第38話 魔王とエル
魔獣と戦闘をしながら会話をする。魔王が起きているときでもエルには意識があるようだ。そして二人は意思疎通ができる。自殺はエルも納得の上の行動。何故そこまですると尋ねる。
(私が覚醒した事が分かればこの体を利用し、世界征服を狙うだろう)
過去に起きた魔王が暴れた話は魔法使い達が彼女の力を操り作り上げたストーリーだった。こうして功績を称えられた彼らは国を手に入れる。今度は力を使い世界の支配に乗り出すという。しかも失敗したときのことを考え、魔王に仕方なく従っている状況だということにするようだ。姑息な奴らだ。
(そして私の正体なのだが)
彼女は過去、魔法使い達によって作り上げられた人造魔王。レアスキルや人体実験による所業は過酷を極めた。その恨みからか、本人が死んだ後もこうしてレアスキルとして蘇ってしまったようだ。ちなみに分離するレアスキルは嘘のようだ。人を操るレアスキルは存在する。かなり厄介なスキルだな。筋書きとしては魔王が暴れ、分離スキル持ちが殺され、魔法の国が乗っ取られる。うーん、これこそ信用してよいのかどうか。相手は魔王だからな。言葉巧みに俺達を騙そうとしていると考えることもできる。しかし、死のうとした姿勢は本気だった。俺が時を止めなければ彼女の頭は撃ち抜かれていた、演技ではない。彼女が死ぬことで世界は平和になる。そうだな、信じてみよう。
(しかしどうすれば)
相手は国だ。まともに相手するとなるとかなり大変だろう。なら死んだことに? そうすると活動ができなくなる。大人しく隠れる、これでは解決してないな。最悪見つかると予定通り世界征服か。サシャが戦いながら俺に小声で話しかける。
(考えがある)
ある日、いつものように魔法都市の近くで狩りをする。そして突然、魔王が覚醒。
「くく、復讐してやるぞ人間ども」
魔法を使い俺達を弾き飛ばす。異変を感じた近くに居た人が魔王に近づく。顔を布で覆っていて何者かはわからない。
「ようやく正体を現したか。その力、いただくぞ」
魔王の首を手で握り持ち上げる。苦しそうにする魔王。そして急に雰囲気が変わる。本体のエルに戻ったようだ。
「あーっはっは、これで俺が最強だ!」
こうして男は超高速で立ち去っていった。近くに居た魔法都市の人が駆けつけたがすでに事は終わっていた。彼らも逃げ去る男を見ている。どうやら謎の男により魔王の力が奪われたようだった。レアスキル魔王が無くなったと証言するエル。こうしてただの魔法使いの少女に。魔法都市はこの男を捜索することに。そして魔王と分離したエルは自由の身となる。十日後、約束の期限となり、街に戻る俺達。謎の男はまだ見つかっていない。
「そりゃ見つかるはずはない。謎の男は俺だからな」
全て演技。当然魔王もエルの中にまだいる。弾かれたときにうつ伏せになり、時を止めて人形と交代、謎の男に変身。そして演技をしてクイックステップで走り去る。彼らを見事騙せたようだ、うまくいった。
「今度こそ本当に仲間だなよろしく」
「よろしくお願いします」
こうしてエルと魔王が仲間になった。エルは常に敬語で話していたからこちらのほうがいいと答える。馬車に揺られながらの帰り道。
「ここで一泊していこう」
「力も見せてもらおうかな」
途中宿場町に寄り、そこから外に出てエルと魔王の力について聞く。
「エルの場合は普通の中級者魔法使い。私が出ている場合は全魔法を使える魔法使い」
今の魔王は魔力がちょっと高いくらいの中級者魔法使いのようだ。彼女を操りレベル上げをして強くなったところで世界を支配しようってところか。いや、そこまで待たなくても全魔法をある程度の強さで使えるってだけでも十分か。それだけで彼女が魔王という証拠になる。魔法国としても強さはそこまで関係ないだろう。魔王という名が欲しいだけ。
「おー、身っ軽ー」
ただ全魔法を使えるのはやはり強力。リーナにクイップステップをして実際速くなる。俺のスキルとは違い効果があるようだ。当然回復魔法も攻撃魔法も使える。強いね。街に帰ってきた。ルーラーさんに相談しよう。
「こいつは参った、でかい話だな」
国に伝わると魔法国との戦争になる可能性がある。人間同士が今争えば喜ぶのは魔人だけ。それだけは避けたい。かといって放置をしておけない。話が分かる国側の人に伝えておくかと厳しい顔をしながらつぶやく。翌日レヴィさんに会いに行く。
「よかった、結果分離できたんだね」
喜ぶ彼女、エルに抱きついている。嘘を付くから心苦しいが彼女には秘密にしておくことに。もし魔法国に話がいってしまうとどうなるかわからないからね。
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