第30話 殺人旅行

「来たか、好きなだけ飲み食いしていいぞ」


ルーラーさんに呼ばれいつもの店へ。状況報告がてら慰労、ということで食うぞ! パレードが終わり十日経過。魔人達が襲ってくる気配はない。砦跡地を見張っていた人の報告によると数人の魔人が来た後、すぐに帰っていってしまったようだ。前線基地が無くなったししばらくは襲ってこないだろう。


「魔人強化の秘密がわかった」


強化魔人の件で進展があった。スライム魔人は、強くなったスライムを食しあの姿になったという証言が。砦にさらわれ奴隷をしていた冒険者が魔人がいやいや食べているところを目撃したようだ。もう一体は強くなった獣を食べ強くなった。魔人達の話から、強化種を食べることにより強くなる、食べた生物により強さが変わる事がわかる。あきらかにスライム魔人の方が強かった。虫の強化魔獣がいるから強化魔人の強さは魔獣、獣、虫の三段階であることがわかる。エルフの村を襲ってきた魔人が言っていたのはそういうことか。


「お食事中すまんが」


ただし、人間が食べると爆死するようだ。人間が強化され強くなることはない。魔人達はそれらの強化種を「魔神王の施し」と呼んでいる。魔獣や獣の強化種が発生するメカニズムはまだわかっていない。希少であることは間違いなさそうだ。サシャを襲ったあの強化種やコロシアムで奪われた強化種は食われたってことかな。魔人は人間と違ってレベル上げがなく強さが変わらないから、魔人にとっては現在唯一の強化法になる。必死に探し回るのはわかる。そのため魔人領には決して入らないようにとの通達が全国民に。わかりました! 


「ご馳走様でした!」


帰り道、満腹になったお腹を擦りながら今後のことについて考える。一段落ってところか。これで落ち着いて低レベル冒険者を続けられる。節目ということで、どうせなら皆で旅行にでも行きたいところだ。


「いいんじゃない? ハジメは特にお疲れだろうし」

「行こう!」


二人もノリノリ、旅行決定! そうだな、のんびり船旅でも。日頃の喧騒を忘れ優雅に潮風の香りを嗅ぎながら酔っ払うのは楽しそうだ。この街から東と北に港街があり、東から北の港街への船旅プランで決まる。特に準備するものはなし、翌日、思い立ったが吉日、街から出発、馬車に乗り東の港街へ。


「いやぁ大変だったよ」

「魔人砦一人で潰しちゃうとか。まあハジメらしい」


談笑しながら馬車の旅を楽しむ。港街までは二日くらい、途中宿場街に寄り港街に到着。潮の匂いがする。小高い丘から海を見る、広大な海、水平線。やはり海はいい。ちっぽけな人間という存在を忘れさせてくれる。そろそろ晩御飯の時間、お腹が空いてきた。


「ここの海産物は美味しいよ」

「ほぉ、楽しみだ」


日本人ならやはり魚介。外国人にはない海藻を消化分解する機能を所有しているほどの海の民。遺伝子レベルって、海好きすぎだろ、むしろ引く。旅行だからちょっと高そうな料理店へ。様々な料理が運ばれてくる。はぁ、どれも俺の心をくすぐる。


「第一回、ハジメPT旅行、乾杯!」


旅行を祝い、酒を飲み、料理を食べる。うまい、魂まで染みる。魚最高! 宴は終わり宿屋にて一泊。明けて観光、次の日に船つき場へ。乗船券を買い上船、観光船だから内部施設も充実。潮風を感じながらの酒は最高。お酒を飲んでいると、情報屋を名乗る男が話しかけてきた。


「あんたハジメさんだね? 手紙を預かってきたんだが」


手紙を受け取ると男は去っていった。どんな内容の手紙だろう、封を開け手紙を取り出し読む。


「親愛なる少年へ、イデオだ。お披露目の会では世話になったな、コケにしおって。そこで貴様に暗殺者を送ることにした。くくく、殺人旅行を楽しんでくれ」


……、ええーっ、どういうこと? 俺があそこで召喚されたのが気に入らなかったってこと? かなり俺のこと睨んでいたけど。はぁ、逆恨みにもほどがある。それだけで俺を殺そうなんて、いやあの人ならあり得るか。自己紹介を聞いているせいか妙に納得してしまった。ひどい内容だったからな。


「どうしたの?」


俺の様子の変化に気がついた二人が心配そうにしている。狙いは俺一人だろうが彼女達もどうしても巻き込む形になってしまうな。二人に手紙を見せる。やれやれ、イデオのお陰でとんだ旅行になってしまった。


「この人捕まってなかったっけ?」

「そのはずだけど」


彼の現在の状況はわからないが、今俺が殺し屋に狙われているのは事実。どうしたものか。


「そうだね、このバーはずっと開いている。ここで迎え撃つのはどうかな」

「それでいこう」


サシャの案を採用。船内の客室は危険だ、密室だから毒ガスをまかれると対処が難しい上に他も巻き込み被害者が増える。このバーはオープンテラスになっている。そしてある程度人がいる。無人よりも手は出しづらいはずだ。結局のところ予定通りではあるな。ずっとお酒を飲んでようとしていたし。殺し屋が俺の命を狙う以外はね。そうだ、ラックアップを入れておこう、長時間持つしね。


(ほぉ、馬鹿じゃないらしい。こちらとしても他の人間はできるだけ殺したくないから好都合だ。だがこの俺から逃れるのは不可能よ。最近手に入れた魔装、毒のナイフの糧にしてやる。傷つけるどころか少し触っただけでも死ぬ猛毒よ。さてどうやって殺してやろう。店員に紛れ隙を見て斬るか、食べ物を魔装で切って毒を入れるか、酒に盛るか。殺し方なんていくらでもあるのよ、お前さんはもう詰んだんだ、くーっくっくっく、最後の酒を楽しむといい、べろん。……、あ、ナイフ舐めちゃった)


ザブンと船から何かが落ちる音がした。


「誰かが海に落ちたぞー!」

「もう沈んじまった、助けられん」


殺し屋に落水か。この船呪われてるんじゃないかってくらい悪いことが続くな。二日目、交代で仮眠を取りながら見張りをする。仲間がいてよかった。いくら強いといっても寝ているところを襲われたらどうしようもないからね。

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