第39話 マジック

サシャとリーナは用事があり今日はエルと二人で過ごすことに。街に来て間もないから観光がてら街の中を見て回ることにした。どうせならといつもはいかない地域へ。


「大きな街ですね。魔法都市よりも大きな都市があるなんて」


生まれも育ちも魔法の国の魔法都市の彼女。目を輝かせながら観光を楽しんでいる。俺もここと魔法都市くらいしか大きな街に入ったことはないんだけどね。お腹が空いてきた、そろそろお昼。オープンテラスと店で食事を。


(ん、あれはハジメ。それと女の子? こんな遠くで二人で密会……。ということは考えられることは一つ。やるじゃない、サシャとリーナがいるというのに!)


食べ物が運ばれてくる。エルの前に二人分の料理が並ぶ。


「ふふ、もう一人いるからですかね。とてもお腹が減るんですよ」


お腹を擦りながら少々恥ずかしそうに話を。大食いだから恥ずかしいってところかな。そもそも事情が事情だから理解はしている。それに冒険者だから大食いでも問題はないと思う。獲物を求めて歩き回るからね。そこまで動かない魔法使いでも意外と運動している。


(お腹を触りながら頬を赤らめたくさん食べてる! もうそんな関係だったなんて、二人に知らせなくちゃ!)


観光して夕方に。今日からいつも世話になっている馴染の宿屋へ向かう。女将さんは元気でやってるかな。サシャとリーナが息を切らしながら近づいてくる。もしや緊急事態が?


「まあそんなことだろうとは思ってたけど。もー、おばちゃん」

「?」


とある日、狩りをせず休暇をいれる。皆で街を見て回っていた。途中公園で休憩する。公園では慌ただしく変わった服装の人達が動き回っていた。


「何かあるんですか?」

「三日後にマジックショーがあるんだ。よかったら見においで」

「へー、面白そう」


二日後、狩りから帰ってくると公園で見た人達が街でチラシを配っていた。


「明日、世界各国から集まった珍芸、奇芸が見られるよ~」


チラシを見る。世界を股にかける奇術集団、宵闇の団、か。大道芸にマジックショー、サーカスっぽいやつもやっている。面白そうだ。当日、開催場所の公園へ。


「わー、すごい」


魔術師が杖一本で浮いている。驚く二人、俺も一緒になって驚く。しかし、残念ながらそのマジックの種は知っている。杖下方の先端は金属の板につながっていて、杖上部から出ている金属の棒が袖を通してあぐらをかいた足元の鉄板につながっている。そう、ただ座っているだけだ。それにしても金属の板を巧妙に隠しているな。本当に杖一本に見える。妙に手がプルプルとしているが長時間座ってるだけって意外と疲れるんだよね。


「さーこちらでは人体切断ショーだよ!」


男性が台に乗りうつ伏せに、その体の上に箱を乗せる。頭、下半身は足の先端が見えるだけ。台を回転させ何も仕掛けがないとアピール。大きな回転式ノコギリが登場。勢いよく回り箱を切断していく。


「ギャーー!」


声を上げる男性、ノコギリは無常にもそのまま下まで降ろされ完全に切断される。台を離して見せる。しかし男は生きている。きつそうだが笑顔でショーは終わる。これも有名なマジックだね。箱を乗せ、回転したときに下半身を下にいれる。下半身は下に潜んでいる人が出す。つまり二人いる。下側は鏡になっていて足や後ろの人は見えない構造。それにしても迫真の演技だった。まるで本当に斬られたようだ。血しぶきもリアリティーがある。血糊には見えない、そこもこだわってるのかな。本格派なマジック集団だな。


「インチキだー!」


やれやれ、野暮な客がいるものだ。マジックなんだからインチキ、種があるのは当たり前だろ。乗り込んで切断された男性の近くへ。おいおい、酔っ払っているのか、やりすぎだ。だが次の瞬間男は驚き謝り帰っていった。我に返ったのかな。まあやりすぎちゃったなと気がついたんだろう。酔っ払って暴れて警察に保護されて朝平謝りなんて人もいるとか。気が大きくなっちゃうんだろうな。今度は水面に浮くマジック。まずは司会の人が小さなプールに入る。もちろんそのまま水中へ、びしょ濡れに。今度は男性が水面へ。見事沈まない、水面に立っている。これは見えないガラスの板を張っている。夜だからなおさら見えないね。それにしても足がぼやけて見えるな。夜だから見づらい? いや、ちょっとおかしいぞ、まさか。


「クイックステップ」


付与魔法をかける。すると男性が水の上で超高速の足踏みしていることがわかった。妙に力んでたし、すごい血しぶきだった。このマジック団体はもしかして。


「巨石消滅! さあ目の前の大きな岩が消えてなくなります! では一瞬だけ布で隠しますね」


建造物とか城を消すマジックの系統かな。よくある手としては見物人が居る場所が回転できる装置の上にあって回転させてはい、消えましたよだが。あまりにも気になり悪いと思ったが裏に潜入する。


「ワン、ツー、スリー、はい巨石が消えました!」


俺は見てしまった。岩を軽々と持ち上げ移動する女性を。先ほど斬られていた男性が彼女に話しかける。


「ボスー、俺不死身だからってやっぱ痛いんだけどよー」

「お前のショーが一番受けが良かったぞ」

「なら次もやる!」


確定してしまった。宵闇の団はマジックではない。力押しの集団だった。

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