第3話 種まき 2
わざわざ自分の葬式の画像のようなものを見せられ、どこかで考えないようにしていたことが事実であったと思い知り、体から力が抜けていく。すっかり意気消沈した私を、二人は心配そうに見ていた。
少しして、気持ちの整理がついたというか、考えるのをやめて開き直った私は二人に向き合っていた。もう死んでしまったのにそれをどうこうしようとは思わない。蘇生は無理らしいし。そうなってくると、現在私の置かれている状況が気になる。なぜここにいるのだろうか。そのことを問うと、セレネ様が説明してくれた。
「まずここの事なんだけどね~、神様のおうちとお庭だと思ってくれていいわぁ。神族の領域で本来は神族とかその眷属くらいに魂が強い種族じゃないと入れないのよ~。ここ、魂むき出しの精神体しか存在できないから、魂の強度が低いといろいろ大変なことになるのよね~。あなたも、多分五感のほとんどが正常に機能しなかったでしょ?私が祝福しなきゃ、多分入った瞬間にぐちゃっとなってたわよ~。」
虚空から出てきた紙切れのようなものを、触れもせずにぐしゃっとしてそのまま塵にして見せるセレネ様。なんてことだ。死んだ直後に、もう一度生命の危機に直面していたとは。祝福というのは多分、あの眩しい光の事だろう。祝福は、一時的に眷属化出来る術らしい。いまはセレネ様の眷属(仮)ってことだ。なってなかったら私の魂、消滅してたんだって。怖い怖い。
そもそも、なぜ自分がそんなところに来たのだろうか。セレネ様の言う通りならば、私はここに来れるような存在ではないはずだ。
そう思っていると、またもや心を読んだ(神様は心を読めるらしい。)セレネ様が、
「ここにこれたのは~、そのぽっけの中身のおかげじゃないかなぁ~。」
そういわれ、右ぽっけに手を突っ込む。一緒に入れていたメモ帳やズボンの財布など、服以外が消えているのに、それだけは消えずに残っていた。ドライフラワーを挟んだ栞である。あのときお姉さん改めメルイア様にもらった花束の一番小さな一輪を栞にして、肌身離さず持ち歩いていたのだ。そういえば、意識が途切れる前も、右ぽっけが温かかったような気がする。ドライフラワーにしたのに色あせない輝きを放つそれを見つめていると、メルイア様が口を開いた。
「優花、ごめんなさいね。セレネの言う通り、あなたがここに来る羽目になったのは、私が原因なのよ。」
メルイア様を見ると、栞を指さして、
「その花は、私の住む領域にだけ存在する特別な花なの。普通の人間には、そこそこ綺麗な赤い花にしか見えないわ。それに人間にあげたって、せいぜい運がよくなるとか、その程度で済むはずなのよ。」
貴女みたいに、私のいる場所まで魂だけで飛んでくるなんて初めてだわ。と言うメルイア様。ならばなぜ私には見えたんだろう。そう思っていると、セレネ様が、
「君はメルちゃんの愛し子の素質があったんだよ~。何億年かに一回、居るんだよね~。私を含めた同じ枝の管理者と、魂魄的な相性がすっごく良い生き物たちが。そーゆー子たちはぁ、お相手の神様に対する感受性がとっても高いの~。だからそのお花、、、神花って言うんだけど~、そうゆうものを正しく認識できちゃうのよね~。で、愛し子候補の優ちゃんがメルちゃんを強く思い続けたからその神花が準神器化しちゃったわけね~。会いたい、名前を知りたい、この人みたいになりたい~って願いが呼応して、召喚具みたくなっちゃったんだよ~。あの時はメルちゃん、君が愛し子の卵って気が付かなくてぇ、神器化した後に気が付いたからすっごいアワアワしてたんだよ~。」
なんたって初めての人間の愛し子候補だからねぇーと少しニヤニヤしながら説明してくれた。驚きの事実と、驚くべき確率である。全生物の中から数億年に1回が私なんて、地球みたいな星がもう一個できる確率の方が高いんじゃなかろうか。
だが、今の話がなぜメルイア様の謝罪に繋がるのだろうか。そう思っていると、メルイア様が意を決したように口を開いた。
