第57話 歌姫

しばらくこの国から離れる予定はない、拠点を買っておこう。お金ならある、好きなところに住めるな。


「温泉があるって!」


温泉が湧いているところがあるとか。物件を見に行く。大きな露天風呂が一つ、四人でも余裕で住める、そこそこの部屋数。元々温泉旅館としてやっていたとか。アイネ情報の物件、購入決定、拠点に。


「あー、いいお湯だっった!」


皆が満足している。温泉付きの拠点とは良いとこみつけたな。


「護衛の仕事をお願いしたい」


ルーラーさんからの仕事。今回は歌姫エヴァの護衛、世界でも有名で大勢のファンがいる歌手。彼女は王女であり王位継承者一位。近頃王の体調が悪化、第二位の者から命を狙われるように。


「それでも音楽会を開きたいそうだ」


音楽の素晴らしさを伝えたいとコンサートをして世界を回っている。しかし、命を狙われているこの時期は避けたほうが。


「悪しき者に屈する気はないと話していた」


エヴァ王女の命を狙っているのは第二位候補の妹のシャーロット。ただ実際のところは身柄を拘束され監禁されている状態。国を我がものとするために動いている者がいるようだ。裏で操っている人間は現在調査中。最近は過激になり国民の皆が知るところに。世界中にこの馬鹿馬鹿しい暗殺劇を知らせたいという思惑があるようだ。


「強者に護衛させ狙っても無駄だと命を狙う者達に見せつけたいとか」


気持ちはわかるが護衛側は大変だな。裏でも動いていて怪しいやつは確保しているが、完全に押さえ込むのは不可能、数人の暗殺者が忍び込むだろうと予想されている。今回は国側も協力してくれる、王女がこの国で死んだら大事だからね。すでにエヴァ王女はこの国に来ているようだ、コンサート会場も設営中。一度会って話をすることに。


「歌手のエヴァです。よろしくね」


歌手はクラスでもある。スキルは歌、仲間全員のステータスを上げる効果を持つスキルが多い。彼女が目の前で歌ってくれた。うーむ、華があるな。早い話がアイドルだ。人を魅了する美声の持ち主、人気が出るのも頷ける。


「わがままなのはわかっています。でも、どうしても成功させたいのです。よろしくお願いします」


そこまでいうならと了承、もう国も動いているしね。こちらとしては暗殺者を完全に封じ込みたいがそれは不可能、奴らが動いてからの対応となる。エヴァはもちろん、観客にも怪我人は出したくない。暗殺が起きていることも知られたくない。そんな過酷な依頼だが今の我々なら可能ではある。


「絶対に成功させましょう!」


コンサートの日。俺とリーナが飛び道具の処理、サシャは観客が突っ込んでこないように警備員、怪我等に対処するために裏にエル。動いた暗殺者は国の人が確保。俺達は舞台の下から小道具の雲を持ってリズムに合わせて動かす。攻撃がきたらそれで弾く。ここからは客席全体が見える、向こうからはここは見えない作り。


「さあ、歌姫エヴァの登場です!」


ステージにエヴァが登場。大きな歓声があがる。


「うおー、エヴァちゃん!」

「つっこめー!」


興奮した観客達がステージに乗り込もうとしている。扇動した者がいるな、国側が気が付きそいつを確保、しかし観客の流れは止まらない。


「お客様困ります、席にお戻りください」


サシャが客の波を押し返す。ふむ、人間の力じゃないな。客は後退、落ち着きを取り戻し席へ。こうしてコンサートがスタート。始まってすぐに暗殺者が音の出ない銃でエヴァを狙う。予定通り雲の盾で弾丸を弾く。演出等で爆発したりするから玉を弾いたくらいでは観客に気づかれない。位置を割り出し暗殺者を確保。何度か銃撃されるがその都度対処、歌を続ける。


(こうなったら)


大きな爆弾が放り込まれる。俺が飛び出し空中に向かってジャンプ。隠すために様々な物が空に向かって投げられる。雲を越え蹴り飛ばす。爆弾は空中で爆発。地上に戻り、配置につく。以降は攻撃が止む。無事コンサートは終了、熱い夜は終わる。


「シャーロット王女がいらしているようだ」


エヴァに会いにこの国に。しかし彼女は囚われの身では?


「ハジメ、隠れて護衛してくれ」


念の為、彼女の護衛に。二人の会話をこっそり隠れて聞くことになってしまうが仕方がないな。


「ごめんなさい、お姉様」

「大丈夫だから、シャーロット」


二人は泣きながら抱き合っている。


「薄っすら気が付いているかもしれないが、エヴァを狙っていた、命令を出していたのはシャーロット王女だったんだ」


何でもできて何をやっても勝てないエヴァに劣等感を感じていたシャーロットは、いつしか王位に興味を持つように。王になれば彼女になった証となると考え次第に過激化、命を狙うまでに。彼女を抑え込むのは簡単だったが、たった一人の妹、考えが変わるまで待ちたかった。そして、諦めるほどの圧倒的な力を見せることで彼女を止めようとした。作戦は成功、途中自分の行いの愚かさに気が付いたシャーロットはエヴァに謝りに来たというわけだ。なかなかに豪気な解決方法だな。エヴァは大物になりそうだ。国を巻き込んだ姉妹喧嘩か。実際戦争はそんなものだからな。まあ解決してよかった。

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