第40話 吸血鬼と魔王
今日もエルと二人で街をぶらつく。そろそろ夕方。おっといけない、買っておかないといけないものがあったな。まずい、全部買うとなると集合時間に遅れてしまう。
「二手に分かれて買い物をしましょう」
それなら時間的に間に合うな。欲しいものを書いたメモを渡し、エルと別れ買い物へ。購入後宿屋へ。二人は来たがエルがなかなか来ない。街に不慣れだから場所がわからないかな。一応地図は持ってはいるけど。待っていると宿屋の女将さんが帰宅、手紙をこちらに持ってきた。
「情報屋の人から受け取ったんだけど」
手紙を受け取り読む。
「親愛なるハジメ殿。駄目ではないか、彼女を一人にしてしまっては。返して欲しくば深夜に共同墓地へ来い」
これは、文章からしてエルは誘拐されてしまったようだ。くそっ、こんなことになるなんて。一体誰だ、魔法の国に気が付かれたか? 彼らは手紙を出してまで俺達を誘い出すようなことをするだろうか。魔王の件を知られているから始末したい? 俺達を始末したいのなら俺達もさらうはずだ。それに街が静かなのも気になる。魔王が暴れ話題になりそうなものだが。大人しく捕まったのか? どちらにせよ彼女がさらわれてしまったのは確か。墓地へ行くしかないだろう。深夜、宿屋から墓地へ。入口から入る。小さな小屋がある、他はお墓だ。墓地の奥から誘拐犯達が現れる。しかも結構な数だ。まてよ、見覚えがある。彼らはマジックショーに居た宵闇の団の人達だ。まさか魔法国の追ってか? 後方に棺桶を引きずる者がいる。そしてその隣には意識を失い十字架に張り付けられたエルが。棺桶の中から人が出てくる。マジックショーで岩を持ち上げていた女性だ。高貴な者と思わしき佇まい、高そうな召し物。そして特徴的なのが牙。そう、彼女はまるで吸血鬼。
「私はパイン、ようこそ宵闇の団のショー会場へ。攫われてしまうのは大きなマイナスだな、彼女の騎士様。さあこの後はどうかな?」
武装した団の人がこちらに。こちらも戦闘態勢を取る。相手は三人、騎士、格闘家、剣士。
「死ぬなよ、少年」
戦いが始まる。格闘家が蹴りを放ってくる、難なくこれを盾で受ける。ほぼ同時にサシャが剣で騎士を攻撃、盾で受けられるが、格闘家の孤立に成功、そこを弓で狙う。肩をかすめダメージ、剣士がサシャに斬りかかるがこれを交わす。ほぼ同じレベルのようだが技術と連携力で彼らを上回っている。そのまま難なく彼らを倒す。
「ほぉ、やるではないか。ではこれでは?」
「ボス、出番ですね」
水面を足踏みで浮いているふんどしの男と胴体を切断された男。面白い組み合わせだが水面に浮くくらいだ、実力者なのは確か。どう考えても彼らには勝てそうにない。二人に目配せを。こういった場合の対処法はすでに相談済み。シールドブレイクを発動、それを地面に向けて放つ。分解された大量の土砂が彼らに飛んでいく。そして後ろに向かってダッシュ。三人小屋に入る。
「強者と理解し逃げるのは賢い。だがそれでは守れんぞ」
「……、もういい。わかった、お前に従おう。中級者の彼らではもしもの場合自分の身すら守れない」
どうやら魔王は目を覚ましていたようだった。彼女になにか吹き込まれて演技をしていたようだが。入れ替わるように、トータルライズを発動した俺が外に出る。
「なるほど、そういうことか。どうも力を試しているようには感じていたが」
「なっ、それがお前たちの奥の手か。面白い」
「俺っち不死身だから手加減しなくていいからな」
「お言葉に甘えて」
瞬時に近づき彼の頭上へ手刀打ちをお見舞いする。空気を切り裂き音速を超えた手刀が直撃、彼を切断しながら肉体を破壊、残った身体を連打の拳で打ち抜き彼の体は細かい塵状に。袋に詰め、封をする。
「やりすぎだ!」
袋の内側を叩きながらクレームを飛ばす男。さすが不死身、生きている。この惨劇を見ていたふんどしの男。手を震わせながらも戦闘の意思はあるようだ。ぽつりぽつりと雨が降ってくる。
(奴が動いた。どういうことだ、あれではまるで空中に浮いているようだが、まさか飛べるのか。いや違う、雨粒だ。落ちていく雨粒の上を奴は渡っている!)
参りました! と武器を捨て手を上げる男。勝負あった。
「ふむ、いいだろう、私がお相手しよう。こちらについて来い」
場所を変えるようだ。かなりの速さ、普通の人間ではなさそうだが。
「貴様とは本気で戦いたい。今回の誘拐の件と我々の正体を教えよう」
彼女は思っていた通り吸血鬼。そして吸血鬼は人間から迫害を受けてきた。本当なら争う気はなかったがいつしか人間と戦うことになってしまう。しかしそれを救ったのは魔王。やさぐれていた吸血鬼をねじ伏せ、向かうべき道を説く。その言葉に痛く感動し迫害を受けている人達を保護する宵闇の団を結成。彼女に付き従う、だがその後、彼女は魔法国の人間に操られるようになる。こうして彼女は吸血鬼に告げる、私を殺してくれと。
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