第35話 新たなる強者の影

朝目覚め、食後伸びをしながら宿屋から出発。高級宿屋の従業員が慌ただしく動いている。朝から忙しそうだ。


「盛況だな」


平和ではあるが、現状は魔人との戦争が始まった状況にある。砦の戦いが終わった後、各国が話し合い、共に魔人と戦う協定を結ぶことに。こうしてこの国に力が集結していく。現在は人間側が勢力を広め、森林部を掌握、地図を塗り替えた。森を越えると平原が広がっている。魔人が襲って来ても、こちらから見やすく守りやすいと有利に戦いを進められる。残った砦には隣国、魔法の国の猛者達が主に守護している。周辺は魔法の国の領土となった。俺が破壊した砦の場所に現在また砦を建設している。付近の森はこの国の領土に。そしてもう一つ砦を作っている。ここには各国の精鋭が集まる予定。もうかなり出来上がってきていて、各国から人が集まってきている。狩りを終えその日の夜、ルーラーさんに三人とも呼ばれる。


「剣の国からの使者がこの国最強候補の剣士オニギリと手合わせしたいと話し、実現することになった」

「使者の方の腕は?」

「皇下五剣の一人、細剣使いのケイン。かなりの腕前だ」


皇下五剣は剣の国の強い剣士、上位五人に与えられる称号。剣士だらけの国の実力上位の人だから当然強い。この戦いは秘密裏に行われる予定だとか。


「サシャは剣士だろ。剣士同士の戦いは気になると思ってな」


それで三人呼んだわけか。彼女は嬉しそうに返事をする。俺も気になるな、オニギリ対ケイン。当日は二人を袋に入れ、現場へ向かうことに。そして手合わせの日。


「さあ行こう!」


率先して袋に入るサシャ、やはり戦いが気になるようだ。トータルライズを使い二つの袋を担ぎ戦いの地へ。乗り心地を考えながら木から木へ飛び移り進む。今回は気配を悟られないようにしないとな、現場近くはゆっくりと近づく。木々の隙間、遠くに馬車が見えてきた。隠れるのに丁度いい木を見つける。よし、ここからならよく見える。二人が袋から顔を出す。オニギリのPTと羽帽子に貴族のような服、細剣を持つ男と仲間の剣士達が向かい合っている。細剣を持っているのがケインかな。ガウスさんとディーラさん、ラングさんが彼らを見守っていた。なるほど、情報はここからか。


「オニギリ殿、手合わせを受けていただきありがとうございます」

「いえ、むしろ戦いたかったのはこちらですよ。天下に名を馳せる皇下五剣の方と剣を交合わせることができるなんて」


帽子を取り、胸に手を当て丁寧なお辞儀をするケイン。ミドルな紳士と好青年か。倒れる女の子が現れそうな組み合わせだ。お互い挨拶をし、仲間達が離れていく。オニギリは模擬刀、ケインは刃がなく先端が尖っていないレイピアを構える。


「始め!」


戦いが始まる。ケインはフェンシングの構え、動きに近いな、突き主体の攻撃か。非常に軽やかなフットワーク、動きを読みにくいな。対してオニギリはジリジリと近づく。瞬間ケインが突きを放つ。かなり高速な突きだ。オニギリは突きを刀をひねって弾きながら突きを放つ。バランスを崩すまで至っていなかったようでケインはそのままレイピアを下げ後ろに下がり突きをかわす。ホゥと嬉しそうにする声を発する。ここからケインが本気を出す。戦いは終始ケインが有利に進める。こうして手合わせが終わった。


「まさかここまで差があるとは」

「細剣は対人戦向きですからね。そしてレベルも年齢も私が上。これで負けていたら私は引退ですよ」


冗談を言うケイン、つられてオニギリが笑う。まさかオニギリを圧倒するとはな。和やかな会話が続く。


「その太刀筋、無双と呼ばれたナカト殿の面影があるようですが」

「はい、師です」


しかしナカトさんはもう亡くなっているようだ。悲しそうな顔をし、深々とお辞儀をする。挨拶をしてケインは馬車に乗り帰っていった。そのまま剣の国へ帰るようだ。その日の夜、高級宿屋街の通りにケインさんが乗っていた馬車があるのを見かけた。


「道に大岩がはまり込んで進めなかった。一旦街に戻ってきたってさ」


岩山を削った道、そこに大岩が落ちて通れなくなったようだ。ここを進めないとなるとかなり遠回りになるんだよね、山を迂回しないといけなくなる。そうだ、片付けてしまうか。皆が寝静まった頃、トータルライズを使い街から飛び出し大岩へと向かう。崖に落としてしまえばいいだけだからそこまで大変ではなさそうだ。


「確かこの辺りのはず。こ、これは!?」


道を塞いでいたはずの岩が崖下に落ちている。人間の力ではとても動かせないような大きさだったと聞いていた。地面に一直線の筋を見つける。これはフルスラッシュの剣筋。異常に長い。落下した大岩をよく見るとまるで剣で斬ったような、一直線に分断されている箇所があった。まさか剣であの岩を? 


「いるっ!」


一瞬気配を感じたがすぐに消えた。その後は気配を発さなかった。間違いない、剣でこの大岩を破壊したんだ。おそらくこの威力は俺がいなければ一位の威力だろう。誰かはわからないが今近くに来ていることは間違いなさそうだ。

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