第43話 魔装にかける思い
なんと家宝は隕石だった。見た目は石というよりも金属。美しい赤色の金属、宝石のように輝いている。失礼してと、金槌を取り出し隕石を叩くマリウ。澄んだ音が発生し、それがいつまでも鳴り響く。いい音だ、体を通り抜けていくかのような力強さ、それでいて爽やかな音色。
「ど、同調しました、この金属です!」
「ほぉ、隕石に反応するとは」
どうやら当たりのようだ。こうなるとこの隕石がどうしても欲しくなる。なんとか譲ってもらえないか頼んでみる。一応可能だと答えるガウスさん。家のしきたりによると家宝を手放す場合、それに見合った品を用意する必要がある。
「それなら大丈夫です、完成したらお返しします。魔剣でよろしいですよね」
「それで構わない。いいだろう隕石を渡そう」
喜ぶマリウ。彼女としては魔装を作ることができるだけでも満足なのだろう。
「ただし、条件がある」
サシャが家宝を渡すにふさわしい人間かどうか、今まで真面目に剣の腕を磨いてきたか確かめたいという。わかりましたとサシャ、場所を変え着替えて稽古場へ。そういえば流派は同じか。単純に剣技の差がでるわけだな、力を測りやすい。
「はじめっ!」
サシャは開始と同時に突っ込み上段の構えから振り下ろし攻撃、これを受け、力比べに持ち込む。当然ラングさんが競り勝ち、押し込みながら蹴りも入れる。吹っ飛ぶサシャ。容赦ないな。
「どうした、そんなものか!」
「まだまだ!」
手合わせに熱が入る。力も技術も圧倒される、やはりまだまだ力の差はあるようだ。しかしお互い楽しそうだ、まるで剣で語り合っているように見える。
「そこまで!」
「いい腕だサシャ。もうここまできているとは。いいだろ家宝を渡そう」
こうして隕石を手に入れた。マリウは泣いて喜んでいる。今まで苦労していたんだろうな。
「いいかサシャ。剣は相手を殺す道具だ。だがやり方次第で助けることもできる。心も同じだ。武器にも人々を助けるモノにもなる。このようにな。忘れぬように」
「はい!」
屋敷内に戻る。そろそろ昼時、腹が減ったろうと豪勢な料理が並ぶ。皆で食事をする。
「それにしてもあのお転婆がしおらしいな」
「お、お父さん!」
全滅しそうになったりとサシャも苦労しているからな。うんうんと頷く俺。
(ラングさん、この人鈍くて)
(そうなのか。違う意味で苦労しそうだな)
食事を終えもう一度応接室へ。きれいに包まれた家宝を受け取る。礼を言いマリウと一緒に鍛冶地区に戻る。
「次はお金の問題か」
魔装を作っている間は彼女の生活費、仕事でかかる費用等お金をこちらで用意することになる。軽く試算してもらう。やはりかなりかかるようだ、手持ちだと1年分、ここから更にかかる。道具や素材も物によってはこちらで用意することになる。すぐに始めなくてもいい、後にするかと言うが、そこまで無理な金額でもないし、早いほうがいいだろうということで作成をお願いすることに。わかったと答えるマリウ。金策についてはリーナに一つ案があるという。
「道具屋のお婆さんが後継者を探していたんだ」
余った素材を道具屋に売っているうちに店主のお婆さんと仲良くなった。彼女には子供がいないから跡継ぎがいないとか。相談に乗っているうちに更に仲良くなりお店を譲ってもらえる形にまでなったとか。寿命分まではすでに稼いだと話すお婆さん。リーナはまだ冒険者をしていたいからどうするか迷っていた。そこで他のやってみたい人に道具屋を経営してもらって雇われ社長をやってもらおうという案。勉強してもらって最終的に一人前になったところで道具屋を引き渡す。
「この道具屋」
地図を広げ場所を確認、潰れると近くに道具屋さんがないから遠くまでいかないといけなくなるな。そうなると不便だ、この付近のためにも残したほうがいいだろう。となると人材か。そうだ、パインに相談してみよう。情報網が広そうだし。
「お店をやってみたいって前から言っている子がうちにいてね。今は会計をやってくれてるんだ。経営方針について話をしたりする」
計算に強くて経営にも携わっているならうってつけだ。その人を連れてくるパイン。
「アイネです。よろしかったらその話を詳しく」
道具屋の件を話す。やりたいとガッチリ食いついてくるアイネ。話は決まり、アイネを連れ顔合わせ。リーナの知り合いならと特に問題なく道具屋の仕事をすることに。仕事を覚えてうまくいきそうなら独り立ち、最終的には彼女のお店に。翌日から早速仕事。五日後には殆どの仕事を覚えてしまったようだ。順調に行けば早い段階で雇われ店長になりそうだ。
「道具屋が大変なことに」
あれからかなりの月日が流れた道具屋の後日譚。リーナが驚いた様子で俺に話を。もしかしてうまくいかなかったかな? どうしても相性ってあるしね。人間関係なんかも難しい。道具屋へ向かう。
「いらっしゃいませー」
店に行くとアイネの姿はなく他の子が店にいた。そうかやめてしまったか。
「前の店員さん、アイネはどうしてるか知ってます?」
「アイネ? ああ、代表のことですか、奥に居ますよ」
……、代表? 聞き慣れない言葉に頭をかしげながら奥の部屋へ。
「お久しぶりです、みなさん!」
アイネは忙しそうに書類の整理を。どうやらしっかり働いているようだが。
「あれからすぐにお店を任せてもらったんですが、話を聞きつけた他のお店の人達がいらっしゃいまして」
後継者問題に悩んでいたのは道具屋さんだけではなかった。そうだよね、子供がいるからといって必ず店を継ぐとは限らない。こうして相談に乗り、いくつかのお店にやる気のある人間を引き合わせ、仕事を覚えて店を任せられるところまで進む。まだまだ後継者問題は解決しないため会社を作り今はその代表をしているのだとか。
「これが皆さんの三十日分の取り分です」
テーブルにお金が置かれる、結構な大金だ。あと少し稼げば鍛冶の必要金額1ヶ月分か。これなら無理して金策する必要はなさそうだ。団に居た時は他の人とは違い運動と芸が苦手で裏方をしていた彼女。自分は足を引っ張っているのではないかと団から出ようか常々迷っていたとか。大丈夫だとパインや仲間が優しく彼女に言ってくれていた。そんな彼らに恩返しがしたい。ある程度稼げたから欲しいものはないかと聞くと他に困っている人助けてやれと仲間に言われた。心が熱くなり頑張ろうと思えたとか。彼女には強い信念があるようだ。商才というよりも人のつながりか。人間一人では生きていけないからな、大切なものだな。
「お店持ってみたかったんですよ」
活き活きと働くお店の女の子。世の中そんなに甘くはないけど夢を叶えられたってのは嬉しいことだ。
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