第31話 見えそうで見えない
(奴が標的のハジメか。師匠は優秀な暗殺者だった。弱点というわけでもないが、ナイフを舐める癖があった。だからこのナイフを買うのはやめとけってあれほど言ったのに……。まあいいさ、その分俺に金が入る。もう働かなくてもいい額がな。間抜けは死ぬ、それが俺達の世界の掟。さあハジメ君、俺は師匠ほど馬鹿じゃないぞ。殺人旅行を再開しようじゃないっっっ)
近くで誰かが転がる音が聞こえた。
「バカヤロー、いてーじゃねえか」
「すみません」
獣人でも珍しい種、バナナの皮人を誰かが踏んで転んだようだった。見た目はそのままバナナの皮、そして小さい。下を見ながら歩く人間はそんなにいないからお互い不運だったと思うしかないな。
(くっ、なんて迷惑な生物だ。あ痛、指を切っちまった……)
「また誰かが落ちたぞー!」
二人目か。お酒の飲み過ぎなのか自殺志願者なのか浮かび上がってこない。それでは助けようもない。こうして船旅は終了、結局誰も襲ってこなかったな。あれだけ警戒していれば襲えないか、それかブラフかも。俺を脅し驚かせようとしたたのかもしれない。警戒しながら船から降りる。船員さん達は慌ただしい、二人行方不明だからな、当然か。街でも外で飲めて一日中開店している店を選ぶ。警戒していると、この街の情報屋が声をかけてきた。
「言伝を預かりまして」
東と北の港を牛耳っている殺し屋グループの長からの言葉。どうやら彼らはその暗殺を断ったが金に目がくらんだ二人組が依頼を受け行動してしまったようだった。
「結局誰も来ませんでしたけどね」
「ご無事なら何よりです」
殺し屋といっても誰でも依頼を受けるわけじゃないんだな。まああの人は国を滅ぼそうとしてたしちょっとあれな人だからな、受けるわけないか。それに国を敵に回すのもね。聞くとイデオは牢から逃げ出しているようだった。金は大量に隠し持っている。金さえあればどうとでもなる、人を魔人に売るようなやつもいるしな。それにしても厄介なやつに目をつけられてしまった。は~、勘弁してよ。
「お詫びと言っては何ですが、この街にいる間の安全は保証してくれるようですよ」
「申し出はありがたいのですがその」
サシャが言いにくそうにしている。相手は殺し屋、そのまま受け取ってもいいのかどうか。俺ならはいっと二つ返事で応えようとしていたが確かにサシャが考える通りだな。
「そう答えると思いまして」
「よう、どうしてもって良い金額積まれてきてみたらお前らか」
馴染のベテラン冒険者だった。ふむ、この人達なら問題ないな。オフでこの街に来ていたが金を積まれ仕事をすることに。ここまでするなんて、殺し屋の人達は本気だ。話がつき宿屋へ行くことに。向かう前に情報屋にこっそり止められる。
(これはハジメ様専用のお詫びです。どうぞお楽しみください)
(こ、これはまさか)
久しぶりにゆっくり寝ることは、出来なかった。情報屋からいかがわしいチケットを頂いてしまった。ふむ、彼らの思いを無駄にするのは悪いね、いざゆかん! 夜寝静まり、ベテラン冒険者には言って宿屋から脱出。お前の身に万が一のことがということでベテランさんもついてきた。アンタも好きだね! 怪しい店に入る、俺はチケット、ベテランは金を払う。
「さあ夜はこれから! 美しい舞をご覧ください!」
熱気があるショー。少しずつ女性が服を脱いでいく。ある程度脱いだところで脱がなくなる。
「なんでぇ、全部脱がないのか」
ハハハ、ベテランさんは素人だな。見えそうで見えない、これが良いんじゃないか。お店の人はわかっている、プロだな。モロの漫画より少年誌の一瞬Hな場面のほうが燃えるだろ!
「ハジメさんだね。私はこの街の者だ。申し訳ないがこちらを向かずに話をしてもらえるかな」
後ろに何者かが座り、声をかけてきた。殺し屋関係の話かな。
(この少年は何故死体をさらさず海に投げ捨てたのか。おかげでこちらは恥をかかずに裏で処分できたが、彼にとってはむしろ悪いことなはず。こいつが狙ってきたと喧伝すれば抑止力になるからな。何を考えているのか、彼の真意が知りたい)
いいともと答える。
「何故さらさなかったのか」
体をさらけ出すってこと? この人も素人か。仕方がない、レクチャーしてやるか。
「面白くないからだ。品がない。見えそうで見えない、そのほうが想像を掻き立てられるだろう」
「!? そうか、わかった」
後ろの人が帰っていくのがわかった。ただのお客さんだったのかも、変な人だな。ショーに満足し宿屋に戻る。
「いかがわしい店は楽しかった?」
俺の部屋の前に二人が立って待っていた。あの時戦った魔獣よりも今の二人は迫力があった。言葉を間違えたらやられる、思わず生唾を飲み込む。
「あのね、罠だって可能性もあるよね」
「申し訳ありませんでした!」
(はぁ、こっちには手を出さずお店に行くとか)
確かに軽率な行動だった。ごめんなさい!
「オラッ、仕事はどうした!」
「すみませんでした!」
ベテランさんも正座土下座をしている。彼とはわかりあえた気がした。
「ボス、どうでした、あのハジメという少年は」
「説教されたよ。まるで暗殺されるのを楽しんでいるようだった」
「わけがわかりませんよ。結局何者なんです?」
「あの歳、低レベルなのに王都のルーラーともつながりがあるらしい。それにしても考え方がイッちまってる。将来大物になるか早死するかのどちらかだろうな」
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