第58話 極めし者
レベル上げが無くなったからかなり時間に余裕ができた。こうなると半分引退したようなものだな。ロミカは忙しそうだし、金策もルーラーさんがたまに大きな仕事持ってきてくれるからそこまで気合を入れなくてもいい。生活するだけならすでに一生遊んで暮らせるほどは稼いだし。やりたいことがないか皆に投げかけている。
「一緒に食事は久しぶりだな」
今日はエリックさんに珍しい食材が入ったということでお呼ばれして食事を。エルフの奥地でたまに取れるキノコだそう。ふむ、風味豊かで味わい深い、旨味を圧縮したようなキノコだ、うまい。皆美味しそうに食べる。リーナの兄弟も。ああ、そうだ、思い出した。
「今思い出したんですが、試練の洞窟に挑戦してみようかな」
「いいんじゃないか。世界も平和でな、俺も暇だったんだ」
魔人が全滅してから平和な日々が続く。良いことではあるが戦士のエリックさんには退屈な日々なのかも。こうして試練に挑むことに。時間があるからとエリックさんが手伝ってくれることになった。第二の試練の奥には傾国の果実と呼ばれるかなり甘美な果物がなっているとか。その昔、あまりの旨さに国が取り合い争って潰れたことがあるとか。今では様々な作物があるがまだまだぶっちぎりの旨さだとか。準備をし試練に挑む。見事試練を攻略、果物を持ち帰る。
「こいつは美味い」
たしかに美味しい。ただ一生に数個までと持ち帰る事ができる個数は制限されている。じっくり食べてその旨さを噛みしめる。
「俺ももらうよ」
ん、誰だ? ああ、サークさんか。急に来たから皆驚いている。一応エリックさんとは知り合いのようだからトラブルにはならなかった。久しぶりに食べたいなと取りに行こうとしたときに俺が出てくるのを見たから後をつけてきていたようだ。
「しかし第三の試験はどうなっているんでしょうね」
「ああ、あれなら簡単さ。お前なら楽勝だろう」
なんとサークさんがすでに攻略していた。他のやつとはそんなに話をしないからなと笑うサークさん。話が広まらないわけだ。
「試練の奥地には何かありました?」
「ははは、行ってのお楽しみだ。若い頃に行ったきりだな。またいつか行かなくては」
果物を食べると帰っていったサークさん。うーむ、ということで気になる。ぶっつけ本番になるが挑戦してみようかな。サークさんのお墨付きなら問題ないだろう。翌日、試練の洞窟に出発。第一第二は余裕でクリア。そして第三に挑戦。
「いくか!」
気合をアスレチックを進む。そして想像していた以上に簡単にクリアしてしまう。高ステータスの暴力でクリアしてしまったようなものだけど。奥地には広い空間が広がっていた。第四はなさそうだな、出口は普通にある。サークさんが出てきたわけだから当然か。野草が生えていて魚が澄んだ湖で泳いでいる、ここで暮らせそうな場所だ。しかし第一第二と違ってコレといって変わったものはないように見える。サークさんに騙されたかな?
「ほぉ、ここに人がな。いつくらいぶりだろう」
横穴から人の声が聞こえてくる。白髪で肉付きのいいご老人が広間に現れる。格闘家の出で立ちのようだが、何者だろう。
「もしかしてここで暮らしているのですか」
「そうだ」
食べ物には困らないだろうが何故こんなところで。サークさんの話だと帰ることは出来そうだけど。
「ここには変わった生物がいてな、そいつを倒したらとんでもない経験値が手に入ってしまったのよ」
金属製の魔獣がここにいたようだ。どうやらその魔獣が第三試練のご褒美のようだ。ゲームでよくいる経験値を大量に取得できるモンスターってやつだな。それのパワーアップ版のような魔獣、おかげで一気に人外の者に。この強さならどんなことも思いのままだが、世界を自分の気分で変えてしまうのはどうかと悩み、ここに籠もることを決めた、幸い食料も豊富。サークさんが来た時手合わせして倒したという。彼はまだ若かった、再戦を誓ったそうだ。となるとかなりの強さだな。格闘家か、この人が本来の世界一位の人かも。トータルライズの姿を見ても全然驚いてないし。
「しかし世界は広い、ワシよりも強い格闘家がいるとは」
トータルライズを使うご老人。ムキムキの肉体があらわになる。このサイズ感、間違いない、一位の人だ。
「手合わせ願えるかな?」
「はい」
「格闘家ウィリアム、参る!」
お互い構える。ややこしいが現在は俺が格闘家世界一位のスキルを使っている。身体が一回り大きい、ステもすべて俺が上だろう。となると勝負はほぼ見えているか。近づきボディを放つ、向こうもボディの相打ち。威力によりお互い後方に押し戻される。こちらはそんなに効いていない。だが向こうは腹を押さえ苦しそうだ。
「はぁ、やはりまともにやり合って勝てぬか」
構えを変える。このまま決着と考え殴りかかるが軽くかわされカウンターを食らう。精密に弱点を、身体を崩したところに精密に弱点を突いてきた。痛た、技術か。こちらは我流、相手は本業の格闘家。先ほどまで余裕と思っていたが一気に勝ち目がなくなった気がした。
「ふむ、強いが荒いな」
本業は騎士だからな。トータルライズはよく使うから格闘も習っておくべきだったか。突きをしても軽くいなされ、投げられ蹴られる。
「黄金体撃!」
当たらない、速さ攻撃力はこちらが上だが、技術が遥か彼方、向こうが上。まずいぞ、格闘家として勝負になっていない。向こうが黄金体撃を放つ。掴みづらい動き、うまく懐に潜られた、直撃はまずい、盾を使いウィリアムさんの攻撃を弾き凌ぐ。
「盾とはな」
なりふりかまっていられない。勝ちに行く。ウィリアムさんが神印掌を使う、絶妙な位置に発射したな、コレをクイックステップを使いかわす。技術では敵わないが圧倒的なスピードで。
「なっ、加速した!?」
超高速で動き攻撃、今度は当たるように。いけそうか、いや油断できない。遠距離攻撃を主体に削っていく。
「ふぅ、参った」
戦闘終了。極めた格闘家との戦いは怖いな。接近戦はできなかった。
「楽しい戦いだった」
そういえばガウスさんが言っていたのはこの人だろうか。
「ワシのことだな。元気でやってると伝えておいてくれ」
まだ帰る気はないようだ。ウィリアムさんに挨拶をして滝から脱出。
「そうか、あやつめ生きておったか」
にこやかに試練の洞窟の方向を見つめるガウスさん。若い頃一緒に戦った思い出が蘇ったようだ。
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