第29話 忍び寄る強者

「なに、殴り殺せばいいってことよ」


格闘家、「ゴッドハンド」エクス。豪快な性格の男性で格闘家では最強との呼び声が高い。


「強敵です、油断しないように」


神聖術師、「神の使い」アンジー、普通の人ではなく三つ目の人間。落ち着いた雰囲気の美しい女性。主に回復スキルを扱う。種族特性があり、魔法の力が強いとか。


「我々なら倒せるだろう」


魔法使いのイブ、麒麟の獣人。角が生えていて露出多めな服の女性。この種族も魔法の力が強い。


「……」


騎士、不動のボルト、ベヒーモスの獣人。2.5メートルはある寡黙な大男。種族特性によりHPと防御力が高い。ここにいる人達は皆有名な戦士達。そんな彼らの戦いを見られるなんてね。皆魔装を身に着けている。果たして彼らはどれくらいの強さなのだろう。


(ところでオニギリ、もう一つの気配に気がついているか)

(ええ、わかってます。我々では敵わない化け物が潜んでますね、冷や汗が止まりません)

(敵だった場合、現れたら退避しよう。とりあえず奴は無視して目の前の魔人だけに集中するんだ)

(わかりました)


魔人の攻撃が始まる。スライム型は手を伸ばしてきた。オニギリは後方へ、ボルトが前に出て受ける。ダメージを受けているようだがピクリとも動かない。やはり強力な騎士だ。魔法と神聖魔法が放たれ、オニギリとエクスは回り込みコンビネーションの攻撃。五人全員で凄まじい連携攻撃、強敵であろうスライム魔人を押している。余程練習しているのか? いやそんなレベルじゃない、まるで意思がある一つの生物のような動きだ。ラングさんの部隊も優勢。苦戦するどころか彼らでは正直倒せないと思っていた。人類側は思っていた以上に強いな。魔人達の動きが鈍っている、この戦い、勝てそうだな。


(!?)

(遠くから気配が)


その気配が一瞬にして砦の中へ入ってきた。速い、とんでもない速さだ。


(化け物がもう一体!?)

(落ち着け)


姿を隠し様子見をしている。彼も戦闘には参加する気はないようだ。む、動いた。ただ無闇やたらに動いているだけのようだ。


(見、見えない)

(やつにも構うな)


それにしても異常な速さ、この速さはもしかしたら今の俺並かそれ以上。何者かはわからないがでたらめな数値の俺と匹敵するなんてかなりの化け物なのは確かだ。戦闘はグランさん達が魔人を倒しスライム魔人もオニギリの魔刀により首を切られいよいよ終焉。


「くくく、こんなに強い人間がいるとはゴポゥ……」

「黒の爆弾だ!」


逃げ出すラングさん達、ちょっと間に合わないか? ここは俺の出番だな。爆発する瞬間、魔人を上から押さえつけ地面にめりこませそこに覆いかぶさる。魔人が光り爆発。大きなクレーターが出来上がった。そして気配が消えた。彼の正体はわからないままだ。俺も見つかる前にこの場を離れ、砦を去った。


(あの筋肉の化け物と一戦交えてみたかったが敵じゃないようだし、天下分け目の決戦に遅刻して私闘までおっぱじめたら国から怒られちまう。今日は大人しく帰るとしよう。それにしてもあの魔人を倒してしまうとは、表の奴らもやるな。いつかは俺に届くかも。しかし問題は奴だ。いるじゃねえか、強者が。しかも俺よりも強い可能性がある。強くなりすぎて虚しかったが、奴なら俺のこの孤独を埋めてくれるかも。いつか戦うときが来ることを楽しみにするとしよう)


こうして人類は魔人との戦いに快勝。数日後、国を挙げての豪華なパレードが行われた。先頭はオニギリ、ラングさんのPT、国の騎士団、冒険者と続く。200人の魔人が居た砦が一瞬にして崩壊した件に関してはルーラーさんが頑張ってごまかしてくれたようだった。俺達はまだ低レベルPT、目立ちたくないしね。大変だったぞと苦笑いしていた。ここまで強敵達と戦ってきたが魔人領のあの魔獣が今のところ一番強いな。魔人、しかも強化した魔人よりも圧倒的な強さ。そうか、ようやく分かった。


「迷い込んだところはラスボス倒した後に行くようなところだったんだな」


ゲームではクリア後のお楽しみとしてラスボスよりも強い敵が出ることがある。たまたまそこへ行ってしまったわけだ。謎は解けたな。


「オニギリー!」

「エクスー!」


人気を二分している二人。好青年にやんちゃ系、女性の心をわしづかみ。民衆にも豪華な料理が国から振る舞われた。パレードは三日三晩行われ、民皆が二日酔いかというところ。


「我々が悪しきを破り国を守ります。皆さんはどうか健やかにお過ごしください」


騎士団長の一言でパレードは幕を閉じた。こうして勝利を派手に祝うことで民衆の不安を払いたいのだろう。戦いが始まり人が逃げ出したり弱気になると国力が弱まり負ける可能性が高くなる。士気というのは非常に大事。


「今回も全部ハジメが?」

「いや、強化魔人はオニギリさん達が倒した」


真剣な眼差しをラングさんに送るサシャ。


「ラングさん、強かったよ」

「うん、父さんは強い」


父にして目標、いつかは越えたい存在。


「じっくり強くなっていこう」


俺がそういうと彼女はにこやかに微笑んだ。

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