第2話 誕生日の災難

「ママ、パパは誕生日のケーキ買って来るよね」

「もちろんよ、それとプレゼントもね」

「わーい、楽しみ」

 海斗はリビングで一人でテレビゲームをしていた。

 沙羅と梨花は台所でパーティ料理を作り始めていた。

 その時沙羅の携帯電話が鳴った。

 着信の番号は知らない番号だった。

「ハロー」

 電話の話を聞いている沙羅の顔が強張り、返事をする声が上擦ってきた。

「すぐ行きます」

  沙羅は電話を切って、慌てている気持ちを抑えるようにゆっくりとした言    葉で、二人の子供を見ながら言った。 

「梨花、海斗を頼むわね」

「ママ、どうしたの?」

「病院からで、パパが怪我をしたみたいなの」

「えっ、何で怪我をしたの?」

「よくわからないのよ、早く病院に行かないと」

沙羅の落ち着きのない行動に梨花は、嫌な予感がした。

「私はどうすればいいの?」

「ママがグランマに連絡して、ここへ来てもらうからそれまで海斗を頼むわ」

「わかった。ここでグランマを待っていればいいのね」

「そう、頼むわね」

 沙羅は急いでエプロンを外して、着ていたシャツの上にジャケットを羽織りバッグに携帯電話を入れて表に出た。 

「ママ、留守は任せてね」

梨花は沙羅に心配させないように、元気なふりをして玄関のドアに鍵をかけた。


梨花の父親の真(しん)は、ジャズのアルト・サックス奏者だ。

いつもはダウンタウンのクラブで演奏しているが、今日は日曜日なのでライブが無く、スタジオで録音をする日だった。

 海斗はゲームのコントローラをもったまま座っていて、何も分からずにゲームを続けていた。

今日は海斗の10歳の誕生日だ。

この時間は、ケーキを食べている筈だったが、それどころではなくなった。

海斗には気の毒だが、誕生日はお祝いは無しだと言わなければならない。

「ママはどうしたの」

「そうね、ちょっとパパが大変みたいなの」

「パパが?」

「そうだ、グランマが来るまでお姉ちゃんとゲームしよう」

「いいよ。グランマが来るの?」

梨花は延期の理由を、祖母に話して貰おうと考えた。

「嬉しい?」

「うん、僕グランマ大好きだから」

「よかったね」

「うん」

海斗はコントローラを動かし始め、楽しそうにゲームを続けた。

 梨花も一緒にゲームをしたが、父親の事が心配で集中できなかった。

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