第56話 世界最強の剣士決定戦!

二人とも塔から降りる。表最強が決まった、なら裏も。


「俺を目指す前に倒さなきゃいけない相手がいるな」

「どういうこと?」

「今夜宿を抜け出し落ち合おう」


深夜、彼女を連れ岩山へ。トータルライズを使い派手な音を立て岩石を削り出し、道に落とす。サシャは何をしているのだろうといった様子で眺めている。しばらくすると遠くで闘気を感じた。こちらに近づいてくる、そして遠間からフルスラッシュが発射され岩を砕き割る。この威力、間違いない、あの時岩石を破壊した剣士だろう。発射元には布で姿を隠している人が。剣皇だ。そして布を掴み、メガネを取り正体をあらわす。


「やはり来ていたか、筋肉の化け物殿。私も試合を見て血湧き肉躍ってしまってな。どうだ、対戦してみないか?」


二十代の人間の男性、彼が剣皇か。高齢の人だと勝手に思っていたが若いな。しかしどうやら剣皇の伝説は本当だったようだ。あのフルスラッシュなら山も海も斬ることができるだろう。後ろには術師の出で立ちの女性がひざまずいている。


「すまないが、アンタに先客が居てな。サシャ彼と戦ってみてはどうだ」

「剣皇と?」


緊張するサシャ。ほぉとまじまじと彼女を見る剣皇。いいだろうと何やら術師に話をする。人形を二つ取り出す。


「この人形は身代わり人形、死ぬ攻撃を受けても人形が変わりにダメージを受けてくれる。全力の戦いをすることができるぞ、どうだ?」

「わかりました、戦いましょう」


強力なレアスキルを持っているな。髪を人形に入れる、こうして準備完了。俺を見るサシャ。そう、彼女は強くなったがまだ最強の剣士と決まったわけではない。いってこいと彼女を送り出す。ここに今最強剣士決定戦が始まる。


「勝負っ!」


サシャと剣皇の戦闘が始まる。


「裏の剣の大会といったところか。ふふ、楽しいぞ、サシャよ」


二人共どこか楽しそうだ。剣皇もサシャと同じような悩みを持っていたのかもな。ついに好敵手に巡り会えたわけだ。剣皇の装備は全て魔装、見るからに強そう。まずは軽く手合わせ、剣同士切り結ぶ。ステータスはあきらかに剣皇が上、技術も上。攻撃力は互角といったところ。お互い本気になっていく。岩を軽々と切り裂き、地面をえぐる。二人共人外の力を有している。


(レアスキル長寿により体を鍛えてきたが、まさか同じような強さの人間と戦える日が来るとはな。しかも剣士に。神に感謝だ)


徐々に押されるサシャ。攻める剣皇、なんとかさばききり距離を離す、追撃に放った突きは届かないと思ったが急激に剣が伸びてきた。かわしきれず脚にダメージを追う。剣が伸びる魔剣か、なかなか厄介な能力だ。動けないと見て更に追撃、手を緩めないよう接近。ここでサシャがスキルを発動。おっと、危険だな、術師の女性を担ぎ、その場から逃げ出す。


「フルスラッシュ!」


出たな、剣士最強の威力のスキル。受けきれないと察し、瞬時にかわそうとするがかわしきれず肩に斬撃が入る。フルスラッシュは岩山を破壊しながら進んでいく。相変わらずおかしな威力のスキルだ。距離を離しお互いポーションを使う。


「恐るべき破壊力の技よ、しかし見せてしまったのは失敗だったな」


一つの勝ち筋としては、超威力のスキルを隠し通し、隙を見て当てれば勝てていただろう。それは彼女もわかっていた。しかしあれだけ押されてしまっては使わざるおえなかった、どちらかというと使わされた。通常時は彼に分がある、なかなか苦しい戦いだ。長期戦に切り替える剣皇。少しずつ削りスキルはかわしポーションは使わせない。まずいぞ、ダメージが蓄積してきた。動きが鈍くなってきている。このままでは彼女の負けだ。


「楽しいひと時だった。まさか技術のすべてを使える相手が現れるとは。だが残念ながらどんな時も終わりはある。トドメといこう」


接近し剣の雨を浴びせる剣皇、そしてついに体制を崩すサシャ、終わりかと思った瞬間。


「ウインドブレイド」


腹部に魔法を放とうとするサシャ。


(魔法? これは奥の手か、何らかの手段で威力を高めた魔法。スキルはおかしな攻撃力だった、食らってはまずい。水平に広がる魔法だったな、これを大きく飛んでかわし、攻撃を加えてお終いだ!)


上に飛び上がる剣皇。あれ、サシャって魔法持ってたっけ? 思った通り魔法は出ない、すぐに剣を握りなおし剣のスキルの構え。現在剣皇は空中、サシャのスキルをかわすことが出来ない。


「オーラスラスト!」


闘気をまとった突きが放たれる。凄まじい破壊力の突き、安全圏に居たと思っていたが俺達も吹き飛ばされる。これが突きの威力かよ! 剣皇に直撃。身代わり人形が爆発、剣皇は無事、着地しその場に膝をつく。サシャの作戦が見事にハマった。


「見事だ」


剣皇は立ち上がりサシャの元へ。


「私に変わり剣皇を名乗るがいい」

「嬉しい申し出ですが申し訳ありません」


断るサシャ、残念といった様子の剣皇。健闘を讃えあい、握手をする。術師の女性を連れて剣皇は帰っていった。


「これでサシャが剣士最強だ」

「うん!」


嬉しそうにしているサシャ、吹っ切れたかな。手を上げハイタッチを要求、お互い手を叩き、俺達は仲間の元へ戻る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る