花は、着ていく服を選ぶのが毎日の日課だ。
梨花は160センチと日本人では、普通だがアメリカでは低いほうだ。
髪は黒髪のセミロングのストレート。
小柄なので、着こなしに工夫が必要だ。
でもそれはセンスを磨けるチャンスと、前向きに考えている。
将来はファッションデザイナーを目指していて、大学はパーソンズに行くつもりだ
芸術関係では有名な大学で、何よりニューヨークにあるからだ。
元グッチの元デザイナーでトムフォードも卒業生だ。
学費は奨学金を受けて行く事を考えている。
アメリカでは、学費はローンか返済の必要がない奨学金が普通だ。
日本のように親が出すことはない。
梨花の家は、裕福ではないが貧しくもない。
アメリカで一番多い階層だ。
梨花の家族は両親と、19歳の姉と10歳の弟がいた。
姉の可奈は子供の頃から日本の漫画やアニメが大好きだったので、いずれは 日本に留学をする為に日本人学校に通学した。
成績が優秀な可奈は、日本の公立高校に推薦入学で入り留学することができた
更に、特待生として授業料も免除された。
留学先の高校は千葉県で、予定通り父方の祖父母と一緒に暮らすことになった。
今は卒業して国立大学に入り、園芸課を専攻して農家を目指していた。
外国人特待生なので授業料は免除されていたが、生活費は祖父母が負担していた。
その代わりとして、祖父母の農作業を手伝うことになっていた。
真の祖父母の家は大きな農家で、叔父が後を継いでいる。
美樹は植物に興味があり、農業をしたかったので、祖父母の家での生活は楽しかった。
アメリカでは、子供の頃から将来の事を考えて学校を選ぶのが一般的だ。
日本人のように大学に入ってから、考えたりはしない。
その為に、中学や高校から専門的な道を選ぶ子が多い。
両親は梨花にも日本人学校か私立の学校に行く事を勧めたが、梨花は地域の公立学校に行くと言った。
オシャレに興味がある梨花は、制服がある学校は嫌だったからだ。
高校も大学も、ニューヨーク市の学校に行く事を希望していた。
梨花はブルックリンが好きなので、地元のハイスクールを選んだ。
梨花の父はジャズミュージシャンで、アルト・サックスを吹いている。
母は日本の旅行代理店のニューヨーク支店で働いている。
家の中では日本語を喋るが、生まれた時からのニューヨーカーだ。
アメリカでは公立のハイスクールは授業料がかからないが、地区以外の学区に入る場合は試験がある。
梨花の通学しているブルックリンラテンスクールは、セカンダリー・エディケーションの頃からのクラスメイトも少なくない。
メキシコ人のマリアとマレー系のシンガポール人のリムの二人はジュニアからの親友で、一緒にこの高校に行こうと決めていた。
「ハーイ梨花、同じ学校になれて嬉しいわ」
「ほんと、クラスは別々だけどリムもマリアも一緒のハイスクールで嬉しいわ」
「三人が、同じクラスじゃないのが少し残念だけど」
「今までと同じように仲良くしてね」
「ランチは一緒にカフェテリアで食べようね」
三人は人種も宗教も違うけど、おしゃれと音楽におしゃべりや美味しい食べ物が大好きなティーンエイジャーだ。
「ねえ、聞いてよ。すごくかっこいい素敵な男子を見つけたの? 」
「また白人なの? 」
マリアが呆れて、突き放したように問いかけた。
「リムは、白人が好きだから」
梨花はリムの白人好みを、からかった。
「金髪の青い目のジョンよ」
「ああ、アイルランド系のカトリック教徒ね」
「リム宗教が違うじゃない? 」
マリアと梨花は、声を揃えてリムに言った。
「それは構わないわ、でもフランソワの彼だって噂が」
「あらあらリム、もう失恋なの? 気の毒ね」
マリアが諦めきった様子で慰めた。
「そう、きっと白人同士でくっつく運命なのよね」
「ああ、残念」
3人は自分たちを、少し憐れむような声で呟いた。
「やっぱり、アジア系はブラックしか相手にされないのか」
「リムそれは、偏見よ」
「でも、マリアはブラックが嫌いじゃないでしょ」
「私は、肌の色より、宗教が同じでないと」
「マリアはクリスチャンだから、アメリカでは難しいわね」
「リムだって、イスラム教徒でしょ?」
「じゃあ、梨花は仏教徒なの?」
「私は無宗教だから、誰でもオッケーよ」
梨花は茶化しながら、2人との違いを指摘して自分は自由だと言った。
この2人も裕福でもなく、貧しくもない階級に属していた。
でも、この階級がアメリカ人の多くを占めていて社会を支えている。
自由の国アメリカでも、ヒエラルキーは存在する。
今のハイスクールにカースト制はなく、いじめも存在しないと言われている。
少し前はジョッグと呼ばれる、アメリカンフットボール部のキャプテンで背が高く、金持ちという男子がスクールカーストの頂点でキングだった。
それも今では化石となった。
同じようにクイービーはチアリーダーで、美人でジョッグの彼女が女子の頂点だったが、多様化した今は学園の一番の権力者でもない。
最近のハイスクールでは序列はなく、クリーク(小さな友人グループ、派閥)という2〜12人のグループに分かれていて、上下関係はない。
梨花達はエスニックと呼ばれるグループだ。
アジア系や南米ヒスパニック系がそう呼ばれている。
イジメは学校側が徹底的に撲滅をしているので無くなっていた。
喧嘩や争いもなく、表面的には仲良くしているが、そこには見えない壁がある。
そんな環境の中で梨花達は、友情を育んできた。
梨花の友人の2人にも、将来の夢はある。
メキシコ人であるマリアは古代遺跡に興味があり、遺伝子考古学の勉強をしたいと考えていた。
大学もコロンビア大学を目指して奮闘中だ。
リムは父親が投資ファンドの会社で働いていた影響で、起業家をサポートする会計士を目指していた。
大学はシンガポールの大学で経済学を勉強する予定だ。
リムの祖父母がシンガポールで骨董店を営んでいるので、そこに住んで大学に行く予定だ。
もし、奨学金を受けられなかったら、祖父が負担してくれることになっていたからだ。
だからハイスクールを卒業したら、離れてしまうことになる。
寂しいがお互い為なので仕方がないと、3人で話していた。
2人共飛級は無理かもしれないが、奨学金を獲得できることを目標にしている。
しかし、2人のように人種も宗教も関係なく仲良くなれる人ばかりではない。
韓国系の子達は仲間意識が強く、ニューヨークでも地域社会と馴染まない。
それは学校でも同じだ。
梨花はセカンダリー・エディケーションの時に韓国人の男子生徒に『慰安婦問題』で絡まれたことがあり、困っていたら2人が庇ってくれた。
このハイスクールでは、そういう韓国人はいなかったが一部の白人にもアジア嫌いは存在する。
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