ニューヨーク・カースト

綾風 凛

第1話 暴行事件

 地下鉄の通路を歩いていた一人のアジア系の中年男性の前に、5人の少年少達が、立ちはだかり通行の邪魔をした。

 男は避けて通り過ぎようとすると、一人少年が後ろから押してきた。

 男はよろけて少女にぶつかりそうになったが、かろうじて避けた。

 よろけた男は、持っていたケーキの箱を落としそうになった。

「気を付けてくれよ!」

「何だって、そっちが悪いんだろう」

男は振り返って少年に優しく注意したが、少年の一人いきなりが殴ってきた。

 男は頬を殴られて顔をそむけた時に、持っていたケーキの箱が通路に落ち、潰れた箱からクリームとスポンジが飛び出した。

それが合図のように、他の少年も男を囲み殴りかかってきた。

「止めろよ」

 男が大声を出すと、少年が男の背中を突き飛ばした。

 男は通路に突っ伏し、その背中を少年達が複数で蹴り上げる。

 その光景を一人の少女が腕組みをしながら笑みを浮かべて、楽しそうに眺めている。

男は腹から声を絞り出し少年たちに何度も抗議をし、身を捩って抵抗しながら停止を求めた。

 少年たちは男の身体をサッカーボールを奪うあうように蹴っていて、止めるようには見えなかった。

 男は側を通り過ぎる何人かに、すがるような掠れた声で助けを求めたが無視された。

「黄色い猿はここから出ていけ」

「お前たちにこの国に住む資格はない」

少年たちは、アジア系の人間を憎むように罵った。

「猿、チャイナはこの街に住むな」

「パンデミックはお前たちが起こした」

「俺たちの島で、商売をするな」

少年達は口々に罵り、集団で男を殴り蹴り暴行し続けた。

「頼むから、止めてくれ」

男の懇願は無視されて、地下鉄から通りに引き摺られていった。

外は暗くなり始めていた。

駅構内で始まった暴行は、通りに出ても続いた。

男は肘を使って這いずりながら周りに助けを求めたが、皆知らん顔で通り過ぎた。

男は助けを求めるのを諦めて、体を丸めて腕を組み必死に指を守った。

男はこのままここで死ぬかもしれないと思った時に、救急車のサイレンが聞こえた。

「やべー、逃げろ」

  少年たちは走り去り逃げていった。

「ああ、助かった」

男はそう思った瞬間に、意識がなくなった。

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