「あなたは、準とはいえ神器でここに来たわ。でもここは本来、強い魂しか来れないの。強い魂の定義って、何かわかる?それはね、、、輪廻転生、魂の漂白をせずにいても壊れない魂の事よ。」
ここでいったん言葉が切られる。いまいち会話の内容が理解できない私に、メルイア様はますます申し訳なさそうな表情で、
「輪廻転生の役割は、世界の命の循環のほかにも、もう一つ。魂の漂白の機能もあるの。あなたたちの世界の記憶媒体、あれもデータがいっぱいになったり整備せずに使い続けると使えなくなるでしょう?魂も一緒よ。魂が擦り切れないように、死という定期的に訪れる休息でメンテナンスをしているのよ。強い魂は、それが不要な存在。私たちや、各世界の高位生命体がそれにあたるわ。でも、裏を返せば、そうやすやすと輪廻の輪に加われない。魂が輪廻せず世界を漂うなら、肉体が粉微塵になろうといずれ復活するわ。無限に生きていなければいけなくなるのよ。そしてあなたは、裏技とはいえここにきてしまった。強い魂しか入れないここに。」
…ああ、わかった気がする。彼女の言いたいことはつまり、
「あなたは、世界に、いえ、母なる樹に強き魂だと認識されてしまった。認識されると、魂は樹の認識に合わせて変化するわ。本当はただの人間の魂なのに。あなたがここに来た時点で、あなたの魂は正常な輪廻転生の輪から外れているわ。次の生からは死から遥かに遠ざかる。今は実感がないでしょうけど時間が経てば、あなたに永遠に近い苦痛を与えることになるわ。」
本当にごめんなさい。そういって、深く頭を下げる彼女を前に、私は彼女の言葉について考えていた。知らないワードもあったが、彼女の言葉をかみ砕くとすれば、〈ほぼ死ねなくなった〉これが正しいだろう。だが、それはそんなに辛いことなのだろうか。むしろメリットの方が多くないか?ぼんやり考えていると、いまいちヤバさを理解できてないことが伝わったのだろうか。彼女は戸惑ったような顔を見せ、さらに言葉を続けてくる。
「それに、私があの時神花など贈らなければあなたが早死にすることも「それは違います!」、、、えっ?」
とっさに反論してしまった。だが、それを彼女に否定されるわけにはいかない。
「あの時、私を助けてくれたのはあなたです! 私が大好きな世界を知る切っ掛けをくれたのはあなたがくれた花束です! 夢をくれたのは、あなたとあの花です! 私は、とっても嬉しかったし、今もずっと感謝してます! それに、たかが不死が何ですか! 死なないのなら、夢を叶えてずっと花をめでてるだけです! 辛くたって、生きていればそのうち何か良いことが起こります! 私みたいに!だから、もう謝らないでください!」
実際、何百年いや、10年先ですら私にはわからないというか、興味がない。そんな先を見つめてうだうだ悩むくらいなら、目の前の何かを全力でやる方が私の性に合っている。
肉体がないのに肩で息をする私を、メルイア様は呆然と眺めていた。多分この人は私に責めてほしかったのだろう。人生をめちゃくちゃに変えたどころか、死後すら、まさしく一生を変えてしまったのだから。神様なのに、人間臭いなぁと思っていると、ニコッニコのセレネ様がメルイア様に、
「だから言ったじゃな~い! 貴方の思い込みだって~。この子はそんなことで悩むような人間じゃないこと、あなたもずっと見てたんだからわかるでしょ~? そ・れ・に~♪ 愛し子は相手の神族と趣味嗜好とか価値観が重なることが多いのよ~? 暇があれば何百年も植物を眺めてるあんたの愛し子が、永遠の時間程度でどうにかなるわけないじゃな~い。」
多分この人(神様)は、最初っからこうなることがわかっていたのだろう。緊張度合いの差が酷かったし。
「まぁまた脱線したけど~メルちゃんの心配事が解決したってことで本題に参りましょ~!」
※
こんにちは。書き忘れてましたが、不定期更新になります。
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