第42話 サシャはお嬢様

「最近他国の人が更に増えたな」


砦が完成し各国から戦士が送られてくる。そして物資や非戦闘員の人達も。いま各国の力が集結しているからついでに商売をしている国も多い。多くの人に商品を見てもらえれば宣伝効果は抜群だからね。商魂たくましいことは結構なことだ。


「その剣なおしておいてくれ」


剣士が鍛冶屋に入り修理を依頼している。今日は鍛冶の見学をしようと鍛冶屋が集中している地区へ来ていた。今あの有名なドワーフがこの国を訪れている。背が低く男性はヒゲの姿、女性は背が低いといったよくある特徴。この世界では彼らだけが魔装を作ることができる特別な存在だ。身に精霊を宿して金属を叩くことで魔法効果や特殊効果を得ることができる。


「鍛冶の地区だけあって金属を叩く音がすごいね」

「はは、住宅街じゃできないな」


鉄と油の匂いが辺りに漂う、個人的には嫌いじゃない。鍛冶場を周り入口から中を見る。何軒か覗いたところでドワーフの女性が金属を叩いているのをみつける。今は普通の鍛冶仕事をしているようだ。丁度休憩をするところだったので思い切って見学させてもらえるよう頼む。


「いいけど、見たいのは魔装を作るときの精霊降ろしだよね? 悪いけどアタシはできないんだ」


どういうことだ。ドワーフなら皆魔装を作成できると思っていたけど。詳しく教えてやるよと彼女話を聞くことに。魔装を作るにはドワーフ個人と相性が良い金属を選ぶ必要がある。調べる方法は、特殊アイテム「同調の金槌」を使い金属を叩く。道具箱から金槌を持ってくる。


「こいつだ」


先端が通常の金槌、後ろ側が鐘のようになっている奇妙な形状。いつまでも響くような音が聞こえた場合はその金属と相性が良いとされる。その金属を用いて儀式をしてから精霊の力を借り金属を叩き続ける。精霊を降ろせる時間は決まっていて、そこまで長時間ではないが体力の消耗が激しいため他の仕事をしないようにする。叩く期間は年単位。魔装が高いのはこういった理由から。次回作成時も同じ時間がかかり、同じ性能の魔装が出来上がる。性能が良いほど時間がかかる。


「アタシだけその金属が見つからないんだ」


顔を曇らせ自分は落ちこぼれなんだと肩を落とす彼女。様々な金属を叩いてきたが同調する金属は今までなかった。ドワーフは金属の専門家の面もある、その集団にいながら自分に合った金属が見当たらないなんてね。つらいな、力になってあげたいところだが。


「金属ですか、それなら家にあったような」


昔からある家宝で、美しい金属だという。子供の頃は元気だったから進入禁止になっていた倉庫に忍び込んでお宝を眺めたのだそうだ。入っちゃいけないと言われると当然入りたくなる。そこは仕方ないけど実際入っちゃうのは行動力があるね。しかし家宝だと持ち出すことは不可能なのでは。


「可能なら頼むよ。この街に来たのもアタシに合った金属を探すためなんだ」


ダメ元でラングさんに頼んでみるとサシャ。困っている人を見過ごせない優しい性格なのを俺は知っている。


「アタシはドワーフのマリウ。よろしく頼む」


マリウを連れ皆でサシャの実家に行くことに。ラングさんの家か、そういえば初めてだな。一大決心でサシャは家から出てきたわけだから近づこうとは思わなかった。


「あの家だよ」


豪勢で歴史と風格のある建物が見えてきた。近くまで来る、大きな屋敷だ。入口に門番が立っていた。


「父さんに会いたいのですが」

「サシャ様! お元気でしたか。中にお通ししようと思いましたが、今は一般の冒険者でしたね。少々お待ちください」


嬉しそうにする門番。娘さんだから知っているわけだ。そうだ、サシャはお嬢様だった。家に入っていき少したって門番さんが戻ってくる。


「ラング様はいらっしゃいます。時間もあるから会ってお話できますよ。どうぞお入りください」


門を抜け敷地に入る。広い庭だ、家まで距離がある。サシャの後についていく。屋敷に入ると執事やメイド達が中で待っていた。


「おかえりなさいませお嬢様」

「今は一般の冒険者です。気遣い無用でお願いします」

「うっ、あのお転婆なサシャ様がご立派になられて」

「ちょっと? 語弊があるから」


泣き出すメイド長さん。普通に会話を交わすだけで立派って、それまでどれだけやんちゃだったのだろうか。リーナが笑っている。昔のことを言うのはということで教えてもらえない。まあ過去より今だから。応接室に通され待つことに。少ししてラングさんが部屋に入ってきた。


「久しぶりだなサシャ、元気だったか」

「はい、父さん」


こちらにも挨拶、俺達も挨拶を返す。サシャと家族の会話、ラングさんは優しい父親の顔をしている、一人の戦士である前に父親だからね。


「しかしお前は家を出ていった身だ。内容によってはすぐに追い出す」


シビアな顔つきになるラングさん。それはそれこれはこれ、当然の対応だな。マリウと家宝の金属の件を話す。なるほどといった様子のラングさん。試すだけならということで、執事さんに話しかけ持ってきてもらうことに。執事さん二人が重そうに運びながらこちらに家宝を持ってきた。


「その昔空から降ってきた金属だそうだ」

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