第55話 あなたの剣

戦いが始まる。グレイヤは氷に包まれている、これでは戦えないと思ったが、巨大な氷がサシャを襲う。どうやら自由に氷を動かせるようだ。近づく氷を砕くサシャ。次々と氷が迫ってくる。ほぼ剣士の戦いではないな、ずるいぞ!


「必勝の形ですね。多数の氷が襲う、近づけば氷に身体を取られる、グレイヤに接近できたとしても分厚い氷がどんな攻撃も受け止める」


氷結する氷をかわし、氷を切り裂く。徐々に攻撃が激しくなるが、サシャの動きも速くなっていく。次第に氷を投入する速度を越えていくサシャ。


「なっ、こんなことって」


焦るグレイヤ、サシャの力を肌で感じるのだろう。


「まだまだ!」


サシャの周りに大量の氷が出現、内部では氷を生成、彼女を絡め取ろうとしている。動きを制限して氷で捕らえようという作戦だろう。これらを全てかわすサシャ。しかし隙間がなくなり、出現した氷に足を捕らえられてしまう。


「やった!」


しかし力任せに氷を破壊、そのまま氷の壁を突き破ってグレイヤの近くまで接近。防御に専念する、氷がさらに分厚くなった。


「これなら!」


飛び込むサシャ、突きを放つ、氷を貫きながらグレイヤの喉元まで剣がたどり着く。


「……参りました」


グレイヤが降参、サシャが勝利した。


「まさかの決着、優勝候補のグレイヤ選手、ここで散る!」

「やはり囲まれ力を削られたのは痛かったのでしょう」


グレイヤ贔屓の解説者。力で圧倒してたろ、まったく。ステージから降りてくるサシャを俺達が迎える。


「やったな!」

「うん」


勝ったにも関わらずそこまで嬉しそうにないサシャ。次戦を見据えて油断しないようにしているのだろうか。彼女の試合が終わり、観客席から見学。すべての試合が終わる。


「全十六ブロックの試合が終わりました。明日からは本戦です、それでは!」


今日の日程を終了、十六人の選手が出揃う。ほぼ下馬評通り、第二ブロックを除いて。これから別行動、選手達は用意された部屋へ。豪勢な食事が振る舞われるとか。


「明日頑張れ」

「うん」


翌日、第一試合。俺達サポーターは特別席から試合を見ることができる。今日からは剣皇サウザンドが王座に座り観戦。豪華にあしらわれた王座、全身布に包まれ目も眼鏡、手袋まで、肌の露出はゼロと歳を推測することすら出来ない。彼があの岩を破壊したのか? 違うとしてもどこかにあのスキルを放った強者がいるはずだ。剣士だから今この国にいる可能性が高い。


「それでは選手入場です!」


十六人の選手が闘技台の上に。そして剣皇にひざまずく。


「世界最強の剣士、剣皇様にこの試合を捧げます」


拍手をする剣皇、観客も皆拍手を。一旦選手が全員戻る。試合前にイベントの開催。プレゼントの催し物や子供達の体験会。一通り終えて、いよいよ大会の開始。


「第一試合、オニギリ対サシャ!」


第一試合が開始。闘技台に上がるオニギリ、対してサシャは、あれいないぞ。


「えー、サシャ選手ですが、体調不良により棄権しました」

「昨日の激戦を制した選手でしたが実力者との対戦は無事では済まなかったということでしょうね」


こうしてオニギリの不戦勝が決まる。体調不良か、心配だな。二人と目で会話、彼女を探すことに。確かに元気がなかった、ただ食べるし動きも悪くはなかった。緊張、もしくは集中していると思っていた。一服盛られたというのは考えにくいか。とすると何故彼女は棄権したのか。探すがなかなか見つからない。大会が終わった後の待ち合わせの場所に来たが彼女はいない。かわりにリーナが来る。


「サシャのところに行ってあげて」


どうやらリーナが見つけていたようだ。彼女が居た場所はこの街のシンボル、剣の形をしている塔、剣の塔。その頂上から国を眺めていたという。塔を見つけ豪快に外側から登る。頂上にサシャがいた、彼女の隣に座る。


「何故棄権したんだ」

「強くなりすぎて戦闘が虚しくなってね」


レベルを上げ圧倒的な力を手に入れた。強くなったが心は空虚に。オニギリとラングさんの試合を見ても負ける気が全くしない。他選手の動きがゆっくりに見える。グレイヤですらかなり手加減して戦っていた。他にも色々と、彼女の話を聞く。夕日が差してくる。


「ありがとう、すっきりした」

「そうだ、どうせなら世界最強を目指してみないか」


目標を軽々と越えてしまったのも虚しさを感じた理由の一つ。


「俺なら簡単には越えられないぞ」

「ふふ、頑張ってみる」


久しぶりにサシャの笑顔を見た。


「あの時もそうだった。私が迷ったときに、アナタが側に居てくれた」


立ち上がり彼女に手を伸ばす。


「剣士サシャよ、これからも共に歩もうじゃないか」

「はい、ハジメ殿」


片膝を突き、手の甲に口づけをするサシャ。握手をしようと思ったがいいか。


(良かったですね、サシャさん。はぁでも私たちの恋心は)

(そこは大丈夫、求婚レベルの内容だけどハジメにとっては挨拶くらいだから!)

(それはそれで問題な気がしますけど……)


闘技場から大きな声援が聞こえてきた。


「今大会の優勝者はオニギリ選手! 皇下五剣一位のベルザを破り文句なしの優勝だー!」


剣の大会が終わったようだ。頑張ったなオニギリ、彼が表最強の剣士だ。

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