第4話 種まき 3
「本題?」
疑問を口に出すとセレネ様が
「だってまだあなたが死んじゃって、魂が変わっちゃったよ~って話しかしてないもの~。これからどうするかが一番大事じゃない?忘れてるかもしれないけど、あなたは元は人間の魂だから、ここにずっといることはできないわよ~。祝福も結構制限があって何もなしにかけっぱなしはできないからね~。こっちで手を回して1回だけ転生というか受肉して貰うことになると思うけど、どうする~?こんな世界がいい!とか~。種族くらいまでなら、要望を聞けると思うわ~。いわゆる、チートみたいなのは付けれないけどね~。」
これからずっと使う体だから、よく考えてね~。とセレネ様。 そういえば、そうだった。私はこの世界では、セレネ様に祝福で守護されないと存在できないイレギュラーだった。そして、祝福は永続ではない。だが、これからどうするかといわれても正直なところ、よくわからない。とりあえず地球に帰れれば一番良かったが、どうもだめらしい。なんでも、輪廻から外れた魂には制約があるらしく、地球は条件を満たせないんだとか。その制約とは、
「いくつかあるけど、今回の場合は魔素の有無ね。貴方のいた世界は、もともと魔素や気力といった物質が不足していたけど、数十万年前くらいに強い魂が留まるには不可能なレベルで薄くなったわ。理由は、、、そうね、話すのはあなたのこれからが決まって時間ができたらにしましょうか。」
とのことだ。魔素が薄いらしい。そう、魔素だ。このワードを聞いて、魔法の存在を気にかけない人間はいるのだろうか?いや、最近の若者ならみんな気になるだろう。私も気になった。いつ聞こうかそわそわしていると、心を読んだのだろう。メルイア様がクスっと笑いながら、魔法は存在するわよ。と教えてくれた。やはり存在するらしい。数少ない友人に教え込まれたファンタジックな知識を掘り起こしていると、
「あら、魔法に興味があるの~?」
と、セレネ様が。
「はい。やっぱり、憧れるじゃないですか。空を飛べたり、炎を出せたり。」
ふんふん、と可愛くうなずくセレネ様。私は、時々できるわずかな自由時間で友人と一緒にアニメのイベントやファンタジー映画を見に行ったりライトノベルを読んだりして息抜きをしていた。だから、想像の中の世界にしかないはずの
「魔法があれば、植物の育成も楽になるじゃないですか!温度管理も、光の量も、水やりも!あ、あと空間魔法があれば種や収穫物を手軽に運べるし、地面も耕せそうだし、空を飛べれば遠い場所だって採取に行きやすいじゃないですか!それにそれに、、、、、、、あっ」
クスクスと笑う声で我に返った。セレネ様が面白そうに笑い、メルイア様が少し恥ずかしそうに苦笑いしている。どうやら、ずいぶん子供っぽく語ってしまったようだ。…顔が熱くなってきた。
「やっぱりメルちゃんの愛し子候補ね~。植物の事を話し出すとなかなか止まらないところとか、魔法の使い道の話も、メルちゃんそっくりよ~。ねっ、メルちゃん♪」
にやにやしばがら、セレネ様がメルイア様をつつく。
「もう、からかわないでちょうだい。みんなから散々言われて自覚してるから。私って、傍から見たらあんな感じなのかしら。」
恥ずかしがるメルイア様、可愛い。ひとしきりいじって満足したのか、セレネ様が言う。
「じゃあとりあえず、優ちゃんの行き先は少なくともこの世界ではないわね~。魔法が使いたいなら、ここは向いてないわ~。」
少し寂しそうにセレネ様がそう話すと、
「、、、ごめんなさいね、セレネ。」
何故かメルイア様が謝っていた。何かあったのだろうか。
「あれはあいつが悪いのよ~。貴方が止めてくれなきゃ、次はここだったし。次起きてきたら、一緒にぶっ飛ばしに行きましょ~。」
少し、いや、だいぶ険悪な顔で話すセレネ様。怖い。空気が重くなり、沈黙が満ちる。少しして、何か思いついたらしいセレネ様が空気を変えるように殊更明るい声で言った。
「そうだ!お母様に相談して、メルちゃんの世界に眷属候補として転生して貰ったら~?メルちゃんの世界なら、魔法も、あなたの知らないきれいな植物も、いっぱいあるわよ~。それにお母様に許可をもらって眷属候補として転生すれば、記憶を保持したままかなり潜在能力のある肉体に生まれるわけだし~。せっかくメルちゃんの愛し子候補なんだし、候補をとって、愛し子になっちゃいましょ~。」
「えっ!きれいな植物がいっぱい!?行きます!」
つい、きれいな植物に反応してしまった。ほかにもいっぱいあるだろう、私。だが考えてみれば、この先何も知らない世界で一人で過ごすよりはメルイア様がいてくださった方がきっと楽しいだろう。うん、やっぱりメルイア様についていくのがいいだろう。きっとそうだ。
それからはとんとん拍子に決まっていった。簡単にまとめると、
・メルイア様の世界に転生する。
・種族はダークエルフで、精霊や魔法、植物との相性が良いのだとか。ちなみに、メルイア様の外見のもとになった種族はエルフらしい。
・愛し子候補から愛し子になること。これは、メルイア様の世界に行って、メルイア様から加護をもらえばいいらしい。
・眷属になること。地上でメルイア様の頼まれごとや、世界の管理の補助を行うことが眷属の主な役割らしい。
大きなポイントはこんなところだろう。
そして、まずはメルイア様の領域で少し過ごすらしい。私の意識と、魂の変化を同調させる。要は変化した魂に慣れる時間ということだ。
いろいろ決まって、お話ししていたらお母様なる御方の許可が出たらしい。いよいよ、セレネ様とお別れだ。そう思って感傷に浸っていたら、
「え~?優ちゃんが強くなって、亜神くらいになったらこっち来れるから、そうなったらまた会いましょ~?」
らしい。また会えるのなら、できるだけ早く会いに来たい。そう思ってたら、メルイア様が少しムスッとしていた。ちょっと悪い気もしたけど、頼れるお姉さんな見た目のメルイア様が子供っぽいしぐさをしているの、可愛い。あ、心を読んで照れた。セレネ様みたいに私もちょっとニヤニヤしてしまう。
そんなこんなしていたら、準備が整ったみたいだ。恥ずかしそうなメルイア様と、ニマニマしてるセレネ様が手を振ると、地面から金色に光る木の根と、夜空のような黒に青白く輝く光の線が混じった神秘的なリボンが絡まり、円を作った。その後、金色と青白い二つの光が円の中心に収束していき、ひときわ強く輝くと、円の中に美しい夜空のような光の扉(膜?)が出来上がった。私は、一歩下がったセレネ様に挨拶を済ませ、抱擁を受けた後、またもやムスッとしたメルイア様に手を引かれて光の扉ををくぐった。
荘厳な扉を出た先は、小高い緑の丘だった。私の目に飛び込んできたのは、深い緑が生い茂りカラフルな花が咲き誇る美しい森と、そこを歩く巨大な生物、そして少し大きなウッドハウスとそのそばに広がる、とても広大な花壇だった。おそらく果物や野菜だと思われるものや、美しい花、何かよくわからない草も生えている。言葉を奪われる私を置いて一歩前に出たメルイア様は、振り返ってあまりに美しい笑顔で言った。
「ようこそ私の世界、フロテールへ。わたしの愛し子優花。貴方を歓迎するわ。」
そんなメルイア様に見惚れていると、私を祝福するように爽やかでやさしい風が吹き、色とりどりの花や葉が宙に舞った。
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