第33話 殺し屋

「イデオを確保した」


ついにイデオを再逮捕、雇われた者も捕まる。隠れ家を取り壊し、隠し金の没収。徹底的に追い込んだようだ。これでようやく安心して冒険者家業を続けられるかな。


「殺し屋ギルドの長、サークさんが会いたいそうだ」


裏社会を牛耳る人達でも彼にだけは逆らえないという裏のトップ中のトップ。殺し屋ということもそうだがその実力も計り知れないとか。


「猫のような気性の人だ。気まぐれ。じきに来るから気をつけてくれ」

「人を猫とは、ルーラーそれは失礼じゃないか?」


建物内から声が聞こえた。外に出てくる、被り物をしていて顔はわからない。仲間の冒険者ではない。それにしてもどうやって侵入したのだろう。見晴らしがいい場所からずっと見張っていたはず。ざわつく現場、明らかに動揺している冒険者達。


「はは、これじゃあ盗まれ放題だぞ」

「サークさんが相手ならどこも安全ではありませんよ。それにアナタほどの実力があるなら盗みなんていう狡いことはしないでしょう」


この人がサークさんか。ナイフをくるくると飛ばし遊びながら移動している。珍しくルーラーさんが緊張している。サークさんが俺の前に座る。


「この子が狙われた子か。最強ということで召喚されたんだっけ」


飄々としているようで、目は笑ってない、奥にはどす黒い闇が見える。只者ではなさそうだ、怖いからラックプラス入れとこ。


「気に入らないなぁ、俺を差し置いて最強だなんて」

「いやー、ホント勘弁してもらいたいですよ。逆恨みまでされるし」


サークさんの動きが止まる。すかさずルーラーさんが会話に入る。


「公開の刑を見せるんでしたよね」

「ああ、それを伝えたくてね」


通常モードに戻る。うーむ、掴み所がないな、コミニケーションが取りづらい人物だ。刑というのは特別なもののようだが、来てからのお楽しみだというサークさん。それだけ伝えると家から去っていった。冷や汗を流しているルーラーさん。


「見えてなかったか?」

「何がです?」

「ナイフを高速でお前に向けて突いていたぞ」


うわっ、怖っ。そうかステータスを上げてないから見えてなかったのか。それにしても危ない人だ、やはり裏の人、殺し屋なだけあるね。


「俺のナイフが全く見えてなかった。強者ならイヤでも体が反応するはず。本当に弱いのか、それともそういう能力なのか。にしてもがっかりだな、いつでも殺せそうだった。砦の化け物に続いて強者を見つけたと思ったが」


刑の執行日、国から呼び出され牢獄へ。そこはマジックミラーのようになっていてこちらからは丸見えだが向こうからはこちらは見えない。サークさんがイデオを連れ中に入ってきた。暴れるイデオ、彼を押さえつけるサークさん。


「くっ、貴様、何をするつもりだ!」

「なーに、死よりも辛い罰を与えるのさ」


そんなものがあるのだろうか。サークさんの手が薄っすらと怪しく光る。その手をイデオの首元へ。肌に当てると光が少し強くなる。そして光が消え手を離す。さっきまで元気に暴れていたイデオがピクリとも動かなくなる。まさか、いや生きている。まるで力を失ったかのように地面に突っ伏せている。


「か、体が重い」

「ああ、貴様はレベル1になった」

「貴様っ、なんてことを!」

「サークさんのスキル、レベルバニッシュだ」


なんと相手のレベルをレベル1にしてしまうレアスキル。あー、人によってはかなり辛いな。特に熟練の人は。恐ろしいレアスキルがあるものだ。イデオは力なくその場に倒れている。レベルを落とされ気力を失ったようだ。わざわざイデオに喧嘩腰にしていたのはサークさんに逆恨みが向くようにとのこと。一度逃げ出しているからな、もしもということは考えられる。今回は死刑にするほどでもないが危険人物なのは確かだからこの刑に。狙われたけど俺も死んでないしね。刑が終わり解散。こうして俺は普通の低レベル冒険者へ。そのまま飲み屋へ直行。


「悪徒の街の件は伝えてなかったな」


あれから悪徒の街は解体されることになった。一層二層の人間をさらわれていたわけだから維持はできないよね。強面のおっさんは元気にしてるかな。


「いやー怖い人でしたね、サークさん。能力も」

「魔人には通用しないが対人ならかなり有効だろうな。それに」

「それに?」

「どうもそれだけではなさそうだ。明らかに強すぎる」


ルーラーさんの冒険者達は高レベル冒険者。その彼らの目をかいくぐって家に侵入するのは容易ではない。瞬間移動でも使えるのか? いやそれは不可能だ。レアスキルは一人一個が鉄則。すでにレベルバニッシュを持っているわけだから他のスキルを持ってはいないはず。目の前でスキルを使っているところを見たしね。強者であることは間違いなさそうだがとにかく謎が多い人だ。

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